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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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プロローグ デストルドーの恵投5

くれない様を……食べる?」


 思わぬ単語が紅様から声として出てきた。心臓が飛び跳ねたのかのようにドキッと鼓動する。


「ええ、そうよ。せっかく食べて貰うんだもの。それなりのお召し物を着てもらわないと。」

「……!」


 私の予想が正しければ紅様の言っていることは本当の意味で紅様の肉体を食して欲しいという事、そして性的な意味でも食べて欲しいという事、両方ともを指すのだろう。


 私達はこの『半感情生命体セミエスター』という性質上、紅様に触れられるだけで心を奪われる、幸せになる事ができるという性質がある。その為、触れられるだけでも多幸感に満たされて立てなくなるのにも関わらず、この身に寵愛を受けてしまったら一体どうなってしまうのだろうか。


「もしかして緊張してるの?」


 紅様は上目遣いで扇情的でいたずらな表情をする。

 そして、彼女が本当の顔を私に晒して理由がその表情で理解できた。この顔はあまりにも女という生き物を惹き寄せる顔だ。私を煽るために、わざわざこんな事したのだろう。


 だから、そんな事されたら益々貴女に心酔してしまう。


 それに私はゴクリと生唾を飲み込み、女の子座りしている紅様の方へ近づく。


「遅くなって申し訳なかったわ。本来ならもっと早くにこうして愛し合いたかったのだけどね。なにぶん、半身との確執もあったからこの顔を晒すのに効果的なタイミングじゃないといけないのよ。喩え身内であったとしてもね。」


 紅様は私の手を取りそのまま自身の頬へと私の手を当てた。それだけで気絶してしまいそうな程の快楽が脳味噌全体に染み渡る。


 受け切れない快楽の吐口に溜息にも似たような息が私の口から出た。


「ふふっ。どう? 私の特異能力エゴ。幸せでしょ?」

「はい……! 幸せです……」

「欲しいよね、この能力?」

「……はい」


 私がそう答えた瞬間身体中に快楽の電気が走り、頭が真っ白になる。そして、その白さが消えると心臓の音と紅様の声、姿、匂い、体温が感じられ頭が愛という感情に支配される。


 理由は紅様が私の頭を撫でたからだ。


「じゃあ、何をすれば良いか判るよね?」


 耳元で囁かれると同時にそれが行われた為に私の体温もドンドン上昇していく。


 そして私がする事、それは紅様の細胞を私に取り込む事。そうして、取り込んだDAYN(ダイン)を次世代の蟲へ反映させる。


 そうする事で私は同じように感情生命体エスターを支配する事の出来る能力を自身の蟲の特異能力エゴに付加する事が出来るのであった。


 私は耐えられなくなり、そのまま紅様を押し倒し上に覆い被さる様に身体を重ねる。そして、先程私に露出した首が、私の顔の前に来た。


「来て。私と貴女の子供を作りましょう?」

「……!」


 そして、兎のように白い首筋を私は甘噛みした。


 瞬間広がる幸せと甘み、濃厚な血の鉄の味。それら全てが私を幸福にさせ、私の心は理性を持たない程に箍が外される。


「そう。貴女は私の味に溺れれば良いの。そうすれば、貴女は幸せになれるわ」


 私は首筋から溢れる血を啜る。まるで子を作る為に他の動物の体液を吸い取る蛭のように。


「優しいのね、金剛纂ヤツデは。全然痛くないもの。本当に貴女から大切にされてるのがわかるわ。」

「……紅様にはこの命を費やしても足りないくらいの御恩がありますから」


 そう、孤児で身体を売って暮らしていた私とお姉ちゃんを拾って救ってくれたのは紅様。あの地獄のような生活、日々飢えと闘い、娼館から逃げたら気持ち悪い男達に身体を犯され、薬漬けにされ、逃げられないようにされ、それでも必死に逃げたら殴られて、それに飽きたらまた輪姦されて、穢された。でも、無理矢理覚えさせられたあの快楽の味は今でも抜けることは無い。今でも夢に見る恐怖と熱。吐き気と震えが止まらない、最悪の記憶。


 お姉ちゃんは私より多くの男の人を相手にして私の負担を減らしてくれたいたけど、今考えてみると私より辛かったんじゃないかなって思う。


 だってあの時、『色欲』を司る感情生命体エスターになったのはお姉ちゃんの方だったから。


 だから、それが意味する事は私には想像を絶する事だった。


 そして、私たちはその後二人で人間を辞め、大量殺人を犯し、その場から逃げた。それが終わっても人を襲い、餌として殺し続ける日々。


 だけど、ある日社会から世界から見放された私達を貴女が救ってくれた。触れられるだけで私達を満たしてくれる貴女に出会った。


 そして、私を引き取ってくれた。私を育ててくれた。私を怪物にんげんにしてくれた。


「良いのよ、恩返しなんて。私は結局、貴女達を救ったんじゃなくて、利用しているだけなのだから。」

「そんな事ないですよ。紅様は私達の罪を受け入れてくれた。救ってくれた。愛してくれた。だから私は貴女に尽くせるんです」


 私はあの頃の記憶を思い出して、瞳から少し涙を流す。


 そして紅様はその涙を拭き取ると私にその顔で微笑み、私の額にキスをした。


「心の底から嬉しいわ。生まれてきてくれてありがとう。金剛纂ヤツデ。次の任務、どうか死なないでね。」


 切に願う彼女の声は私の心を熱く鼓動させた。

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