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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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殺人鬼編 31話 勤勉な復讐者18

「正解ですぅ〜。でもでもぉ〜ダメですよぉ〜こんな奴の命を救おうとするなんてぇ〜」


 髪型は黒髪で三つ編みの御下げ。甘ったるく伸ばした様な声。兎のような白い肌の上には夥しい縫い後が幾つも。片目の黒目は髑髏の形となっており、あの頃と何も変わらない『収集家コレクター』──『アイツ』の姿がそこにはあった。


「……何の用だ。ワタシを殺しに来たか?」

「ふふふ〜初めて会った時もそうでしたけどぉ〜そんな事勿体無くて出来ませんよぉ〜」


 百合ゆりの顔で恍惚とした表情で私を見つめてくる『アイツ』は今何を考えているのだろうか。


 私は自身の特異能力エゴを用いて、『アイツ』の思考を読もうとするが、全くと言っていいほど分からない。何か妨害を受けているのだろうか。やはり『アイツ』は私と同じ特異能力エゴを発現させ私の予測に干渉しているのか。


「……勿体無い? まるでワタシを殺したく無いみたいな物言いだな、『収集家コレクター』」

「まぁそうですけどぉ〜。その呼び方いい加減やめてくれませんかぁ〜? 私には竜胆りんどう柘榴ざくろっていうちゃんとした名前があるんですからぁ〜」


 本当の目的を悟られたくないのか、誤魔化すように頬を膨らませフグのように不貞腐れた顔となった彼女は初めてその名を私に教えた。


「めんどくせえな。オマエのつまんない名前なんかに誰も興味なんかねぇよ」


 否、興味がないのは本心にしたいところあるがどこの誰かさえ判れば戸籍を洗い出し、コイツの正体を掴む鍵になる。


「相変わらず、悪態のつくのが好きなんですねぇ〜素敵ですぅ〜蘇芳すおうちゃん」

「気色悪い事を言うな。ここで私がオマエを殺してもいいんだぞ?」


 既に臨戦体勢に入っていた私は黒いERG(エルグ)を周囲に纏う。そしてそれを見るとコイツは微笑み言う。


「『完成』に近づきましたね〜『ワタシタチ』の目がアナタの身体に咲いていれば〜今頃はその特異能力エゴだけで私を殺せるくらいの質量を操ることができたのでしょうけど〜」

「……」


『完成』──それは私が強くなる事を意味するのか? 今迄のコイツの犯した罪を数えるとその対象は私だけでは無いのであればその対象は私以外にもあり得る。それを裏付ける証拠に百合ゆりを殺したことも不本意だと言っていた。


 だが、なら何故私達を強くして何をしたい? まさか、殺されたいのか?


「正解ですぅ〜私、愛してる人間に殺されたいんですよぉ〜」

「ッ……⁉︎」


 心を完全に読まれた……? 私の特異能力エゴの応用か? いや違う、私でもそんな事全力解放しなければ出来ない。ならば考えられるのは元々そういう能力を持っていた。もしくは……そうか、欲の強化──『調律ハーモニクス』による私の特異能力エゴとの調和。特異能力エゴの複合。それがコイツの一番厄介な点。


 それにメディアの情報操作を行っている護衛軍所属の准尉──箱柳はこやなぎ勇気ゆうきも『収集家コレクター』の被害者。彼は『収集家コレクター』に削ぎ取られた故に"castratoカストラート"となっていた筈。特異能力エゴは『人格形成フォーミングアイデンティティ』。他者の人格を身に宿す特異能力エゴ。それさえあれば『通過儀礼イニシエーション』無しに他人の特異能力エゴを100%の出力で使えるのにも納得できる。私の人格を宿した上で『知能向上インテリジェンスインプルーブメント』による予測を行えば心も読むことすら可能……!


「流石、蘇芳ちゃんの願いですぅ〜。『知能向上インテリジェンスインプルーブメント』、でしたっけぇ〜。もうそこまで辿り着いたんですねぇ〜」


 だが他者の特異能力エゴを使うには相当の負担や演算、そして感情の揺らぎから来る精神疲労を脳に与えることになる。私でも『陰影舞踏シャドウダンス』だけでさえ、『知能向上インテリジェンスインプルーブメント』の補助があってもかなり疲れる。


 それをあと何個だ……?


『知能向上』、『陰影舞踏』、『死体操作』、『調律』、『人格形成』、後は樹教の蟲を操る能力……


「『強制催眠フォールスリーパー』と『中継地点レイジーリレー』もですよぉ〜」

「……ッ!」


 合計8個の特異能力エゴか。何故私に教えたのか分からないが嘘は付いていない。こちらの手の内がバレれば即詰みもあり得る。


「まぁまぁそう身構えないでくださいよぉ〜私を殺してもらう為に親切心で教えてるんですからぁ〜今回、私は何もしませんよぉ〜」


 そういうと先程首が取れたはずのあの男の死体がひとりでに動き出す。……白夜はくや特異能力エゴ、『死体操作マリオネットコープス』か。


 対策はわかっている。その手順も私なら一瞬でできる。だが……


「う〜ん。運が良いですねぇ〜蘇芳ちゃんは。別に対して思い入れのない人間を殺すことくらい勿体無くないでしょう〜? 本当なら蘇芳ちゃんのお友達をこうしたかったのですが〜蘇芳ちゃんがその男に対して不快感を感じていたのでこうしてみました〜蘇芳ちゃんにとっては建設的で合理的な理由でヒトの尊厳をめちゃくちゃにできる免罪符を獲得したに過ぎないと思うんですけど〜物は試しでしょ〜? これは経験者からのワンポイントアドバイスですが〜おもいっきり力を入れてやった方が気持ち良いと思いますよ〜」


 対策は人の形を壊す事。人形のように操られた死体はその形を壊す事で支配が終わる。つまり、死体蹴り。


 紅葉もみじとかメンタルが弱い奴にやったら効きそうだし、逆に散々馬鹿にした相手にそれをできるなら私ならきっと今夜はスッキリと『眠れる』だろうな。


「魅力的な提案だ。さぞ、清々しい気分になるだろうな」


 気色悪い。面倒くさい。どうでも良い、こんな感情。


「だが、倫理観に欠けてるな。オマエ鏡見てみろよ、ひっでぇ笑顔。それが人間のする表情か。道徳のテスト0点だろ。馬鹿じゃねぇの?」

「は〜。あの頃から全く変わりませんねぇ〜そろそろ素直になりませんかぁ〜」

「悪いな、私は寝なくていいんだ」


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