プロローグ デストルドーの恵投10
だが、柘榴は口角を上げて笑いながら着ているパーカーを脱ぐ。
「『人格形成』の真価の察しはついたみたいですね〜」
彼女の身体の四肢の付け根のそれぞれと首には大きな縫い跡があり、露出した腹部にも一つ小さな縫い目がつけられていた。
「貴女……まさか特異能力者の身体を移植したの……⁉︎」
ようやく、被害者から奪われた身体のパーツの所在を理解できた。が、そんな現象あり得ない。通常の人間……いやたとえ感情生命体だとしてもそんな事をしてしまえば締めるのは自分の首だ。
『移植手術が死喰いの樹が存在するこの世で成功するのか……? いや、仮に無理矢理に自分でその手術を行い適合が成功したとしてもその反動で起こる自死欲の呪縛から逃れられる方法があるとすれば……』
彼女は私の予想を超え、人として生物として最も凶悪な能力を持っている可能性がある。全ての仮説が正しければコイツは今確実にここで殺さなきゃいけない相手だ。
「……貴女の被害者、操白夜には死体をこの世に留め操る特異能力──『死体人形』があった。まさか、それを使って貴女はその身体を使っている……?」
私の話を聴くと柘榴は再び笑い、恍惚とした表情を浮かべつつも冷静に此方の様子を伺いながら嬉しそうに頭を縦に振りながら肯定した。
「大正解です〜。ちなみにその妹さんの朝柊ちゃんの脚がコレです〜」
1秒たりとも表情をほほ笑みから変えない彼女にも戦慄したが、もっと恐ろしいのがやはり彼女が操朝柊ちゃんの特異能力を持っていた事だ。
つまり、特異能力の出力をリスク無く調節する特異能力──『調律』も使用可能という事であった。
「一体幾つの特異能力をその身に……?」
「大まかに数えると6個です〜実際には『反転』としての特異能力もあるので細かく言うと8から10個ですけどね〜」
丁度柘榴に持っていかれた人と彼女自身の特異能力の数の合計が彼女の放った言葉とほぼ一致した。
だがこの事実は私を絶望に陥れるものではない。複数の特異能力を操るということはそれ相応に弱点があるということだ。
そしてそれが、彼女が私に仕掛けてきた目的へとつながる。
「目的がわかった。貴女は自分の弱点を補う為に私の特異能力を奪う気ね。そしてその弱点というのは奪った複数の特異能力を完璧には制御しきれないこと。私の特異能力以上に他の特異能力の収集と使用を同時に行えるものなんてない。つまり、私の身体の一部を奪い複数の特異能力を制御する。それが貴女の目的。まぁ、それで何がしたいのかは知らないけど、おおかたより殺人を行いやすく自身の生命力を安定に保つ為にとかでしょう」
私はこれまでに奪われた特異能力の能力の効果の傾向を照らし合わせて、それらが彼女の本来の特異能力をより強いものとして機能する為に後から付け加えているものだとわかった。
そして、私の特異能力もその条件にあてはまるのだった。だからあとはその複数の特異能力を持つ理由を探せばよい。そうなると、彼女の普段の行動の行いである殺人に何か理由があるのではないかと睨む。
だが、私の解答は未だ情報不足であった。
「ぶっぶ〜。選択肢にそれしかなかったのなら妥協で正解をあげても良いですけど、これは記述問題なので40点です〜。高校なら赤点ギリギリ回避なので、採点は厳しめで不正解という事で」
彼女は私の貼った多重の防御術の結界の一番外側を全く動きを見せず破壊した。
最早、柘榴の『力動』では説明の付けられない程の高火力を有した攻撃。先程の私の蟲を全て一瞬で排除したことといい、今回の防御術を破った事といい、此方が感知し辛い攻撃に特化した特異能力も持っている。
おそらく、踏陰蘇芳ちゃんの『陰影舞踏』。光の当たらないERGを素材とし多種多様な性質を持つ『シャドウ』を作り操る能力。最速で光速かつ最大攻撃力を持つ『光陰矢』を始めとした、陰さえ確保していれば大抵のことはなんとかできる理不尽な特異能力であった。
それを今の状態の私が受け流せるかと言われれば甚だ疑問であった。だが、対策していないわけではない。逆に問題は蘇芳ちゃんのもう一つの特異能力──『知能向上』により私が取ってくる対応策を予想される事。もし、それをされれば厄介極まりない。打つ手が相手にバレてしまうため此方の勝ち目が無いとは言えないがかなり薄くなってしまう。
その結果がどちらにしても、私と同じく複数の特異能力を使う相手がここまで戦い辛いとは思わなかった。
「……ッ!」
「さてさて、このままじゃやっぱり拮抗感がないのでヒントをあげます。私からのワンポイントアドバイス!ってやつです〜」
柘榴は微笑んだまま人差し指を立てポーズを決めながら、私に説明を始めた。




