幕間 私のペルセポネ / 殺人鬼編 1話 特異兵仗1
口にしたら囚われる。
空腹に耐えなければ囚われる。
私はそんな甘い甘いザクロの実。
冥界に実がなる魅惑の甘い堕落の果実。
ひとり、またひとり。
私を食べて堕ちていく。
私を食べて狂っていく。
じゃあ私を殺してくれるのはだあれ?
早く逢いに来て。私を殺して。
その金色の髪を揺らして。そのナイフで私をキレイに切り刻んで。出来ればアナタに口にして欲しい。
きっとアナタは私を食べてくれないけど、アナタは私と同類なのよ。だから、私が死んでもアナタは狂う。アナタきっと食べてはくれないけれど、私はアナタに咲いてみせるわ。
そして、その怨みを、その異常性をこの世に解き放ちましょう?
アナタに私を実らせて。
アナタを誘う為のスイセンのお花は用意したわよ。
だから、私のペルセポネ。早く、早く、堕ちてきて。
☆
護衛軍本部にある幹部の部屋。
個室のオフィスのようなこの部屋で私──水仙薔薇は現在直属の上司である天照輝大将補佐に例の件の報告を行なっていた。
彼女の手には娘──情花ちゃんが抱かれていた。天照大将補佐は既に体調は戻っており、この半年間鈍っていた腕を取り戻しつつあった。
「そう、色絵青磁がね……大方睨んでいた通りだけど、そうなるとやっぱり紅葉ちゃんも……」
「それは分かりませんわ。ただ、もし筒美さんがあの教祖であると考えると……いえ、コレは良くないことですわね」
「えぇ……そうね、仲間を疑ってしまう事になるもの。でも護衛軍に樹教のスパイが侵入している、蘇芳ちゃんはそう確信していた……」
私はここ最近単独で樹教に潜入調査しているのであった。理由は私が一度彼女達に捕まり、厄介な事に敵の術中にはまってしまい洗脳されてしまい逆にコレを利用できないないかと護衛軍内で白羽の矢が立ったから。
もう少し詳細に話せば、その時に彼女達から私と霧咲さんを解放する取引として私を樹教のメンバーに入れ護衛軍の情報を樹教へ流させる事を強制させたのだった。それの取引を成立させるために、私の頭の中には未だに虫が入っているらしく、それを取り除く事は可能であるのだが、此方が利用する為にあえて虫をこの中に残している状況であった。
勿論、手術により虫から洗脳できるような能力は失わせたが、この任務は作戦を指揮する天照大将補佐と実行する私しかその全貌が理解できていないものでもある為、前回の会合で色絵青磁氏が樹教に参加していることを初めて知った。
同時にあちらも仮面越しではあったが私の事を認識したのか、彼が此方を怪しんで見てきた様子はあった。
「それで、樹教の幹部の事だけど……何人確認出来たか分かるかしら?」
「私や色絵青磁を合わせると、9人ですわ。特徴的だったのは私を含めて円卓周りにある9席中7人座っていた事でしたわ。座っている幹部達は全員仮面をつけており、正体が分かる事はございませんでした。一方で何故か立たされた二人は仮面を付けず会合に参加していましたがその片方が色絵青磁氏でしたわ」
「9人。それに座らされた人物、立たされ仮面もしていない人物……それらに何か重要な違いが有ると考えるのが妥当よね。色絵青磁の事と『恐怖』の関連性を考えれば古参で有れば座る事のできる人物になれるという訳では無さそうね」
天照大将補佐補佐は手元の情花ちゃんをあやしながら、推測を話す。そして、私はあの会合で出会った彼女の事を話す。
「ちなみにもう1人立たされていた方は私より少し年齢が下に見える女性の感情生命体でしたわ。彼女は柘榴と呼ばれていて右目には骸骨の模様が刻まれていて、蘇芳さんの左目の様になっていましたわ。おそらくあの衝動の強さからも考えると感情生命体だと思いますわ。それに目の事も踏まえると、蘇芳さんや白夜さんの両親を殺した例の『収集家』と何かしら関係のある感情生命体かもしれませんわね」
「……特異能力者だけを生かし肉体を持ち去るという例の特異感情生命体ね。そんな危険な感情生命体を樹教が受け入れるかしら」
それは最もな話だ。表上、死を極端に避けようとし樹を崇める彼女達が、殺人鬼を味方に取り込むのだろうか。通常で考えうる限りではそんな事はあり得ないだろう。
しかし、樹教の教祖は感情生命体を操る特異能力を持つ。殺人鬼の特異能力が有用な能力であった為利用しているという説が一番正しそうだ。
「もし、彼女……柘榴が『収集家』なら此方もそれ相応の特異能力者で対応しなければいけないわね。万が一の事を考えて筒美先生はアテに出来ないし……氷華くんを呼んで樹教に対して攻撃しなければならない時が来るかもしれないわね」




