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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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殺人鬼編 27話 勤勉な復讐者14

「はぁー⁉︎ 起きて早々にコレかよ! まじで言ってんの……怠すぎるだろ」


 病室には幼い私──踏陰ふみかげ蘇芳すおうの声が木霊する。まるで目の前にある鏡がひび割れてしまいそうなほどの大きな声だった。


「隙を見せたからこうなったのか……! じゃあこっちもその気でやってやる。二度と寝てやるもんか!」


 そう、私の左目にはいつの間にか眼帯が付けられており、その中身は義眼となっていたからであった。


 そして、私の大声に呼応するかのようにもう一人の私よりも少しだけ年上な少女がぶつくさと私に文句を垂れた。


「うるさい! ここは病院だ、ふみふみ。つか、あんな目じゃ周りからドン引きされるだろ? 健康上にも問題絶対あるだろうし。私も付け替えられた脚はすぐに切り落とされたんだよ。ほらこれ見れば分かるだろ?」


 そういいながら、少女はベットの上で病院服のズボンを少し脱がし、パンツとその下にある太腿と義足との繋ぎ目を見せてきた。


「ちょっ! アサヒの傷なんて見たくないわ!」

「じゃあ文句は言うなよ?」


 ……彼女の名前はみさお朝柊あさひ。私と同じく、『収集家コレクター』から身体のパーツ、部位でいうところの太腿から先の脚を奪われた被害者の特異能力者エゴイストの一人であった。


 見た目は眼鏡をかけた凛としたイメージが印象的な美少女であった。三白眼と眼鏡と年上に対するセリフ回しの印象に引っ張られているせいで年下から見ればガラの悪いインテリヤクザか何かにしか見えないが。


 私が護衛軍に保護され同じ病室でルームメイトみたくなった後、互いの身の上話で盛り上がり、歳が近いのもあったのか仲良くなったのだ。


「……それとこれとは話が別だろ。あれは私の覚悟の証みたいなものだったんだし、勝手に付け替えるのは酷くないか? というか、寝てる間に麻酔なんて打たれたらこっちも抵抗のしようがないんだが?」

「気持ちは分からんでもない。あの兄貴ブラコンに限っては全くのノーリスクの癖にだい? って人に止められて結局無理矢理義手になってたしな」


 彼女の兄──みさと白夜はくやは両腕を『収集家コレクター』に奪われた特異能力者エゴイストだった。


「はぁ……アサヒ達は『収集家コレクター』の身体を移植されたから、一刻でも早く取りたかったんだろ? ユリの一部を外された気持ちは分からないだろ……」

「まぁそうだが……」


 何か言いたげに朝柊はこちらを見た為、なんとなく彼女の言いたいことが分かってしまった。


「……確かに『収集家コレクター』に対しては煽り行為になるからそれはそれとしていいけどな。でも、これじゃあユリの特異能力エゴが使えなくなるんじゃないのかって心配はしてる」

「……ふみふみ、お前凄いな。なんで私の考えてることわかんだ?」

「そういう目してたからな。まぁ試してみるか……」


 私はそう言いながら、影を実体化させ操るような想像を頭の中で想い描いてみた。今にして思えば、百合ゆりが私に教えてくれたあの筒美つつみ流の応用で飛び道具を放つ技とこの『陰影舞踏シャドウダンス』は感覚が似通っている。もしかすると、百合はこうなる可能性もあって私にあれを教えたのかもしれない。


 そんな事を考えていると実際に、私の繋がっている影は少しではあるが動き、立体的に膨らんだ。


「……!」

「使えるじゃん」

「使えたなー。前より体力使うし、自由度もそんな高くないが」


 一瞬その理由が分からなかったが、すぐにその答えへの解答を得た。


 恐らく、他者の特異能力エゴはその者の細胞を取り込むことが使えることへのトリガーでは無く、上記を満たした上で一度衝動的に何かしらの形で特異能力エゴを引きこす、もしくはその者の人となりを深く知ることがトリガーになるのだろう。


 朝柊や私が『収集家コレクター』の特異能力エゴを使えないのがいい例だ。


 そして、逆に一度でも使えたなら、脳内細胞……特に感情を司ると言われている扁桃体の細胞が特異エゴDAYN(ダイン)を含むものへとごく微量だが変化する。そうなれば体内の他の細胞に含まれるDAYN(ダイン)特異能力エゴの機序を覚えており、元となったオリジナルのDAYN(ダイン)が取り外されたとしてもそれが補助となり使えるというわけだ。


 しかし、特異能力エゴという現象を作るための工場のようなものが減ったからいわゆる『シャドウ』の操作できる量は落ちた。『陰影舞踏シャドウダンス』は自由度がウリの能力だから、『シャドウ』の質量は多ければ多いほど良かったが……。


「まぁ仕方ないかー」

「……? 火力不足が気に入らないのか?」

「まあなー。アイツを殺すにはこんな付け焼き刃じゃダメな気がするからな。武器はもっと質の良いものの方がいいわけだよ」


 私がそういうと、朝柊は何か言いたげに私の顔を覗く。


「何か言いたいことあるのか?」

「武器か……なるほど。武器な」

「は?」

「いや……すまん。私の特異能力エゴを私らの復讐のために活用できないかなって思ったんだ」


 朝柊の特異能力エゴ……そういえばどういうのか詳しく聴いたこと無かったな。


「というと、お前の特異能力エゴは武器を作る能力なのか?」

「いや、違う違う。私のはもっと人の願い……いや『欲』って言った方が本質的だろう。つまり、欲の根幹に影響を及ぼすようなものだ」


『欲』。私はその単語に無意識ながら少しピクリと反応してしまう。


「人の欲に影響を及ぼす能力なのか……? いやそれとも人の感情に……」

「そうだな。簡単に言えば、人の感情・願い・欲と呼ばれる思念的な概念が生み出したエネルギーの出力を強くしたり弱めたりする事ができる。護衛軍の言う『精神力動』や『特異能力エゴ』が思念的な概念から生み出されたエネルギーにあたるんだろうな。欲を強くするって言い方が一番手取り早いのかもな。私は『調律ハーモニクス』って呼んでるよ」


 欲を強くする……『強欲』か、なるほど。『収集家コレクター』が欲しがりそうな特異能力エゴなわけだ。

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