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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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プロローグ デストルドーの恵投18

くれない様がいらっしゃったわ、柘榴ざくろ

「そうみたいですね〜ここまで強い『自死欲タナトス』は死神さまにしか出せないですからね〜」


 柘榴と妹に呼ばれた少女は紅様の方をじっと好意的な目で見つめた後、その周りにいる私を含めた『いぇん』・『まりぃ』・『マルベリィ』の4人をキラキラさせた瞳で眺めた。


 そして一通り目を通した後、『いぇん』の方を向くとより嬉しそうな笑顔になり、紅様を通り越し一瞬で、彼女の近くへ駆け寄り耳に囁いた。


「私を殺しに来てくれたのですか〜?」


『いぇん』はそれに瞬時に反応して、近づいてきた彼女を殴り飛ばす。だが、吹き飛ばされた彼女の顔は一切傷がついておらず、笑顔で『いぇん』の方を瞬きもせずにじっと嬉しそうに見つめていた。


「あぁ……そうだよ。私はここにお前を殺しにきた」

「嬉しいです〜本当にあの時の子が私に殺意を向けてくれるなんて〜」


 彼女のそんな様子を見て『いぇん』は仮面の下から舌打ちをし、彼女に対して明らかな嫌悪感を示していた。


「チッ……めんどくさい。それに本当に気持ち悪いな。マジに私の身体を使ってるのか……」

「ふふふ、そうですよ〜。アナタの身体私の本懐には必須な特異能力エゴですから〜」


 柘榴は自身の頭に指を指し、口角を上げて笑う。


「さてと……これ程の数の感情生命体エスターからリンチされるなんて私は幸せ者ですね〜そして一番すごいのはやっぱり死神さまですよね〜」


 だが、柘榴がこの言葉を呟いた瞬間には彼女と妹は跪くような姿勢になっていた。原因は勿論、紅様の特異能力エゴ。彼女の力は感情生命体エスターの全てを支配する能力。相手が感情生命体エスターであるならば目で認識されただけでも、身体の自由を奪う事は可能で、触れてしまえば洗脳さえ可能なものなのである。


「跪いたわね。一つ確認したいのだけど、金剛纂やつで……貴女まだ自分自身の自我はあるわよね。」

「勿論で御座います。紅様」


 瞬間、先程までの妹とは打って変わり、いつも通りの金剛纂ちゃんの様になっていた。


「成程。金剛纂の精神内部に他人が混じってる様に見えたのは、そこの感情生命体エスター──柘榴と言ったわね……彼女と契約したから。そうよね。」

「その通りで御座います」


 という事は妹は洗脳されている訳では無い。じゃあ何でこんなどこの馬の骨とも知らない感情生命体エスターと……。


「金剛纂ちゃん……」

「柘榴……予想とは違って大分人間らしい殺人鬼なのね」


 くれない様は私に心配無いという事を示す為に仮面を取りその素顔を見せる。それと同時に紅様からそう言われたのが嬉しかったのか、紅様の素顔……筒美つつみ紅葉もみじの顔の美しさに感動したからなのか、感極まって遂に涙まで流していた。


「……ありがとうございます〜」

「別に褒めたつもりでは無いのだけど……まぁいいわ、金剛纂。貴女は柘榴の事どう思ってるの?」

「……面白い感情生命体エスターだと思ってはいます」

「金剛纂がそういうのならばそうなのでしょうね。一つ懸念点があるとすれば……」


 紅様は柘榴へ近づいて行き、目の前で話しかける。


「貴女は何故人を殺すの?」

「心からそうしたいと願っているからです〜」


 すると、紅様は愉悦そうな笑みを浮かべ、柘榴が腰につけていたナイフを彼女自身の手に持たせ、自身の胸を刺すように近づけていった。


「紅様ッ⁉︎」

「大丈夫よ……この子は私を刺せないから」


 そして、言葉通りに紅様を刺せずに手を震わせナイフを落とす柘榴。


「はぁ……はぁ……勿体ないですよ〜死神さまを殺すなんて〜」

「そう……勿体無いのね」

「そうですよ〜命が……魂が……感情が……勿体無いんですよ〜」


 柘榴の顔は紅潮しながら涙で顔をぐちゃぐちゃにし、彼女がもうどんな感情を抱いているのかよく理解できなかった。


「貴女、人間が本当に嫌いで大好きなのね。それで普通の一般人の中でも特に自らの死を願うような不幸な人間をよく狙いそして苦しみを感じないように即死させていた。その人達に対して貴女は嫌悪すら感じていたと思うけど、それが自分にとって生きる為行為で他人を救う唯一の方法だと思っていたのね。一方で私達みたいな『キレイな人間』を愛おしいと思い自分の身につけそうして他人を理解していく。それが貴女の本懐なのね」

「……今日は幸せな日です〜。二人も私の事を理解してくれる人が出来たなんて」

「チッ……やっぱりこうなったか」


 うんうんと柘榴は縦に首を振り紅様の手を握り続ける。傍で『いぇん』は舌打ちをし、溜息を吐いていた。


「私達の目的はそんな可哀想な人間を滅ぼし、そして感情生命体エスターにすること。それって柘榴の『幸せ』なことと一緒じゃない?」

「……殺す以外にも方法はあったんですね〜」

「当たり前よ。今のこの世界を作ったのは私だもの。全人類、『死ぬ』事なんて一切赦さないわ。そこは少し貴女と考えが違うかも知れないけれど、これからはそれ以上でそれ以外の『ありとあらゆる感情』を全人類に享受させてあげる。己の幸福も不幸も。他人を施す優越感も、他人を貶す優越感も。人の種類だけその感情は存在する。だけど、全人類が感情生命体エスターになればそれぞれがそれぞれの感情を貪る為に行動を始める。そうなれば満たされない人なんて居なくなるでしょ? だから、貴女の殺意だって肯定される。今度は何をしても正しい、そして同時に何をしても間違っている世界を創ってあげる。どう……? そんな世界貴女も一緒に作らないかしら? 貴女にはその資格があるわ」


 柘榴はそれに即答し興奮気味に答える。


「はい。喜んで〜」


 こうして、私達は竜胆りんどう柘榴を幹部に引き入れたのだった。


 そしてこれが、止まっていた『紅葉狩り』の計画をようやく進めた大きな一因となるのだった。

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