プロローグ デストルドーの恵投2
そして、色絵青磁は続けて私達に尋ねた。
「でもさ、なんでお前ら仮面なんかして身内同士でも顔を隠しあってんだぁ? 別にぃ、普段お前ら顔見せ合ってる仲なんだろォ? そこの教祖サマを除いては。茉莉花だって俺様に素顔見せてるんだし。まさか、俺様に顔バレしたくなくて今回だけそうしてるのかナァ?」
彼は的を射た推理を私達の前で披露する。そう、仮面なんかを被っていたのは今回だけ幹部の一人の『いぇん』からそういう指示をされていたから。普段からずっと仮面を被っている紅様を除けば普段は皆素顔を晒している。
今回だけ被らされた理由はコイツに顔を見られないようにする為なのだろう。
そして、あらかじめ質問の対策をしていたであろうお姉ちゃんが彼の質問を適当にあしらった。
「雰囲気重視なのよ、私達って。それに素敵じゃない、マスカレードな密会なんて」
「あぁ……そうかい。まぁいいや。気長にいこうや。俺様だってお前らと仲良くしてぇんだ。無理やりてめぇらの顔を暴くなんて真似はしねぇよ。したら俺様の首が飛んじまう」
彼は舌を出しながら自分の首の前を指で切る動作をした。
その動作に私達幹部は各々呆れたような動作をしていた。
そんな間の抜けた雰囲気に喝を入れるように紅様は手を叩く。
「もういいかしら? ……さて、じゃあ会議始めるわよ。今回の議題は数年前から活動しているある死体収集家の殺人鬼について。『いぇん』説明を。」
全身黒のイメージのある布を纏った彼女のシルエットは巨大で、うんざりしているような表情が描かれた仮面を付けている。声は霞がかった様に不鮮明で辛うじて女である事、老婆にも少女にも聴こえるように変声器で自分の声を変化させながら声を出しているようだった。
「皆んな。久しぶり。私から今回の任務について概要を説明するよ。今回狙う標的は『特異感情生命体』。その中でも奴は特に特異的な存在であり私達のように人間体を保っている『半感情生命体』の『特異感情生命体』。つまるところ希少種だ」
「『いぇん』チャン、強イノカ? ソイツ?」
椅子に全く大人しく座らず、身体のパーツを周りの大気中に浮遊させ怒った表情が描かれた仮面を顔に被っている少女、もとい真理亜はそう『いぇん』の説明に質問した。
「戦闘能力が強いかどうかという質問に答えるのであれば、樹教の中でも一番に近接戦闘の強いヤツデが自分の得意な分野で争うというのなら問題はない。だが純粋なサシで勝てるか怪しいといったところだな。かくいう私もまぁまぁ腕に自信はあるが昔任務中に奴と遭遇し殺されかけたんだ。だから、マリィお前じゃ絶対に無理だ。勝手に突っ走るなよ。この前だってお前の回収大変だったんだからな」
「ゴメン……ッテ、オイ! 勝手ニ決メルナ! 私ダッテ強クナッテルンダゾ!」
「ふーん、特異能力だけじゃなくて筒美流も使えるんだ」
私は自分よりも強いという言葉に反応し、興味を持った。
近接戦闘で私は『創始聖』──筒美封藤の愛弟子であろう、筒美葉書に敗北した。だから、彼女が『師範』クラスの武術家だとすると、その殺人鬼さんとやらは『師範代』くらいとなるのだろうか。
どっちにせよ特異能力だけに頼る奴に比べるとかなり厄介だ。
「正確に言うとアレは筒美流ではないな。力動の一種ではあるが私達の宿敵、筒美封藤の編み出したものではない。完全に自己流だ。だが、その実力は恐ろしいぞ。何十人という人間を実践としてその手で引き裂いてきたんだ。一般人ならいざ知らず、訓練を受けた軍人でも軽く弄ぶ程度に嬲られるか、有無を言わさずに殺される……本気で勝ちに行くならそれこそ筒美封藤を引っ張り出してきた方が確実で早いな」
「……青磁。今回、護衛軍は動かせないの?」
紅様は色絵青磁にご質問なさった。
「オイオイ……無理だぜその相談は。お前らも知っての通り『蒲公英病』の事件以来、あのクソジジイは本格的に隠居を始めたんだ。今更、たかが1匹の野良感情生命体じゃ釣れもしねえ」
「なるほど……だが『大罪の器』達や我半身……そして対となる『生存欲の器』を戦闘にやるのは危険がつくわね」
『生存欲の器』と『大罪の器』と『半身』──それは紅様を除いたこの円卓を囲む9つの席のうちの残りの4席に座らせる為の人間のことである。現在、紅様の半身である筒美紅葉を含めると、色絵瑠璃・水仙薔薇・操朝柊の四名が護衛軍の保護下にいる。
そして、この三種類の人間を集める事で私達は死喰い樹をより強大な形へと進化させたものを依代に『あらゆる願いを叶える為の特異能力者』として紅様を覚醒させ、全人類を感情生命体へとする。
それが私達の最終目的なのだ。
その為には現在の依代……つまり樹の贄である漆我沙羅を殺害し、残り3人をこちらへ引き込む必要がある。
だから、『大罪の器』や『生存欲の器』、『紅様の半身』が殺されるようなことがあってはいけないのだ。




