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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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殺人鬼編 8話 共依存1

 というところまでがわたくし特異兵仗アイデンの概略である。


 そんな事を纏めている間に私は自分の部屋に着くと、シャワーを浴びて湯船に入り、身体を拭いた後寝巻きに着替え、現在は暇潰しのために一人様のソファに座り本を読んでいる所であった。夕食は食べなくても大丈夫なのであるが、このまま寝るかどうするか迷っていた。


 そんな時にコンコンとこの部屋の玄関扉にノックの音が叩かれた。感知能力のお陰で誰がきたか分かっていた為どうぞと私の部屋に入るように促す。


「失礼するわ薔薇ばら、夜ごはんは食べたかしら?」


 美味しそうな手料理とお箸、スプーン、湯呑みをそれぞれ二人分乗せたトレーを持ち入ってきたのは霧咲きりさきさんであった。


「わぁ……! ありがとうございます、霧咲さん。わざわざ作って持ってきてもらうなんて、丁度今冷蔵庫にあるもので夕食を済ませようとしていた所ですわ」

「礼には及ばないわ。どうせなら一緒に食べる? 紅葉は部屋で寝込んでるし、瑠璃や翠はどこいったのか分からないし、朝柊はぼっちで食いたがるし……意外と暇なのよ」


 彼女は机にトレーを置くと恥ずかしそうに指先で髪の毛をくるくるといじりながら、言い訳をする様に私をご飯に誘った。


「……! 嬉しいですわ! ご一緒しましょう!」


 私は心の底とても嬉しくなり、少し大きな声でその誘いに乗った。


「ふふっ……そんなにテンション上がるものなの? 喜んでもらえたのならなりよりだけど」


 霧咲さんはクスリと笑うと食卓に着き、私もその対面に座った。料理は天ぷらや茶碗蒸しなどの和食であった。どれも、手間がかかり難しい料理なのに彼女は涼しげに割と余裕そうな表情をしていた。それらの料理は見た目からして美味しそうで天ぷらはサクサクとしており、盛り付けも品があり、一流の旅館や料亭で出てきてもおかしくなさそうであった。


「……本当に凄いですわね。これ全部一人で?」

「ええ、お父さんが料理人だったから偶々家にレシピがあったのよ。それを小さい頃から試行錯誤して作ってたから、ちょっとだけ味に自信はないけれど」

「そんな事ありませんわ! 黄依きいさんの手料理、とっても美味しいですわよ!」


 少し前まで彼女とは仲があまり良く無かった為少ない機会とはいえ、霧咲さんの手料理を少しだけ食べたことがある。その味といえばほっぺたが落ちそうな位美味しかった覚えがある。


「そう……そうかしら? でも、食に五月蝿そうなアンタが言うなら本当に美味しいのかもしれないわね」


 彼女は私の言葉を聴くと顔を赤らめ、少し小さな声で自分の料理の美味さについて認めた。そして、そんな気恥ずかしさからか、彼女は私の言葉に違和感が有ったことに気づき先程の特異兵仗アイデンの実験をした際の会話の事を話し出した。


「そういえば、アンタさっきみんなの前で下の名前で呼ぼうとしたわよね? こうやって今みたいに二人きりの時なら別に良いけど、みんなの前だと流石に恥ずかしいからやめてほしい……」


 両手の人差し指同士をモジモジと合わせて恥ずかしそうに流し目でこちらを見てくる彼女に私は一瞬動揺してしまい、私はつい謝ってしまう。


「ごっごめんなさい! 私も言葉に出してから気付いてしまったから……」

「別に怒ってるわけじゃないから謝んなくても良いわよ。そんな反応されても私が困るだけよ。さっ、ご飯が冷めないうちに食べるわよ」


 霧咲さんが手を合わせると私も同じように手を合わせる。


「いただきます!」

「戴きますわ……!」


 私はまず箸を手に持ちサツマイモの天ぷらに手を出す。トレーには天つゆが別のさらに装ってあり、同じ皿に塩が盛り付けてあった。どちらから行くか迷ったがまずは天つゆを天ぷらにつけそれを口に運んだ。


「……美味しいですわ!」

「そう……それはよかった」


 霧咲さんは一見素っ気無いふうに反応し返すが、私のちょっと見えないところでガッツポーズしているのがなんとなくわかった。それを見ていると改めて彼女と仲直りできて良かったと心の底から思えたのだった。そのきっかけとなったことはもうほとんど覚えていないのだけど、彼女が私の事を受け入れて話しかけてくれるようになったのは蒲公英病の一見以来だった。


「……」

「……なっ何?」

「……いえ、ただこうして誰かとご飯を食べるのもあまりない機会ですし、とても楽しいなって思っていたところですわ」


 なるほどと霧咲さんは呟いた後少し考えるような素振りを見せ俯く。そして何かを決心すると私に向かってうわずった声を上げた。


「アンタさえ良ければなんだけど、ご飯くらいならいつでも付き合ってあげるわよ。それに正式にチームメイトになったんだし、普段からの交流も大事だと思うの」

「……本当ですか? 私としてはとてもありがたいお話ですわ!」


 私からも何も断る理由はない為、その申し出を受け入れた。すると彼女は私の反応を見て、やっぱりそうかと呟いた後、なんでもないといい、それ以降は当たり障りのない世間話を私とし続けたのだった。


 そして、ご飯を食べ終わり、食器を洗い終わると何か改まったように霧咲さんは再び私の部屋にやってきた。

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