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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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プロローグ デストルドーの恵投7

 私は今日も夜間にそれぞれの地方にある都市部を転移しながら、索敵用の多数の種類の蟲を解き放つ。


 夜に移動を行う理由は『いぇん』の特異能力エゴは夜間に強化されようやく長距離移動を可能となる為、それ以外の時間帯だと効果が少なくなる。私の蟲に反映させたものも同じ特性を引き継いでいる為、闇の深まった夜にしか転移は行えない。


 そして、各地域に100匹までなるべく悟れないように蝿だけでなく蚊や蛾、蝶や蟻、蜚蠊や蜘蛛、様々な蟲を用意する。流石に蝿の時のようにはいかない為、その全てに摂食することで得た特異能力エゴを反映させる事はできない。


 もし、都市部それぞれに放った蟲を特異能力エゴ持ちのものにすれば生産にコストがかかり私への負担が重くなる。そうなれば、蟲の操作や生産に集中しなければいけなくなるため、闘いになった際不利である。


 それを対策するために、『焔』の時のように蝿のみを生産するというのもあり一度増やしてしまえば後は勝手に増えてくれるのだが、私の特異能力エゴは護衛軍にすでに種が割れているので、彼らと接敵の可能性が高まるのでたる。


 だから、今は隠密行動を優先して蝿以外の蟲を使い、能力選択の豊富性を削るのだ。


 こうして蟲から得た情報を元に私は『収集家コレクター』の位置を探しているのだが、これが中々に見つからない。


 これまで現場は見つけたとしても、既に器用に解体された死体があるのみで、『収集家コレクター』それ自身の姿は確認出来なかった。


 証拠は存在をアピールする為に残すくせに痕跡を一切残さない『収集家コレクター』の薄気味悪さや手際の良さが目立ち、私は現段階でかなり厄介な感情生命体エスターだと認識した。確実に殺すのであれば私だけでなく茉莉花まつりかお姉ちゃんや真理亜まりあの力も借りたい。可能であれば『いぇん』やくれない様の力も必要になってくるだろう。


 その為にも奴の拠点を探らねばと思う。


「……どちらにせよか」


 私は溜息を吐きつつ、再び転移を行う。場所は護衛軍本部のある名古屋であった。勿論ここへは適当に来た訳ではなく、アテがあってここへ来た。


 そう、『収集家コレクター』の被害者で生存している特異能力者エゴイストは全員この地域に居るからだ。それに、奴に解体された死体を一切見つけていないのはここだからだ。何かしら縁があるとするのであればここが一番怪しいだろう。


 現在の場所を詳しく言えば護衛軍本部から少し離れたところにある学校の屋上。近くに大きな池と現在でも活動の許されているとある宗教の為の教会がある。


 何故ここへ来たかと言われれば勘に近いものがあるのであるが、この土地には何か曰く付きの怨念のような、死者に比較的近いような雰囲気があるといえばいいのだろうか。


 実際にここは死喰い(タナトス)の樹が生える前は巨大な霊園や霊柩電車なるものが走っていたという歴史がある。電車の方はなくなっているが霊園の方は跡地として現存しており、その270000平方メートルを超える大きな敷地にはもう殆ど残っていないがその頃に行われた戦争の被害者が葬られた墓が少し残っているらしい。と言っても、そのほとんどは樹によって地形を変えられ薄気味悪い森となった場所であった。墓の概念が無くなった今では珍しい心霊スポットの一つである。


 とにもかくにも、死体を収集するような奴が隠れ潜むのには持ってこいのような場所なのだ。


 私はここについて早速、その1km以上離れた跡地に向けて多数の蟲を放つ。蟲に付与させた特異能力エゴは『強制催眠フォールスリーパー』と『植物変幻フラワーデイズ』。紅様と『マルベリィ』、そして『いぇん』の能力を反映させた蟲はは念の為私の近くに漂わせている。


 そして、私は蟲の視覚を共有し霊園跡地の森を散策する。一見ただの森だが、そのところどころにとても古く石でできた墓標があるのが見える。夜目は効くため暗さはあまり気にならないが、何か視線を感じるような気配がした。が、索敵範囲内には誰もおらず本当に気のせいだという事がわかった。


 私はそのまま散策を続ける。あらたか敷地内の全てを散策し終わりそうになったところで、比較的大きな墓標と人影を見つけた。


 その墓標には意外な人物の名前が書かれており少し驚く。


漆我しつがさくら


 くれない様と同じ苗字の名前が書かれている墓標であったのだ。


『なんでこんなところに……?』


 だが、その驚きよりも警戒を優先すべきは墓標に抱きつくようにして眠っている彼女の方であった。


『……居た』


 一見何処にでもいるただのおさげの少女にしか見えないが、彼女の放つ衝動パトスは人間のそれを遥かに凌駕する感情であるのは蟲越しに見ている私にもひしひしと伝わった。


 まだ秋も始まったばかりだと言うのに彼女はもう長袖を着ている。だが、それ以外は彼女の容姿に特筆すべき点は無い。


『聴いていた話と随分違う……』


 事前情報では快楽殺人を犯し、『力動』をも嗜んでいるという事を聴いていたが、そんな様子一切彼女の人相からは読み取ることはできなかった。

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