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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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プロローグ デストルドーの恵投4

 密会が終わり一同が解散した後、私は数刻茉莉花まつりかお姉ちゃんと近況報告をし、そして仮面をしたままくれない様の部屋へと訪問する。石でできた礼拝堂の廊下を歩き鐘の真下にある部屋を目指して階段を登る。三階に着くとすぐそこにたった一つだけ部屋があるので、その木でできた扉をノックをし入室の許可の返事が返ってくると私はそっと扉を開けた。


 これまでに何度も紅様にお呼ばれしてこの部屋には入ったことはあるのだが、この部屋の雰囲気は少し広い女の子の部屋というイメージだった。


 紅様が自分で設計し見繕ったであろう、可愛らしい和服や洋服が至る所に掛けてあり、中にはくまのぬいぐるみといった可愛らしいモノまで置いてあった。


 そして、紅様はとても一人用とは思えないベットににちょこんと女の子座りで最後の仕上げにドレスのような服を縫っていた。


「隣に座って待ってて、今仕上げてるから。」


 そう言われたので、私は紅様の邪魔にならないくらい離れて、でも極力なるべく近づくようにして靴を脱ぎ、そこで体育座りをする。


 そして数分、彼女が一生懸命になって服を縫っている姿をぼーっと見ながら物思いに耽っていた。


「うん。完成したよ。」


 紅様は完成した白黒のドレスをばっと広げその上に二つの赤いシニオンキャップを置いた。


 ドレスは長袖で全体的に黒をイメージとしたゴスロリ系の服であったが、スカートの後ろの部分はまるで虫の羽のように透明になっているレースと中の黒色の部分で形成されており、一言で表す印象とするなら『黒い妖精』という言葉が思い浮かんだ。


「おお! 可愛い服ですね! これを私のために?」

「うん、貴女の感情生命体エスター形態の『暴食の王(ベルゼブブ)』をコンセプトに合わせてつくってみたの。」

「凄い……ありがとうございます!」


 私は早速身につけている仮面や上着脱ぐ。


「そういえば仮面も紅様が作ったんですか?」

「『いぇん』の要望でね。皆んなそれぞれにデザインさせてもらったけど、何分、急だったから納得いってないモノも多いんだよね。また、何か機会があったときに作り直すかも。」


 ちなみに、私の仮面には大きな口が描かれている。それを上着の上に置くと紅様は何かを懐かしむようにその仮面を撫でていた。


「楽しみにしてますね」


 私は話しながら一度お団子状に縛っていた髪をロングヘアーに戻して、生足を隠す為にタイツを履く。


 そして、下から被さるようにドレスの中に入り込み、頭や手を穴や袖に通す。


「ぷはぁ……」

「髪結ぶの手伝うわよ?」

「お願いします」


 紅様に髪の毛を櫛で梳かして頂いた後、二人で分担して先程より少し前目にお団子状の髪型を左右二つに作る。そして、それにシニオンキャップを被せ、中華服を着た女の子の様に髪を整える。


「これで完成。サイズとか大丈夫?」


 紅様は鏡を持ちながら私に感想と意見を求める。


「はい、ぴったりですよ。とっても可愛らしいです」


 普段はもっと明るめな服を着ている分、ギャップや違和感はあったが、さすがと言うべきか紅様は私の見た目に似合う服装を仕立ててくれた。


「布を縫い合わせた糸は『マルベリィ』が作ってくれたモノを使ったわ」

「新人ちゃんのですか? じゃあえっと材料は……」

「殆ど絹に近い感じだわ。だけど、あの子の作った糸は様々で特殊な性質を持つの。今回使ったモノは人の感情を増幅させるものよ」


 つまり、この服は特異能力エゴの出力を上げることのできる服なのである。


「本当だ凄い……! 特異能力エゴが使いやすい……あの子そんなこともできたのね」

「えぇ。『マルベリィ』のお陰で私の洋服作りも捗るわ」


 私は肉体の一部を蝶々などの綺麗どころの虫に変化させ、能力向上を確認した。しばらくすると、紅様が自分の方を見てほしいと合図した為、虫の操作をやめて彼女を見つめた。


「さてと、プレゼントはこれだけじゃないわよ」

「……!」


 すると紅様は骸を模した仮面を外し、自身の姿を顕にした。


 その姿はあまりにも美しかったが、奇しくも私が一度敵として見かけた人物であった。


 特徴的なのは紅く濁り輝いている目とショートボブの綺麗な黒髪。あまりにも美しく儚く、まるで死を悟ったかの様な表情をしており『死神』という言葉さえ似合ってしまうほどだった。あまつさえ美しいのにそこに永遠性というモノを剥奪された生きているモノの性、大自然の災害によって起こされるような理不尽性すら感じさせられた。それがまた、美しく膨大でたったそれだけで引き込まれるような魅力的な少女の顔だった。


筒美つつみ紅葉もみじ……」

「まぁ、慌てないで。そうと言えばそうなるのだけど、正確に言えば少し違くて、これが私の本当の顔よ。嘘偽りの無い、仮初のものとは違う私本来の生まれたままの見た目」

「……?」


 紅様の言っている事の意味がよく分からない為、首を傾げるが、彼女の本来の素顔が筒美紅葉に似ているのは極々当たり前な気もしていた。何せ、筒美紅葉の身体を乗っ取り受肉した感情生命体エスターが紅様の本質。


 その感情生命体エスターに元となった人間がいるとするなら、筒美紅葉に近しい人間である事が予想として立てることはできる。


 だけど、紅様が今それを私に晒した理由は……?


「ふふっ反応に困ってるようね。まぁ、いきなりそんな事されても分からないと思うから、貴女を呼んだもう一つの方の理由を教えるわね」

「……?」


 紅様は着ていた服を脱ぎ始め素肌を私に見せた。


「貴女に私を食べて欲しいと思ったの」

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