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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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殺人鬼編 29話 勤勉な復讐者16

 この結果で条件を変える事で発動の有無が変わってきたので、朝柊あさひ特異能力エゴの発動には何かしらの条件が必要となるという事が分かった。


「道具に能力を付加できる条件は使用頻度か? 若しくは道具自体の所有権が強化する対象になければいけないとかそういう問題なのか?」


 否、そうでは無いだろう。特異能力エゴが人間の感情から生み出された物ならもっと別の仮説をしても良い。


「それなら『アレら』が強化できた理由が不明だな」

「成程、『愛着アタッチメント』か」

「……」

「……どうした?」


 黙って、不貞腐れたような表情を朝柊はした。この反応は正解だな。


「お前と話してると答えが早く出過ぎて、心を読まれてる気分になる」

「ハハ、悪いな。未だに出力のコントロールが出来ないんだ。自分でも抑えてるつもりなんだが」

「別に良いよ。というか、そんなに能力使って大丈夫か? 絶対寝ないんじゃないのか」


 ……そういえばそうだった。


「……忘れてた! しかしコレやると喋り方まで変わってしまうなー」


 急にアホっぽい口調になる自分に驚いた。この能力、周囲への観察力は異常に高まるが、まさか自分への関心がとても薄れるとは思わなかった。それに気づいた途端、自身でも体感できるほど知能指数が一気に下がった気がする。


「何というか……難儀な能力だな。頭を使うと眠くなるなんて。別に会話レベルを私に合わせんでも良いよ。というか、本当に小学生かよ」

「アサヒ、オマエモナー」

「んー……そういえばそうだが、お前今の顔鏡で見てみろよ。『ぬ』と『ね』の区別の付かなさそうな顔にアホ毛が生えてるぞ」

「なんかどこかで聴いたことあるような表現だなー」


 鏡を見ると実際に何故か髪の毛が少しだけ意識を持ったようにピクピクと動くのが見えた。


「えぇ……何コレ、キモいー」

「だからアホ毛だろ、特異能力エゴの副作用かなんかじゃねえか?」

「……んな訳ー」


 ダメだ。眠気が酷い。この状態を保てれば特異能力エゴを使っていない時よりは数段考えることは出来そうだけど、直ぐにでも意識が飛びそうだ。


 ふらりとベットの方へ身体を向けようとした瞬間、朝柊が私に近づいた。


「ほい、『調律ハーモニクス』と」


 彼女に再び触られた瞬間、脳に霞がかかっていたような感覚を払う事ができるようになり、頭の回転が出来る様になった。


「……ん。アサヒが能力を使ったのかー」


 恐らくこれは朝柊の能力で眠気が飛んだ訳ではなく、強化された私自身の特異能力エゴにそういう効果があったからこういう結果が起きたのであろう。


「あぁ……。予想通りの事が起きたは起きたが、何か釈然としないな」

「?」

「うーん、いや別に何か確信があって私は特異能力エゴを使った訳じゃないんだよ。お前の特異能力エゴ、頭の回転を早めるものじゃん。別に眠気を取る物でもなんでもないじゃん。睡眠の機序なんて詳しくは知らんが、頭の回転の速さと人が眠くなってしまうことって別に関係性のない事だと私は思うんだが……まぁなにせ感覚的なもんだと関係性があるような気もするけどさ」


 朝柊は意味深げなことを言い始めるがとくに意味もない事だろう。気にしないでおこう。


「アレだろー? よく少年漫画にありそうな大いなる力や能力にはー代償と対価が付くとかー、制約と誓約だとかー、術式開示だとかー、悪魔との契約だとかなんとかこうとかー。私の場合ー頭が良くなる代わりにー眠くなるんだよー。というか私に聴かれても困るんだがー?」

「……代償か、ふむ。ふみふみ、やっぱりお前面白いこと言うな。もし能力を使う事にあらかじめプログラムとして『決まりきった動作ルーティンワーク』だけで行う事をルール付ければれば、安全性を考慮しつつ恒常性の問題も解決できるな」

「……?」


 先程言っていた、道具に朝柊の特異能力エゴの効果を付け加える事ができるという話の続きなのだろうか。


「あー、えっーとな。さっきの話の続きだ。ふみふみが言っていた通り、私の能力の対象になれるのは強化したい特異能力者エゴイスト本人、若しくはその人の持ち物で尚且つ『愛着アタッチメント』のあるもの。もしくは、特異能力者エゴイスト自身の細胞が混ざり込んだものだ」


 ここまではさっきのおさらいだろう。それで今から話すのが『決まりきった動作(ルーティンワーク)』がどうのこうのという話。


「この条件下で行えば私の干渉が無くとも能力は自動的に発動するみたいだが、そこで問題になってくるのは使用限度があるという話。折角、体力消費を抑える為の私の能力がたったの数回で電池切れになってしまえば勿体無いだろ?」


 ここまで条件が厳しそうなのにまた条件が加わってくるのか。まぁ、確かに百合ゆりの使っていたDRAG(ドラッグ)という特異能力エゴの強化方法の副作用に比べればなんて事ない条件かもしれないが。


「確かになー」

「そこで『決まりきった動作(ルーティンワーク)』にのみ反応するようにメカニズムを組み替えれば半永久的に私の能力を持つ事ができる様な奇跡のバランスを持つ武器が出来上がる」

「それって作る時凄い大変な奴じゃないのかー?」

「でも、アイツに復讐する為には作る価値はあるだろう? その為なら何だって組み込んでやるつもりさ。その為には色んな知識や経験……私に必要なもの全部必要だ! だから、もちろんお前にも手伝ってもらうぞ」

「え、めんどくさー」

「……って言うと思ったから、この武器最初はふみふみに作ってやるよ。だから手伝えよ」


 なるほど、『強欲』だな。だから朝柊は『他人の欲を強くする能力』を得られたのか。


「仕方ないなー。ところでさー、持ち物とか武器じゃ分かりづらいし運用する時面倒くさいから名前つけないー?」

「名前か、それならそれなりにこだわった名前つけたいな。頼んだ」

「私に考えさせる気かー?」

「ふみふみならできるだろ」

「はぁ……わかったよー」


 そう言われてしまったので私は少し特異能力エゴを発動させ考える。


「名付け、武器、愛着アタッチメント……特異能力エゴ、人間の欲……感情、理由、根源=想うが故に我あり……だから自己同一性でアイデンティティ。いや、イデア? 違う、アイデア……愛着? 武器……兵仗?  愛……伝……兵仗……」


 勝手に脳の情報が口から出てくる。そして気付くと私はこの言葉を出していた。


「──愛伝。いや、『特異兵仗アイデン』だな」

「あいでん? アイデンティティのアイデンか?」

「……そうだが、うーんまぁ気にするな、恥ずかしいし」


 私は百合の事を思い出しながら、少し照れながらそう言った。



 その後、朝柊はその名前を気に入り、その名前が現在の特異兵仗アイデンを示すようになっていた。

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