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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
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第一幕 21話 邂逅

 少し早めに公園に着いた。


 私、筒美(つつみ)紅葉(もみじ)はただ暇を持て余していた。一度、寮の方に帰って、黄依(きい)ちゃんや衿華(えりか)ちゃんを連れて来た方が良かっただろうか。


 周りには全く人気はなく、ただ風が吹いていて、夜空には今にも落ちて来てしまいそうなほどの星々が煌めいていた。


 そうしてなんとなく夜空を見上げいると可愛らしい音が聞こえた。


 何故だか私を呼んでいるように思えてならなく、好奇心をくすぐられた私は足早に音のする方へ公園に植えられた木々を抜けて向かう。


 公園の中央部辺りに着くと、たった一人で私と同じように夜空を見上げいる子がいた。


 ただその子は公園に置いてある建築物の上に立って、流れに身をまかせるようにして鼻歌を歌っていた。どこか聞き覚えのあるような鼻歌は暇を持て余した私の関心を引くのに充分すぎるほどであった。


 その子は私に気付くと美しい着物と結った髪を揺らし、にこりと笑顔を此方に向けて来た。大体15歳位だろうか? 右目の涙黒子と口元の黒子、そして長く数の多い睫毛が特はっきりと見え、目を瞑っても忘れる事のできない程の顔だった。


 あえて、その子の違和感がするの点を挙げるとすれば、その子を彼女、また彼とも表現できない点。或いはその点の違う表現の仕方をすれば、人間を超えるという言葉がしっくりくる程の美貌の持ち主だった。


 私はその子に目を奪われたのだろう。瞬きや呼吸すら忘れてじっとその子を見つめていた。そして、その瑞々しい唇を開くと、透き通るような声が私を包む。


「月が綺麗だね、お姉さん」


 かぁっと自分の頰が熱くなるのが分かった。この『月が綺麗』という言葉の意味が示しているものが『私への好意』の暗喩だと勘違いしてしまうほどの情熱が感じ取れた。全身の血液が沸騰してしまう程の熱だった。葉書お姉ちゃんよりも熱い熱が私の身体を駆け巡る。


「それなら、私は死んでもいいわ」


 つい、その熱に絆された私は了承の返事を返してしまう。


 しかし、その子は私の顔を見て、着物の袖で口元を隠しながらくすくすと笑い私の方に来る。


「あははっ冗談だよ。きっと純粋なんだね、お姉さん……もしかして揶揄われ慣れてない? 普段は僕みたいに誰かを引っかき回す方かな?」


 首を傾げながら、結ってある髪をくるくると指で弄りながら聞いてくる。動作一つ一つが印象的で、どの角度からでも絵になる子だった。


「あはは……そうなのーびっくりしちゃった」

「よく、『死んでもいい』なんて返答できたね。イワン・ツルゲーネフの片戀(かたこい)の日本語訳だったかな。僕だって、外国の小説に手を出したの最近なのに……」

「よく本を読んでたお母さんがお父さんの告白の返事にそうやって返したんだって。よくお母さんに自慢されたよ。でも、考えた人天才だよね。『あなたのものよ』っていう意味を『死んでもいい』って表現するなんて」

「ほんと、そうだよね。言葉単体だと希死念慮を示しているのに、それを恋愛描写にまで引き上げるんだもん」


 その子はよく笑って、私の顔を見てくれた。

 何故だろうか、とても懐かしいような。そんな気がする。


「でも……『死んでもいい』って言うのは冗談じゃないよね?」

「え?」


 言葉を聞いた私はドキリとし、心臓の鼓動が先程とは違う意味で早くなったのが分かった。


 目の前に立ったその子は、にこりと笑い続けて私の目を見つめてくる。


「あっ、心臓の鼓動が早くなったよ? やっぱりずっと死にたいって思ってたんじゃない?」

「えっと、それはどういう……?」


 咄嗟にとぼけるような言葉が私の中から出てくる。


 何故なら、その子の言っていることは全て本当の事だから。


「あっ……ごめんね。別にお姉さんの事困らせたい訳じゃなくてね……その、僕と同じような境遇の人がいた事にびっくりしてね」


 その子は嬉しそうに私の手を繋いできた。


「僕ね、感情生命体(エスター)なんだ」

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