殺人鬼編 28話 勤勉な復讐者15
「それで、なんで武器がお前の『調律』に繋がるんだ?」
「あぁ……その話か」
朝柊はそう応えると私の肩に触れて特異能力を発動させた。
「この状態でお前の『陰影舞踏』を使ってみろ」
「……?」
私は彼女の言葉通り特異能力を発動させた。すると、先程よりも多少ではあるが多くの質量の『シャドウ』を操作出来ていた。
「ふむ、増えたな……あんまり疲れないし」
「私が直接触れてもこんなもんだ。最近発現したからこんなもんなのかもしれないが、使い勝手が分からない分色々試してみないとなと思ってな。それで色々使ってみて分かったことがあって、その中でも死た……いやもう違うな。『アレら』は物だ。そう、物にも私の能力を付随させることができる」
「……なるほど」
即ち、朝柊が特異能力者や筒美流奥義の使い手に直接触れ無くても物を伝いに能力の威力を上げることが出来るというわけだ。
というか、今死体って言いかけたか? それに物と言ってしまえば物に当てはまるのだろうけど、『アレら』と呼びたくなる程、朝柊にとってその死体達は彼女達に対して無反応なのだろう。
そして、朝柊が指した『アレら』という言葉は彼女自身の両親の事。私と同様『収集家』に両親を殺され、同時に兄の白夜が覚醒した特異能力が『死体操作』だった。
『死体操作』──それは簡単に言えば死体を操る能力。聴くだけで趣味の悪い能力だと思うかも知れないが、それが発現した理由はただの純粋な願いだった。
人間は死ぬと『死喰いの樹』に回収される。だから、死体も遺骨も髪の毛すらも残さず私達の会えない遠くに行ってしまう。だからこそ、操白夜という人間は両親と離れ離れになる事を拒否した。
そして、発現した能力が『死体の主導権』を握る能力。死んだ両親を『死喰いの樹』から奪わせない為の能力だった。
だが、あくまでもそれは『死体の主導権』を握る能力であって、人の生命活動を修復する能力では無い。だから、それで動く彼女達の両親はただ彼に従う死体人形となってしまった。さらに普段は死体を劣化させないように冷凍機能のついた鞄の中にそれぞれ両親を閉じ込めているようであった。
「兄貴の事については前にも話したよな。兄貴の能力は『アレら』を鞄の外に出した時点で私の補助が無ければ5分ほどしか持たない。人一人分の死体を動かし『精神力動』や『特異能力』を発動させているのだから仕方のない話なのだろうが、それでも私の特異能力補助があればそれも解消される。それが私の能力が物にも付随できるって事なんだが……」
「両親に触れた時だけ能力強化の上がり幅が顕著だったんだろ」
両親というと朝柊はピクリと瞼を反応させた。どうやら本気で朝柊は白夜の操る死体を両親だと認めたくないらしい。
「……ああ。何故か『アレら』に触れたら『アレら』の能力ではなく、兄貴の特異能力が異常に強化された。まぁ、私には『アレら』を弄ってまで兄貴の強化をしたいなんて思えないんだがな」
「そんなこと言うなら、両親のことを『アレら』なんて呼び方しない方がいいんじゃないか?」
「もし、ふみふみは死んだら、自分も子供も苦しませてでも現世に居続けたいか?」
そこで、彼女が考えていたことはなんとなく分かった。多分、あの死体にかつて自分を生み、育ててくれた親の感情があるなんて考えたくないんだろう。
だから、私はあえてこう答えた。
「……さあな、そんな事死んでみなきゃ分かんないだろ」
「私らにコミュニケーションを取ろうとしない『アレら』が実は生前の感情を持っているって考えることなんて、私は嫌なんだよ。だから、私の中では『アレら』はもうただの感情なんてない肉の塊だよ。そうじゃなきゃ、二人は救われない」
「そうか。それもそうだな……すまなかったな」
普通の人間はきっとこうなんだろうな。価値観なんて、合う方が奇跡みたいな物だ。
「別にいいよ。つか、謝るなよ。普通の価値観じゃこんな事言わないだろうし、あの兄貴に聴かれたら普通に怒られる。これは私の理論なんだから、別に理解する必要なんてないよ。ただ、誤解のないように言っとくと、私は両親の事をちゃんと愛してるよ」
「アサヒの言動見てればそんな事くらいちゃんと伝わってくるよ。でも、お前『アレら』って言葉に出す時辛そうな顔するじゃん」
「仕方ないだろ。私の中でもまだ折り合いついてないんだし」
照れながら朝柊はそう口に出すと、話題を逸らすようにすぐ話を元に戻した。
「それでだ、話を戻すと私は自分の立てた仮説が正しいかどうかを確かめる為に色絵紫苑さんに頼んで普段愛用している日本刀と全く使ったこともない日本刀両方で同じ事が出来るか試してみたんだ」
なるほど、それをすれば強化対象が人間に限らず物にも付随できる事を確認できる。それに、対象がなんであるかを絞る事ができる。
あの時、紫苑が携えていた刀が異様な力を帯びていた気がしたのはそれが原因か。
「んで、結果はどうなったんだ」
「普段使いの方だけが強化された」




