第一幕 23話 Drug Redly Addict Gift1
「3年前まで消息不明……」
「行方不明者だったんですか、青磁さん」
青磁先生のことをさっきまで知らなかった、衿華ちゃんは当然の反応だろう。しかし、黄依ちゃんは何かに気付いた様子だった。
「よーやく話してくれる気になったのね、青磁にーさん」
「俺様にも事情が沢山あるんだよ。まぁ、何というか、すまん。俺様の場合消息不明つうか、あえて身を隠していた。今はまた事情がかわってここにいる訳だが、つまりこの話を聞けばお前らにも多少危険は付きまとうって事だ。覚悟はいいな?」
瑠璃くんと翠ちゃんの二人は頷き、衿華ちゃんは少しおどおどとする中、黄依ちゃんが口を開く。
「あなたが特異能力増強剤、通称 DRAGの開発者という事で良いんですか?」
「……あぁよく分かったな」
黄依ちゃんがその言葉を聞くと同時に、青磁先生に睨む。青磁先生は少しにやりとし、黄依ちゃんを煽るような目をした。
「あなたの薬を使った人が皆どうなったか知った上でその反応なら、今ここで私があなたを殺しても良いんですよ?」
その言葉を放ち黄依ちゃんが拳を突き出そうとした瞬間、ここにいる青磁先生以外の皆が瞬時に戦闘態勢を取った。
翠ちゃんは銃を、瑠璃くんは手を黄依ちゃんに向けようとしたので、私は二人の腕を掴む。どうやら、黄依ちゃんの対処は衿華ちゃんがやってくれたようだ。
「いくら黄依ねーさんでもその言葉は不味いと思うな」
「……ねぇ君、僕の家族に手を出したら許さないよ? 」
「だめだよ、黄依ちゃん! たとえ極悪非道な人間でも私達が人を殺すなんて言ったら!」
「みんな落ち着いて!」
「チッ……これだから女の特異能力者は嫌いなんだよ……」
一瞬で空気が最悪になった。やっぱり、この話題触れない方が良かったか。それとも青磁先生を連れてくるべきじゃなかったか。
だが、沈黙した空気を瑠璃くんが破った。
「青磁にぃ、普通じゃ人間はこんな反応しない。この件その子も悪いと思うけど、僕達にも納得出来る説明して。ごめんね、紅葉には喧嘩を売る気になれないんだ」
呼び捨て……?
私は少し彼に名前を呼ばれた時に違和感を覚えた。
「あぁ、つい名前で呼んじゃった。呼びやすいからそういう風に呼んでも良い?」
「……うん、いいよ」
どうやら、私との距離感を縮めたいらしいので、私も瑠璃くんの掴んでいる腕を離そうとする。
すると、瑠璃くんがにこっと笑い、手と手で指を絡ませてきた。
「ありがとう、紅葉」
「うっうん」
可愛い子から手を繋いでもらえるのは嬉しいけど、翠ちゃんから、すっごい目で見られている気がする。
でも、まぁさっきの話に戻そう。
「それでさ、青磁先生。私はあなたの事について一応知っているつもりでいるんだけど、みんなにはちゃんと説明した方が良いと思うよ」
「あぁもちろんそのつもりだ、馬鹿」
青磁先生は言われなくても分かっていると言わんばかりに溜息をついた後、次々と話し出す。
「DRAGっていうのは、特異能力の発生元となる細胞器官、特異DAYNを増やす薬だ。それと同時に、使った人間の感情を暴走させ、感情生命体へと進化させる事で最終的には死に直結するようなものであり、倫理観を度外視しているものでもある。そして、俺様は今でもたまに護衛軍から頼まれて、この薬を作っている」
青磁先生が話すと、当然翠ちゃんや瑠璃くんから疑問が出た。
「……なんでそんなの作ってるの青磁にーさん? 私達には特異兵仗っていう危険性皆無の武器があるじゃん」
「そうだよね、翠ちゃんのメイド服。こういうので、特異能力は強化できるんじゃないの?」
勿論、その通りだ。今日、機関で特異兵仗の存在を泉沢さんから聞いた時、真っ先に思い浮かんだのはDRAGの廃止。だけど、DRAGが廃止されない理由を私は既に泉沢さんから間接的に教えられていた。
「特異兵仗は護衛軍にいる特異能力者全員に対して与えられるほど、生産力が無い。護衛軍にはおそらく特異能力者は五十人といないが、それでも特異兵仗を持っているやつなんて10人もいないくらいだろう」
つまり、特異兵仗は作るのが難しいという訳だった。そもそも、特異兵仗やDRAG無しでは倒せない災害級の感情生命体なんて存在しているのがおかしいけど……
「……そっか、未だに青磁にぃがDRAGをつくる理由は分かったよ。じゃあさ、なんで7年間も僕達の前から姿を消したの?」
ふぅ……と青磁先生が息を吐き出す。先程までと打って変わって後悔しているような、そんな表情だった。
「長い話になる……俺様が初めてDRAGを作ってしまったのは、10年前……あの事件数日前。そう、漆我紅が自死欲感情生命体に飲み込まれたあの事件だ」