殺人鬼編 23話 勤勉な復讐者10
轟音と空気を切り裂くような音がした瞬間、その二人の男から放たれた二つの攻撃は宙に打ち消せれるように、誰かに力動の防御術により打ち消された。
その事実に気付いた瞬間には、私は既に腰に日本刀を佩く女性に横抱きをされていることが分かった。彼女の着ているものはいわゆる昔いた侍や武士が身につけている甲冑や鎧に近いもので、重装備ではなく機動性を重視し且つ急所に当たる胸元や手、膝を軽く守る為の胴や籠手のみであとは袴であった。髪は黒くて長くそれを結んでおり、ポニーテールの様に結んだ髪は細く膝元まで美しく靡いていた。
一方、それと同時に虎へと変貌しかけた所要の前には、新たに現れた護衛軍の制服を着た醤油顔でこれもまたかなり顔の整った若い男性が立っていた。清楚感というよりかは爽やかな雰囲気を醸し出しているのにも関わらず、その見た目にそぐわず絶対的な安心感が感じられた。
その男性の安心感は一瞬でこの場を制圧した事実から来るものもあるのかもしれないが、一挙手一投足から見て取れる程の実力から来るものだろう。
この場にいる全員が彼を同時に襲いかかったとしても、勝てない。むしろ、近づく事すら不可能。私の覚醒した特異能力の予測演算を持ってしても勝ち筋が全く無い。それだけ、圧倒的だった。
精神性が穏やかで、もはや悟りを開いた僧侶のように、植物のように何も考えていないように見えるのにも関わらず、精神を力に変えるはずの『力動』で圧倒されている。まさに矛盾した状態。それを可能としているのが彼自身の技の技術の練度であろう。
具体的に言えば、現在展開している防御術の結界は出力こそ無いものの、無駄がなく、ありとあらゆる物理攻撃を打ち消す程の防御力を誇っていた。受けとして回らなければいけない防御でこれなら攻めの実力は最早常に最善手を打ち続け、隙を狙ったフェイントが悪手になってしまう程だろう。まさに機械か、人間業だとしたらもはや神がかり的な実力だろう。
恐らく、世界を何度も救ったとされる、『力動』……筒美流奥義創始者である創始聖、筒美封藤と同格又はそれ以上の実力者だ。
理由は分からないが、技の練度だけでこれを行うのであれば、何十年実践という経験を積み、何万回と己が作った悪癖や誇りを壊されなければ辿れない、才のないものが最終的にたどり着く至高の領域だった。それにも関わらず、彼の見た目は二十代半ばに見える。余程の師がいたのか、単純に彼の飲み込みが異常なのか、それともそのどちらともなのか。
見ただけで『コイツには絶対に勝てない』そんな常軌を逸した解答を私の脳が答えとして弾き出したのだ。
私を抱えた女性も放っている雰囲気から察するに力動の実力だけで言えば彼に劣るものの、一太刀浴びせられれば死よりも恐ろしい何かが日本刀から放出されているERGで理解できた。
二人が突然前に現れたことからも、特異能力者なのだろうか。どちらかの能力である事には変わりない。もしくは、これだけの強さを裏付ける為の特異能力なのか……。
「……ふぃー。危ない危ない。流石にこんな遠距離で事件を起こされちゃ体が二つ欲しくなっちゃうよ。ね、そう思うでしょ? 紫苑」
「そうですね。また、私の予測通りになってしまいましたが事件に当たれる軍人が彼らしかいなかったのも状況として仕方なかった話です。さてと、私はこの子を安全な場所に移してから事情聴取をします」
紫苑……と呼ばれた私を抱える女性は私に優しく微笑んだ後、もう大丈夫ですよと小声で言う。そうして、彼女はその男性の方に確認を取るように口を開いた。
「題さんは……そうですね。何も言わなくても、皆さんを救ってくれますよね?」
「買い被りすぎだよ。その子から詳しい状況を聞いて分かったら報告をお願い。さて、状況を察するに百合さんは死んでしまって、それにより要くんの身体に『反転』が起き連鎖的に『感情生命体化』しかかっているって感じなんだろうね。それを見て拓翔くんと洪くんが止める為に特異能力による攻撃を繰り出したってところで良いかな?」
醤油顔の男──題はこの状況を知らずに二人の攻撃を止めたのか……? 護衛軍は感情生命体を根絶やしにする事を掲げているのにも関わらずなのにか?
彼の目的が分からない。通常、人間があのように人の形で無くなってしまったのなら取り返しがつかないと思うが……。
私の疑問点と同じく、拓翔は題に少しの怒りを露わにしながら彼に問いかけた。
「止水旅団長、僕達護衛軍の目的は感情生命体を殲滅する事です。要……所二佐は我々の同僚とは言え、その姿はもはや感情生命体。もはや同情の余地は……」
「『感情生命体化』はまだ完遂前だよ。状況的にはこれが正解なんだね?」
間髪入れず題は拓翔にそう確認した。まさか、あの状態から彼はまだ救うつもりでいるのか。それに、人に確認しているとは言え、この一瞬でこれだけ正確に状況判断が出来るなんて。題は私並み……いやそれ以上の情報処理能力を持っているのか?
「それは……そうですが……」
「それじゃ後は要くん次第だ」




