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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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殺人鬼編 16話 勤勉な復讐者3

「さて、何して遊びましょ〜?」


 私に気を取り直して欲しいのか、ユリは思い出したかのように話題を振り始める。


「……? 昨日人形遊びって言ってなかったか?」

「ふふふ〜そんなこと言いましたっけ〜? 人形なんて家にありましたっけ〜」


 唇の下に人差し指を持っていき、彼女はとぼけるフリをした。最初から薄々気づいてはいたが本当に変な人だ。私に興味ある素振りをする癖に、本当の目的はそれじゃないかのような演技くさいものも感じる。


 なんなんだ? この人は?


「ハァ……まぁいいや。それで、何するの? お前の目的はなんだ?」

「私〜蘇芳ちゃんのことが知りたいんですよ〜」

「……へ? いや、具体的に言えよ! なんだよお前! 自己紹介でもすればいいのか⁉︎」


 私がそうツッコミを入れると、ユリはしばらく考える素振りをした後、口角を上げながら口を開いた。


「それじゃあ聞きますけど〜蘇芳ちゃん〜貴女は将来何になりたいんですか〜? 夢でも、目標でもいいですよ〜。誰かのお嫁さんになりたいとかでも構いません〜」

「……それを知って何になるか分からないけど……まぁ良いか、んで、将来か……。まぁ……護衛軍に入る事かな」


 それを言うと、ユリは納得してないのか私の心の中でも読んだのか、再び同じような質問を繰り返してきた。


「それは本当に蘇芳ちゃんの望みなんですか〜?」

「さぁ……別に私に意思があるかないかと言われればないと思う。所謂、親の言う事をただ聴いてるだけって感じ? 人が言う才能みたいなものはあるのかもしれないけど、私からすれば戦う事って苦手で、私はその筒美つつみ流ってのを勉強してるんだけど、一向に強くなれる気がしなくて」

「へぇ〜そうなんですね〜」

「人から期待されているからというか何というか……頑張ってはいるのだけど、めんどくさいなって思ったり、勉強に身が入らなかったりしてさ。このまま何かしたり、目標のために頑張っても意味あるのかなぁなんて思ったりするんだよね」


 彼女はそのまま黙って笑顔のまま私の話を聴き頷いた。


「それで、黙って私の話なんか聴いていい事あるの? 励ましてくれたりするわけでもなさそうだし」

「ふふふ〜ありますよ〜人の事を知りたいっていうのが私の趣味であり、『願い』ですからね〜」

「……そう、悪趣味ね。まるで感情生命体エスターみたい。まぁ、貴女が万が一にも感情生命体エスターならそんなのに手間取ってる護衛軍も程度が知れてるって私は思うけど」

「ちょっとひどくないですか〜? 私の趣味を悪いなんて言わないでくださいよ〜。それに感情生命体エスターみたいだなんて〜心にもないこと言われちゃうと私傷ついちゃいますよ〜? あとですね〜護衛軍の人達って結構ちゃんと強いですからね〜」


 その言葉に耳を疑い、私は彼女を注意深く見た。


「……? 何か顔に付いてますか〜?」

「今の……どういう意味?」

「そのままですよ〜パパとママが護衛軍の軍人さんなので、蘇芳ちゃんの言葉を訂正したくなっただけですよ〜あっちなみに私も護衛軍でこれでも幹部なんですよ〜」

「は?」


 なるほど、そういう事か。やけに変な奴だとは思った。だが、彼女のようにのほほんとしたような人が筒美流を使えるのは少し納得できない。


「ってことはユリ、貴女も筒美流を……?」

「はい〜使えますよ〜。ちょっとだけ待ってくださいね〜」


 ユリは立ち上がると周囲のERG(エルグ)を結晶化させ咲き誇る花びらのような形にしてみせた。彼女はくるりと一回転楽しそうに周り、此方をみて微笑む。綺麗でしょと言わんばかりの子供らしい表情で。


「……」

「綺麗ですよね〜?」

「才能の無駄遣い」

「なんでですか〜!」


 正直、私の筒美流なんて敵わないレベルで才能があり努力をしてきたのだということは一見しただけで分かった。それを認めるのが嫌で、私が喩え努力しても無駄だと言われてるような気分がして嫌だと私は感じてしまった。


「……ハァ」

「……? なんか気に触るようなことしちゃいましたか〜?」

「いいや、別に。世の中狭いようで広いこと、今になってようやく実感しただけだよ」

「……そうですか〜」


 少し彼女はしょんぼりとし、私を不機嫌にした事をあやまった。だが次の瞬間にはユリは私の事を励ましてくれようとしたのか、手を出して握るように言ってきた。


「蘇芳ちゃん、私の手を握ってみて下さい〜」

「……何かするの?」

「私〜実は特技があって〜人の手を握るとその人がどういう人間か分かるんですよ〜。だから、蘇芳ちゃん。手を出してみて下さい〜」

「……仕方ないな」


 私は彼女に従い、手を握ってみた。彼女の手は暖かく、私の冷たい手を優しく温めてくれた。それに優しく私の手を包んでくれて、心地よくいつのまにか私は目を閉じ、彼女の手を強く握り返していた。


「……なるほどです〜」

「何か分かったの?」

「そうですね〜。蘇芳ちゃんにもやっぱり才能あると思いますよ〜それも誰にも負けないような、誰にも得られないようなそんな才能……」


 何故だか、その言葉が嘘なんかじゃなく、本当のことであるということがユリの顔をみていると理解することができた。だけど、そんな都合の良い力の存在を私は認めたくなかった。だから、彼女に対して強がるフリをした。


「……何だそれ。そんなものあるわけないじゃん」

「いいえ〜。ありますよ〜。いつかその時が来たら私にもあるその力見せてあげますね〜」

「いいよ別にそんなん見せなくても。それより、貴女のその筒美流を教えてよ」


 だがら、私はずっと強がり続ける為に彼女──元護衛軍ニ佐官であった鬼灯百合から筒美流を教えて貰うことにしたのだった。


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