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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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プロローグ デストルドーの恵投9

「だから逃げちゃダメですよ〜」


 まるで注射から逃げ出すような子供を諭す医者のような喋り方で彼女は私の方へゆっくりと歩いてくるのだった。


「……止まりなさい。単刀直入に聞くわ。柘榴ざくろ、貴女の目的は何?」


 私はより警戒を強め、彼女が近づけないように防御術の応用により結界の壁を貼る。だが、彼女は止まらず結界に当たると身体全体で体重をかけるようにしてそこへもたれかかった。そして結界越しに私の視線から外れないようにずっと私の瞳を見つめている。


「最初に私の目的を聞くんですか〜? ふふふ、アナタもやっぱり人の行動に理由を求めるタイプの人間なんですね〜」

「……何が言いたい?」

「いいえ、別に〜ただの興味本位です〜」


 私の結界に対して破れるものが手が少ないのか、彼女は笑顔のまま指で円を描くようにしてその結界の表面をなぞっていた。


 もし、相手が私の事を狩りの対象だと認識し、此方を舐めているのであればまだ策を練る事は可能だ。


 だが、彼女はまたも私の予想だにしない事を口にする。


「あっそうだ。私の目的を当ててみてくださいよ〜。アナタの事を知りたいという理由以外も勿論ちゃんと理由があるんですよ? 付き合ってくれたら、お仲間呼ぶ為のその蠅ちゃんは見逃してあげますよ〜」

「……!」


 やはり私の思考を読んでいるのか、柘榴は私を弄ぶように声をかけた。


「今、アナタなら思考を読まれたって考えた筈ですよね〜? ええ、そうとおりです〜。私はアナタの事を知り尽くしてるんですよ〜? ずっとずっとアナタと事を考えているとですね、アナタの事がわかるようになるんですよ〜」


 嘘を言っているようには聞こえない。恐らくこの思考を読む能力も『いぇん』の能力のように、過去に被害者から奪った特異能力エゴだろう。だが、私の考えが分かったところでこの防御術が取り除けないようなら千日手。むしろ仲間のいる私の方が有利そうではありそうだが……


「どうやら考えは同じになりそうですね〜。そうです〜。このままじゃ戦いは終わらないんですよ〜。お互いに本気になって殺し合えば話は別だと思うんですけどね〜? アナタが望んでいない事を私も望んでいないですし、まだまだ前哨戦。お互いの底が見えた時に本気は出したいですよね〜。でもでも、それじゃあせっかくアナタと邂逅できたのに今はまだ何も感情が昂らなくてつまらないじゃないですか〜」


 私は黙って柘榴の言うことを耳で流し、どうするのか考える。


「そこで一つ提案なんですけど、私実はアナタが一生をかけてまで捧げたいと思っている相手の居場所はもう分かってるんです〜。今は一人でお休み中みたいですけどね〜その寝込みを襲ってしまえば私でも殺すことくらいは可能なんですよ〜」

「どうやらそのようね。思考が読まれるなんて、厄介この上ないわ」


 私は上辺で言葉に嘘を交えながらやれやれと言葉を吐いた。


『ブラフだ。もしくれない様の居場所が分かっていたとしていても紅様が今現在、絶対"一人で“睡眠をとっているなんてありえないのだから』


 紅様は感情生命体エスター。そもそもがほとんど睡眠を必要としない為、唯一と言っていいほどの隙となるその睡眠時間は私達幹部が絶対に隣にいるのである。


 このブラフのお陰で疑念が確信に変わった。柘榴の思考を読む能力は正確にはリアルタイムやこれから行う行動の思考を読む能力ではない。私の事を知りたいのであればその能力で私の行動から何までを覗き見その人となりを予測すれば良い。他にも私が発言した事でようやくその反応を顔に出したものもあった。


 人の思考を読むのにも限界があるのか? 否、そもそも思考とはまた別のものを感じとる能力なのか? とするのであればこの特異能力エゴの正体は……


「ふふふ。やっと返事をして頂けました〜。お喋りは楽しいですね〜特にアナタみたいな人とのおしゃべりは格別です〜。でも、アナタの考えを一方的に覗き見てるみたいで今のままじゃ可哀想なので一つヒントをあげます」

「要らないわ。舐めないで貰える? どうせ貴女、ジャンケンでもして私の思考が読めない事伝えるつもりだってんでしょ?」


 私がそう言い返すと、彼女はとても笑顔になり嬉しそうにコクリコクリと頭を縦に振った。


「わぁぁぁ! 凄いですね〜。流石、私の見込んだ通りです。そう、この特異能力エゴの名前は『人格形成フォーミングアイデンティティ』。とある男の子から奪った、他人の人格をトレースする能力です〜。ある程度の人の癖までなら読めるんですけど、流石にアナタ以外のことはちゃんと考えないと思考までは読めないのでとても扱いの難しい、でも良い特異能力エゴなんです〜」


 彼女はまた自慢するように私の目をみて嬉しそうに笑う。その様子を見ていると彼女が快楽殺人鬼とは思えなくなってしまいそうになる。


 だが、その前に彼女はあからさまに私が怪しむような言葉選びをしてきた。こんなことしても何も得なことはない筈なのに。


『柘榴の目的はなんだ?』


 それに引っかかる点がもう一つある。私の蠅の反応を全て消したのはまだ力動によるものだと考えればまだ納得は出来る。


 だが、何故私の位置を特定出来たのだろうか。もしこれが特異能力エゴであるならコイツは身に一体幾つ『特異能力エゴ』を宿している?


『そもそも、他人の特異能力エゴ自身の身に複数以上も宿し人格を保つことは可能なのか……?』


中継地点レイジーリレー』・『人格形成フォーミングアイデンティティ』そして、もう一つ私の位置を瞬時に特定した能力……


 今、分かっているだけでも三つの特異能力エゴを彼女が持っている。複数持ちでも3個以上を同時に扱う存在は私や『いぇん』以外存在を見た事がない。


「でもですね、この特異能力エゴの真価はそれだけじゃないんですよ〜」


 他人の人格を自分へとトレースする。確かに相手の癖を読めるなどこと戦闘においては読みという一点に関しては恐ろしい威力を発揮する。だが、他の物と比べてみると些か地味に思えてしまうのは事実である。


『この能力の真価……まさか……』


「……ッ!」

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