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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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殺人鬼編 9話 共依存2

「少し話したいことがあるの」


 霧咲きりさきさんはそういうと私の座っていたベッドの上に乗り同じように割座で正面に座った。


「どうしたんですの? また、改まって」

「少しね、確認よ。アンタが今日まで行ってた極秘任務、樹教への内部捜査よね」

「……!」


 少なくとも霧咲さんが何故この事を知っているのかに驚いたが、一番驚いたのはその言葉を言った表情であった。とても悲しそうで、私に申し訳ないと思っているかのような様子であった。


「答えなくても良いわ。私が確認したいのはそんな上辺の話なんかじゃなくて、もっと深いところの話」

「……」

「覚えてるかしら? 蒲公英病の時の発生源調査任務の事」


 あの時、本来なら私達は死んでいた。それを通りすがりの樹教の幹部が私達を助けてくれたって筒美つつみさんが言っていた。だが、彼女はこうも言っていた。


黄依きいちゃんには絶対に内緒にして』


 と。


「私あの時さ、アンタの為に嘘をついたの。アンタの名誉を守る為にね。だからさ、あの時のアンタの気持ちが本当か知りたくてさ」


 すると霧咲さんは徐に自身の着ていた寝巻きを脱ぎ始めた。


「きっ……黄依さん、一体何を⁉︎」


 そして、下着だけになった彼女を見る。するとその身体には深く刃物で切り付けられたような傷が全身についていた。


「護衛軍の軍人として赦されないことをしたと思ってる。でもそれだけアンタに命を救ってもらえたこと私は嬉しかったのよ、何故だかね」


 綺麗で兎のような白肌にくっきりと浮かぶ夥しい程の傷痕。おおよそその傷の理由に見当は付く。実の両親からの虐待。あの傷さえ無ければ彼女は普通の少女として生きられた筈なのに。


 本当なら私になんかその傷痕見せたくもない筈なのに。


「落ち着いてくださいまし、黄依さん」

「大丈夫、私は落ち着いてるよ。だから見て、この身体を。この傷を。この恥を」


 そして近寄ってくる彼女はとうとう私は身体を押し倒された。


「やめて……下さい」

「アンタ、私のこと好きなんでしょ?」


 彼女と目が合い、言葉で脳内にバチバチと火花が散る。


「私、分からなかったんだ。人を愛するって感情。元々私、他人には本当に興味がなかったの。だから、人の死体とかそういうの見ても平気でさ、本当に取り返しがつかないなって思ったのは両親の時。そして、人を好きになったきっかけは紅葉とこうやって身体を重ねたことが原因かな。あの子には少し依存していたと思う。それでようやく白夜はくやくんには恋みたいな感情を抱いていたことを理解したんだよね。でも、彼の場合は過去に共感して同情したから好きになったんだと思う」

「これ以上は……まだ……お願い」


 そして、私の耳元で霧咲さんが囁いた。


「それじゃあ、私がアンタに向けているこの感情の正体はなんだと思う?」


 分からない。何故いきなり彼女がこんな事を。いや、いきなりではない。確かに、徐々に徐々に霧咲さんとは最近関係性が深まっていった。だが、それはチームメイトになって話す機会が増えてお互いの誤解が解けたからで、決して霧咲さんが私に『こんな感情』を向ける事なんて。こんな冷めた愛情を注いでくるなんて。


「黄依さん……貴女が今何を言っているのか分かりませんわ。私は……私は……まだ心の準備が……」


 すると霧咲さんは私の手を取り、彼女自身の胸に当てた。


「私の鼓動を感じて。私、アンタのお陰で生きてるのよ。自分の欲望に素直になって。私にどうされたいの? 紅葉に言った罵倒に反応してたのバレバレだったわよ」


 ドクドクと鳴る心臓に当てられながら、彼女の冷たい身体とは対照的に私の身体は徐々に火照って言っているのが解る。せめてもの抵抗として、私は首を横に振り違うと言い張る。


「罰せられたいんでしょ? 無理矢理こういう事されたいし、逆に私にもしたかったんじゃないの? 別に恥ずかしい事なんて何一つないわよ。私と同じ。この傷はね、私がお母さんに付けさせたのよ。両親を追い込んだ自分を罰する為にお母さんの手首を掴んであの包丁でなぞらせたの」

「そんな……」


 私は少し涙目になりながら、彼女の嘘くさい悦楽の色に染まった顔を見つめる。


「それを知ってるのはこの世で私と……アンタだけ。本当よ? アンタが私と同類だって気付いたから話したの。私も罰せられたいし、罰したい。そういう人間なのよ。だから、もう一度、あの時みたいに私と身体を重ねてくれないかしら?」

「……」


 私の瞳からかなり多くの涙が流れたのを感じた。それを霧咲さんが優しく拭いてくれるのも感じた。


 彼女が私に好意を抱いてくれているのは本当の事なのだろう。それも自分の命をかけるほどの好意。それ自体は嬉しかった。だけど、それ以上に打算的な目的があってこうして私に迫ってきているのは彼女の表情を見ても確かだった。


 そんな事を考えていると少し落ち着き、自分の心の中でスッと言葉が浮かんだ。


「傲慢ですわよね。私も黄依さんも」

「……そうかもしれないわね」


 すると、霧咲さんは申し訳なさそうな顔をしそれを肯定し、もう隠し事はやめたのか掌にもおさまる小さな箱を私に渡した。その箱の中身を察した私は彼女の希望に応える為に一つ条件を出す。


「一つだけ条件がありますわ」

「……何?」

「どうせ死ぬのなら一緒にですわ」


 そして、私達は互いの欲を満たす為に互いの身体を貪った。この事が、後の悲劇の種になる事すら知らないで。


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