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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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殺人鬼編 11話 かくしごと2

 瑠璃るりくんは涙を拭くと、自分の中の言葉を整理する為か暫くの間俯き黙っていた。そして、周りを見渡すとここが個室ではなく共有スペースである洗面室であることを思い出したのか、私の部屋で話をすることになった。


 部屋に戻り私はベットの上で、瑠璃くんは椅子に座り、少し話しずらいような雰囲気になっていた。


 そして、彼が覚悟を決めると私の目を再び真っ直ぐと見据えて口を開く。その言葉の中に篭っていたのは大きな覚悟とそれと同じくらいの懺悔だった。


「まずは、分かりやすく説明する為に僕の話からするよ。僕は感情生命体エスター知っての通りなんだけど、僕は一体何が原因で生まれたんだと思う?」

「……原因?」


 思えば私は瑠璃くんの事をほとんどよく知らないでいた。


 瑠璃くんは私にとって間違った道から戻してくれた人。目的の為に人には少し厳しい面もあるのだけど、どんな人にもとても優しく、特に私を大事にしてくれているのは伝わってくる。でも、それだけ。それ以外に私が彼の事を好きな理由がなかったのだ。


 だから、逆に彼が私に好意を抱いている理由について少しパッとしなく、彼の強制的な感情生命体化アーヂュを私を素体とした薬で止めたからという要因が一番大きな理由であった。正直言って、それは私に好意を抱く理由になるのだろうか。


 このことで私の中にはわだかまりがあったが瑠璃くん本人にとって本当に大事な事らしいのは確かなので、これ以上私の嫌な考えからできるツッコミは入る余地がなかったが、やはり私には分不相応な彼からの愛情が注がれている気がしてならなかった。それは瑠璃くん自身が『生存欲リビドー』の感情生命体エスターであることになにか関係があるのかもしれないが、私には一生分からないことであった。


 そして、話を戻すとそんな彼が感情生命体エスターとして生まれてきたのは自然発生なのではなく、何か由縁があったということなのだろう。


 彼の言葉から考える限り、瑠璃くんがしたいのはすいちゃんの話。だから、きっとそのルーツには彼女の存在が大きく関わってくるだろう。


「瑠璃くんは『生存欲リビドー』の感情生命体エスター……。こんな世界でも僅かに存在した『生きたい』と思う願望の集合体……」


 私は独り言のように一つ一つ情報を整理する為に声に出して呟いていく。


「『生存欲リビドー』はこの世に生物が産まれてくる時に放出される感情、だから胎児が母親のお腹の中から出産される時によく観測されるよね。この前、てるてるさんの赤ちゃんが産まれた時もそうだったよね。そして、その『生存欲リビドー』に反応して、『死喰い樹(タナトス)の腕』も引き寄せられてくるっていうのが特徴らしい特徴だよね。でも、本来なら生物に害なんてなくむしろ生物が生物らしく生きていく為にとても重要な感情なんだよね、瑠璃くん?」

「大体はあってるかな。正確にいえば『死喰い樹(タナトス)の腕』は『生存欲リビドー』という感情が発生している状況と『自死欲タナトス』にマーキングされていないという状況、この二つの条件が揃って初めて生物に対して反応するんだ」


 瑠璃くんは私すら知らなかった『死喰い樹(タナトス)の腕』のルールを言う。


 彼の話をまとめるとこうだ。


死喰い樹(タナトス)の腕』は『生存欲リビドー』そのものが引き寄せているわけではない。むしろ、『生存欲リビドー』は『自死欲タナトス』と相対する感情であるため、それを敵対視もしくは誕生したばかりだから芽を摘んでおこうという理由で感知しているということになるのだろう。


「でも、感情生命体エスターになれてしまうほど強い感情は喩え死に瀕していても『死喰い樹(タナトス)の腕』を遠ざける効力がある。だから、『生存欲リビドー』そのものである僕はこの世に生まれてきた時『死喰い(タナトス)の樹』の呪縛を受けなかった。つまり何が言いたいかっていうと……」


 今瑠璃くんの言った事に少し耳を疑ったが、確かに思い返してみればそうだ。今まで戦ってきた感情生命体エスターはほとんどが人間を素体にして産まれたもの。そもそもが『自死欲タナトス』の呪縛を受けている生命な為、『死喰い樹(タナトス)の腕』に回収されていたものもいた。その逆もまた然りで、私が『自殺志願者の楽園(ユートピア)』で祖父ししょうの下で修行をしていた時にごく稀に『死喰い樹(タナトス)の腕』に回収されず、自然消滅した感情生命体エスターもいた。ごく稀にしか見なかったのはその土地柄のせいもあるのだろうが、それらが『自死欲タナトス』を介さない自然発生した感情生命体エスターだった事を思い出すと確かにそうだと納得した。


 つまり、瑠璃くんは『通常の死』を迎える事ができる身体で産まれてきたという事だろう。ならば、同時に産まれてきた翠ちゃんはどうなるのだろうか。瑠璃くんと密接した状態でいたのであろうから、恐らく同じ影響を受けていた筈だ。


 加えて、そもそもその『生存欲リビドー』の感情生命体エスターである瑠璃くんが産まれた原因もあるはず。それが翠ちゃんにあるのであれば……


「……翠ちゃんはいわゆる『死ねる』身体で産まれてきたってこと? それとも翠ちゃんの体は生まれつき瑠璃くんのように感情生命体エスターに近いものになってしまっているの?」

「……うん、勘が鋭いね。両方正解だよ」


 彼がこくりと頷くと、それはあり得ないだろうと私の記憶を思い出す。もしその話が本当なら、私の『筒美流』でその真実を気づく事ができるからだ。それに気づく事が出来ないというのであれば、それはもはや……


「……いや、そうか。そこで瑠璃くんの特異能力エゴで誤魔化していたんだ」


物質操作サブスタンスコントロール』──私が初見で瑠璃くんを感情生命体エスターだと見抜く事が出来なかった原因となる彼自身の特異能力エゴ。今にして思えば翠ちゃんの特異能力エゴも特性がこれに非常に良く似ていた。


 根本的なところでいう物体の操作。双子だから似ている能力だと思っていたが、その考えが違っていたという訳だった。


「だから、翠ちゃんは生まれつき『生存欲リビドー』の感情生命体エスターとしての僕の『婢僕サーバント』なんだ」


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