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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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プロローグ デストルドーの恵投8

『コイツが本当に『収集家コレクター』なのか……?』


 明らかな衝動パトスを感じつつも、私にはそんな疑問が湧いてしまう。感情生命体エスターである事には変わらないが、何か違う違和感を感じる。


『とにかく、早く情報をくれない様に伝えなければ』


 私は彼女達を呼ぶ為に『いぇん』の特性を受け継がせた蟲を使う準備をする。一度、霊園へと放った蟲との連絡を切断し、転移能力を持つ蟲を私の腕に密着させた。


『これでよし。あとは霊園に飛ばした蟲を常に視覚共有できるように設定すれば』


 そして私が特異能力エゴ持ちの蟲に視覚を共有した瞬間だった。


「……⁉︎」


 目があったのだ。


 寝ている筈の彼女が此方に顔をのぞかせ、その左右違う模様の瞳を此方に向いているのだ。左目は通常の人間の瞳。色もやはり通常の日本人と言ったような瞳であった。だが、右目は常軌を逸していた。


 人の顔面の骸が描かれた眼球。それは生まれつきの模様などではなく、自ら抉って模様として描いた傷のような違和感がある。


 そして、彼女と目があったのは私の操る蟲の複眼ではない。


 ──私の本体の方だった。


 1km先をこの暗がりで見る事ができるとなるとやはり相当の使い手となる。


 危機感を感じた私は肌に密着させた蟲の特異能力エゴをすぐさま発動させようとした。弱体化のせいで転移には20秒ほどのインターバルが生じるが、準備していた事もあるためおおよそ残り10秒。


 もし、奴が此方に一瞬で来るような特異能力エゴを持っているようであれば応戦し、蟲だけでも紅様に届けなくてはいけない。状況が伝わり、『いぇん』やお姉ちゃん、全員の戦力を集めてここに来れるまでは5分から10分程。


 もしくは蟲と同時にアジトへ帰る、それができればいいのだが『収集家コレクター』を取り逃す事になる。もしくは奴が私自身を索敵する方法を持っていれば、私を追いかけて此方が準備できないうちにアジトへ侵入され、こちらに被害が出るのだけは絶対に避けたい。ベストだと言える選択肢では無い。


 だから、蟲が殺される、それだけは防がなければいけない。そして、時間を稼がなければいけない。


 だが、一瞬の間を置いても奴は此方に攻めて来ない。


 1秒、2秒……


 私が買い被りすぎたかと思った丁度5秒のところであった。


 私は背中に冷や汗をかき、現状に戦慄する。


『送り込んだ蟲の反応が一瞬で消えた……』


 それはこの5秒で『収集家コレクター』に霊園跡地へ送り込んだ蟲が全滅させられた事を意味した。


 瞬間、私は全て理解して全力を出す為に各地方に放った蟲の動きを止め構えた。


 そして、その時は静かに訪れた。


 6秒経過。


「こんばんはですよ〜」


 薄気味悪い声と共に私は後ろから拘束され首筋にナイフを押し付けられた。


『『いぇん』の能力……私よりもインターバルが少ない。やはり、奪った肉体を用いなんらかの方法で特異能力エゴまで支配下に置いていたか……! それに転移の準備をしながら私の蟲をあの暗闇で1匹残らず全滅させた。よりにもよって戦闘に使える蟲を始末された。私と戦闘になる事が分かっていたならなんて手際が早い』


 私はその拘束を一瞬で解き、距離を取る。


「こっちに来て、お話しましょう? 私、アナタのこと知りたいんですよ〜?」


 敵意も害意も感じない。それよりも恐ろしいのがそれを感じさせずに異常なほどの『殺意』を感じる事だ。


 まるで他人に『殺意』向ける事が礼儀だと言わんばかりのような感情であった。


「……名前。私の事を知りたいなら、まず貴女が名乗るのが礼儀だと思うけど?」


 彼女の言葉に従い、会話を始める。それと同時に相手に悟られないように蟲を転移させる準備を続ける。


「……それもそうですよね〜私の名前は竜胆りんどう柘榴ざくろ。これからよろしくお願いします〜金剛纂やつでちゃん」


 此方に曇りの一点もない笑顔で微笑みかける彼女は私の教えてもいない名前を声に出して呼んだ。


「そう、柘榴って言うの。いい名前じゃない」


 私は平静を装うが内心では疑問とパニックで頭が一杯になっている。


『私を索敵した事といい、私の名前を知っている事といい、此方だって気配を隠しているのにこれらを正確に察知出来るなんて可能なのか……? 私について何処から情報を収集している……? 考えられる要因としてはやはり特異能力エゴだが……もし思考を読むような能力ならやはり皆んなの元へ帰るのはまずい。このレベルが暴れれば被害がどうなるか……』


 そんな中、彼女……竜胆柘榴は嬉しそうに私に両親について自慢する。


 それにゆうに10秒は越したが、下手に動いて気付かれれば……


「そうなんですよ〜。こんな名前つけてくれたなんて、パパもママもまるで私の運命を知っているみたいですよね〜。本当に最高のパパとママですよ〜」

「……じゃあ、私に絡まずパパとママのところへ帰れば良いじゃない」

「ちゃんと後でそうする気ですよ〜? でも今は他にやる事があるんですよ〜」


 丁寧語を含むその喋り方はまるで本当に私自身を敬っているかのような物言いで、改めて彼女の気味の悪さを感じさせられた。


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