第一幕 22話 色絵瑠璃について
「僕ね、感情生命体なんだ」
その言葉と共に繋いだ手に物凄い熱を感じた。その子は笑ったまま私の瞳を覗いてくる。
「君は一体……?」
「そっくりそのまま返すよ? お姉さんこそ何者なの? 自分の身体に他の人の死体の臓器を移植しているでしょ? そんな事したら肉体同士の拒否反応と自死欲の衝動が一気に押し寄せて、痛みや自殺衝動で身も心も持たないと思うんだけど」
こんな事を言いながらまだ顔をにこりとさせてその子は私と手を繋いでいる。
「どこまで私の事について知っているの?」
「知ってたんじゃなくて、今調べたんだよ、ほら手握ってるじゃん。それにさ、常に自死欲の帯びたERGを出している人なんて興味が湧いてね」
「……なるほど」
これ以上私の事を知られると……本当にこの子何者だ? 好意的な態度を見るに敵ではない? だけど、私の身体について手を繋いだだけで分かったという事と私から微かに出ているERGが自死欲を帯びている事に気づいたという事はまず特異能力者である事は間違いないだろう。
そうならこの子は多分、翠ちゃんの弟の……
「うんって事はやっぱり、お姉さんが翠ちゃんの言っていた……」
「君が瑠璃くん?」
「筒美紅葉……さん?」
互いの名前を言い合った所で、瑠璃くんがさっき立っていた場所の指を指したので、見てみると翠ちゃん顔を膨らませているがいた。
「あっ! 翠ちゃんだ! 先に紅葉……さん? と会えちゃった!」
「「あっ! 翠ちゃんだ!」じゃなーい! 本当にもう! 急に居なくなるんだもん!」
「ごめんごめん、久しぶりに外に出たからさ、舞い上がっちゃったの!」
嬉しそうに瑠璃くんが顔をニコニコとさせている。
「はぁ……お姉ちゃんの気持ちも考えてよ……ごめんなさい紅葉ねーさん、この子普段は家に閉じ込められてるから外に出るといつもこうなの……」
「大丈夫だよ、気にしてないから。それに元気があった方がとっても可愛いからね!」
そう言いながら、繋いでいる手を引き寄せて、至近距離で瑠璃くんの顔を見つめる。やはり双子だからなのか、何処と無く翠ちゃんと似ている気がする。
「えへへーありがとー」
「ちょっと紅葉ねーさん、瑠璃くんに近い」
翠ちゃんに睨まれたので、少し離れて手を離す。
「あっ……」
瑠璃くんは少し寂しげな声を出したが、すぐに顔を笑顔に変えた。
「そういえば、そろそろみんな来る頃だと思うんだけど……」
「あっもうみんないるじゃない! 衿華急ぐわよ!」
「まっ待ってよ黄依ちゃん〜!」
声の聞こえた方を見ると黄依ちゃんと衿華ちゃんも二人とも此方へ走って来るのが分かった。
「誰?」
「あの二人は黄依ちゃんと衿華ちゃん! 私の親友なんだよ!」
その事を言うと、瑠璃くんは私をじっと見た後に、彼女達の方を見る。
「なるほどね……」
「えっ何その反応、怖い」
瑠璃くんは私のツッコミを無視して、黄依ちゃん達の方をじっと見る。すると黄依ちゃん達が瑠璃くんの視線に気付き話しかけた。
「ん……あぁ、あんたが翠の妹」
「名前は確か……瑠璃ちゃん……? だっけ」
「違うよ」
「えっ?」
「は?」
「あっそういうことね」
多分二人はこの子の事女の子だと勘違いしてるのか。確かにこれで男の子はおかしいにも程がある。どう見てもその辺の女の子より可愛いし、超がつくほど美少女な黄依ちゃんや衿華ちゃん、それに翠ちゃん級に可愛いと思う。そりゃまぁ、双子だけどさ、顔結構違うし、多分二卵性双生児なのかな?
しかしまぁ、どういうカラクリを使えばそんな整った顔立たになるんだ……?
「名前は合ってるけど、僕は翠ちゃんの弟」
「……?」
「へ……?」
「一応、生物学的に言うと生まれた時は男だったの。その後、僕の特異能力で色々して、結局今はこの格好で安定してるの」
「そうそう、瑠璃くんの今の姿は紫苑ねーさんを真似た姿なんだよ」
「? ? ?」
「特異能力……? 一体どんな……?」
瑠璃くんが解説した後に、翠ちゃんが熱弁をするが、二人は少し混乱している。実際、私にも彼の能力にどんな効果があるのかよく分かっていない。
「僕には何となく感覚的に分かってるんだけど……」
そう言いながら、瑠璃くんは特異能力を発動させた。
すると、目に見える速度で髪の毛が伸びていっている。というか、髪の毛を作っている?
「身体に干渉する能力……?」
「やっぱりそう見えるよね……違うけど違わない……説明難しい……」
どうやら、身体に干渉するのとは違うらしい。もしかして、もっと根本的な概念に干渉するのかな?
何となく察しはついたが、良いタイミングで説明役が来た。
「ほむ、青磁先生じゃんどうしたの?」
「どーやら、お困りの様だな。俺様が説明してやろうか? 弟よ」
「あっ青磁にぃだ」
「青磁にーさん!? えっ何で? 私達誰も呼ばずに来たのに」
「えっと、紅葉ちゃん、どなた?」
「青磁先生……どっかで聞き覚えがあるなぁ……」
一応、彼の事は私が呼んだという事は黙っておいてもらおう。偶々、ここに来たという事にしておいた方が詮索されないで済むかな。
「まぁ、仕事の休憩にぶらぶらしてたら家族と研究対象にあったからな。お前ら知り合いだったのか? うーんつーかそこの二人のために、自己紹介の方が先か?」
「うん、お願い」
「ヘイヘイ、護衛軍付属赤十字病院の特異能力者研究の特別顧問、色絵青磁だ。気軽に青磁先生とでも呼んでくれ。ちなみにそこの双子二人とは兄弟で、そこの馬鹿には俺様が今研究してる事を手伝って貰ってるんだよ」
衿華ちゃんは何となく分かったかのような顔、黄依ちゃんは何か引っかかっているような顔をしていた。
「んで、瑠璃の能力の説明か」
「そだね」
「簡単にいうとこいつの能力は範囲内にある物、力、熱、現象を全てを認識して操る能力さ。理論上だけどな」
「ほむ? 予想の10倍くらい適応範囲広かった」
「うそん」
「なにそれ、ずるじゃん」
「バーカ、理論上つってんだろ。んなもん、概念だとか時間軸とか操作したら瑠璃の頭が吹っ飛ぶわ」
「それに燃費の悪さがこの能力の弱いところかなぁ」
「加えると特異能力っつうもんは身体能力がストレスとか色んなもんのせいでバグって物理的現象として現れてるだけのもんだし、根本的には同じようなもんだから瑠璃以外の全人類も死ぬ気でやりゃーいけるぜ。ただし、そんな事しようもんなら死喰い樹の腕が来るし、なんなら普通に死ねるからやろうなんて思うなよ」
特に私に対して釘を指すように行ってくる。
「へぇ……そうなんだ」
「まぁ今は瑠璃の能力は俺様の薬で安定をさせてるから、心配は要らん。その辺、そこの馬鹿のお陰で何とかなってる」
「ほむ? 私?」
「なんで非特異能力者の紅葉が?」
すると、瑠璃くんが意外そうな反応をする。
「えっ! 非特異能力者なの?」
「そうそう、紅葉ねーさんの事について教えに来てもらうんだった」
「そうよ、紅葉そろそろあなたの事も教えなさいよ」
続いて、翠ちゃん、黄依ちゃんも私の事について言及してきた。
「この馬鹿の事か、まぁ瑠璃の説明ついでにお前の話をした方がいいかもしれんな。お前話して大丈夫なのか? 紅葉」
「うーん、衿華ちゃんには話したし、いいんじゃない? 葉書お姉ちゃんのことでしょ?」
青磁先生はけっと顔を顰めた後、みんなを椅子に座るように誘導する。私が座ると、左に瑠璃くん、そのまた左に翠ちゃんが座ってきた。
「あぁ……そうだ。この話は長くなるからな。その辺の椅子にでも座っとけ。たっく俺様も関わっといてあれだが、気持ち悪くて仕方ない」
「そっかみんなに話すんだね」
衿華ちゃんは私の右隣に座り、ぎゅっと私の服を摘んで引っ張ってきた。黄依ちゃんは衿華ちゃんの右隣に座る。
「俺様は立ちっぱでいいや。んで、どこから話そうか……」
少し、青磁先生は考える素ぶりをする。彼には打ち合わせ通り、三年前のあの日の話をしてもらえればそれでいい。
「それじゃまず、俺様が三年前までどこに消息を絶ってたか説明しようか」