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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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プロローグ デストルドーの恵投17

 デストルドーの恵投。


 デストルドーというのは『自死欲タナトス』の同義である『死へと向かおうとする欲動』の事を意味するのだろう。


 それに加えて恵投というのは他人に与えるという意味だ。


 つまり、この印は他者に死を贈った証。私もアナタも『ひとごろし』である事には変わりないという事を証明するもの。


「なるほど……つまりコレは私がアナタと同じモノになったという証明でいいのかしら?」

「大まかに言えばそれで問題ないですよ〜」


 心の中にまるで私の思考を導いてくれる人がもう一人いるみたいな感覚がする。そして、その思考に従うたび快楽と名前の付けられないこの感情が心の中から水のように溢れてくる。


 ようやく同じになって実感できたこの『感情』。頭も視界も真っ白になるほどにきらきらと光るそれに照らされているだけで私は幸せになれた。


 だけどいまだにこの感情の正体を私は理解しきれていなかった。


「……素敵ね。コレが狂ってしまうって感覚かしら」


 分からなくてもいい。理解できなくてもいい。コレが壊れている『感情』だとしても、コレが意味の分からない『感情』であっても、今は私を心地よく満たしてくれる『感情』だから。


 だから、この『感情』を1秒でも長く続けば良いなと私は心の底から懇願した。


「良かったです〜。私もアナタになる事ができて。でも、正確にはアナタは私と完全に同一の存在なった訳ではありません……あくまでもアナタの中に私という『感情』が産まれただけなんですよ〜。だからアナタの中の私だけでは埋められないアナタの願いや欲望はコチラの私を使ってくださいね〜」


 柘榴ざくろは胸に空いている手を当てて此方を微笑んだ。


「アナタという人はどこまでも……」


 その後の言葉に詰まってしまい私は柘榴に微笑み返し、頭の中にふとよぎった事を言葉にしてみた。


「……ねぇ、一度してみたかった事があるの」

「なんですか〜? 今度はアナタの番ですから私に出来る事があるのなら何でも言ってくださいね〜」


 私達は互いの息が感じ取れる位の距離で見つめ合う。


「キスでもするんですか〜?」

「いや……そんな直球な事はしないわよ。私達の間にそんな証明もう必要ないでしょ? それにアナタが嫌がると思って……」

「普通の人間相手なら嫌悪感はありましたけど……アナタなら全然構いませんよ〜? 寧ろ嬉しい位です〜」


 分かっているくせにまるで解ってない内容な反応をした彼女に対し私は少しムッとしながら彼女に言葉を返した。


「気持ちが分かるなら察してよ、本当は私が嫌なの。私はお姉ちゃんみたいに誰にでも愛想を振り撒けるほど器用じゃないし……」


 すると彼女は塞がっていない片方の手の人差し指を私の唇に触れさせるようにして立てた。


「お姉さんはお姉さんだし、アナタはアナタだから自分の感情は色々な言葉で誤魔化すべきじゃない……でも、アナタがそう言葉に出して言うのであれば、きっとそれで良いと思いますよ〜。だから、アナタが初めに思ったことを私と一緒にしましょう〜?」

「……そうね。……そうか。人に心が理解されるという事は……こういう事なのね。……分かったわ。それが一番良いわよね」


 私の呟きにこくりと頷いた彼女は私が言葉を整理する時間を待ってくれた。


「……手を出してくれる?」


 言葉を口から出した瞬間私はとても恥ずかしい気持ちになった。


 ☆


 最愛の妹の特異能力エゴで作られた蠅から虫の知らせが来た時、私──茉莉花まつりかは焦燥に近い感情を抱いていた。


 そして、幹部全員とくれない様を含めた全員が金剛纂やつでちゃんの居場所に着いた時には既に全て終わっていた。


「らららら〜」


 学校の屋上で楽しそうに歌いながらくるくると踊り両手を繋いでいる二人の少女がそこにはいた。片方は私の妹だったのだけど、もう片方は異常な程の『衝動パトス』を放っている少女の形をした感情生命体エスターであった。


 ひとまず妹の無事が確認出来た瞬間安堵したが目を凝らしよく見てみると、その安堵が怒りへと変化した。


「金剛纂ちゃん……?」


 血に染まった床の上で、大量の血を浴びた服を着ている二人。そこに今まで見たこともない様な笑顔でお互いだけをその骸の模様の付いた瞳で見つめあっている二人。あの行儀の良い妹がこんな子供らしい笑い声をあげながら踊っているなんて事、あの子の性格を考えればあり得ない事なのだ。まるでその様子は狂喜乱舞した異常者さながらの光景であった事には変わりはなかった。


『金剛纂ちゃんが洗脳された……?』


 それを理解し足を踏み込んだ瞬間、私は紅様に止められた。


「あの女っ……!」

「茉莉花……私が行くわ。アレは恐らく貴女じゃ飲み込まれるだけ」


 勿論、それで私は足を止めた。紅様の言葉には安心感があったからだ。しかし、その中でもほんの少しだけ動揺しているようにも聴こえてしまった。


 紅様が彼女達に近づき始めると、二人は即座に、そして一切表情を変えず、悦ぶように此方を向き、歌と踊りを辞めた。


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