表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
27/370

第一幕 19話 色絵翠と瑠璃について

 私の名前は色絵(しきえ)(すい)。200年前、自死欲(タナトス)感情生命体(エスター)が発生した際、その封印で活躍した『色絵家』。その直系の次女として私は生まれた。


 優秀な姉兄、紫苑(しおん)ねーさんと青磁(せいじ)にーさん、あとは紫苑ねーさんから禍患と呼ばれた私の双子の弟、瑠璃(るり)くん。四人兄弟、私以外非常に優秀な才能に恵まれていた。だからなのだろうか、私は自分が強くあるべきだずっと考えていた。天賦の才はきっと私にもあった。そのお陰で私は機関では踏陰(ふみかげ)蘇芳(すおう)ちゃんがいた時を除いて一位でいる事ができた。だけど、世の中には運命だとか理不尽だとかそういう物を体現している人達がいた。


 私の家族、特に双子の弟……瑠璃くんはまさにそういう存在だった。


 今でもたまに彼の事を弟と表現する事が出来なくなる事がある。家族としてそれは有っては駄目な事だと分かっているし、彼の事をこの世の誰よりも愛しているのにも関わらず口が抵抗感を覚えるのだった。


 端的に言えば瑠璃くん自身が男性なのか、女性なのか、そして人間なのかという疑問が湧いてしまうのだ。会う度に変わる容姿、例えばさっきまでショートカットだった髪が伸びて気付いた時には背中を覆う程の物になっていたり、昨日まで体格が少年のそれだった物が翌日には胸が膨らみかけている少女のような身体になっている時だってあった。更に特異能力(エゴ)が暴走して人間の形すら保てていない、まるでドロドロに溶けた肉の塊になっている時もあった。


 瑠璃くんの正体が分かったのは10年前。


 死喰い(タナトス)の樹に捧げられる先代の贄、忌まわしき旧支配者と同じ名前を持つ『漆我(しつが)(くれない)』が、樹の妄念に取り憑かれて人間の身でありながら感情生命体(エスター)に近しい存在になり彼女自身の父親や優秀な特異能力者(エゴイスト)を殺害した事件。そうつまりはこの事件で初めて明確に人が感情生命体(エスター)になった事が分かったのだった。


 そして、これ以上の詳細は私も全く知らず、ただ私達の両親もこの事件で殉職し、その時に付いて行った青磁にーさんも行方不明になったという事をその時唯一帰って来た紫苑ねーさんに教えられた。


 両親が死んだ事は勿論寂しかった。


 しかし、それ以上に瑠璃くんが両親を殺した生物と同じ、感情生命体(エスター)かもしれないという事を言われた私達を傷つけた。


 そう、人間が感情生命体(エスター)になれるという事は瑠璃くんが人間ではない証明になったのだ。瑠璃くんの逸脱した特異能力(エゴ)、莫大な量の特異(エゴ)DAYN(ダイン)。それが感情生命体(エスター)と同義されたのだった。



 しかし家族を失っても、当時18才だった紫苑ねーさん、そして紫苑ねーさんとお付き合いしていた止水(しすい)(だい)にーさんが献身的に瑠璃くんの面倒を見てくれていた。


 私も見よう見真似で瑠璃くんに何か教えたり、一緒に遊んだりして双子らしく、家族らしくしていた。今思えば瑠璃くんはこの頃の幸せだった紫苑ねーさんに強い憧れを抱いていたのだろう。よく、瑠璃くんが紫苑ねーさんの真似をしていた事を思い出す。


 この頃辺りから私も機関にも通い出し、そんな生活を日々を7年間程過ごしていた。


 そして三年前驚いた事があり、行方不明になっていた青磁にーさんが瑠璃くんの特異能力(エゴ)を制御させる薬と共に帰ってきた。


 遺体が残らない樹が生えた後の社会では行方不明は死に近いものだったのにもかかわらず、帰って来た青磁にーさんは行方不明になってから7年もの間瑠璃くんの為に薬を作ってくれていたようだった。


 どこに行っていたかは聞いても教えてくれないが、青磁にーさんが自分で作った薬は確かに瑠璃くんの身体に効き、落ち着いた生活を送れるようになった。


 この頃が私たちの家族で一番幸せだったのだろうと思う。


 一年前位に紫苑ねーさんも題にーさんとの結婚が決まり、本当に幸せそうだった。二人とも当時は忙しくて、深く愛し合っていても、なかなか結婚まで話は行かなかったが、ようやく籍を入れる事を決める事が出来たらしい。家族皆喜び、紫苑ねーさんは普段見せない笑顔すらしていた。そして、死んだ両親もこれで安心出来ると思っていた。


 しかし、結婚直前、10年前事件を起こした張本人『漆我紅』によって題にーさんが紫苑ねーさんの目の前で殺害された。


 そう、紫苑ねーさんは瑠璃くんと同じく人の身で感情生命体(エスター)となった『漆我紅』に最初は両親、そして最愛の人すら奪われたのだった。


『漆我紅』はその後犯行声明を行い、人類は皆、死喰い(タナトス)の樹に縛りつけられる事を目的とする『樹教(じゅきょう)』を設立した。


 その結果、紫苑ねーさんは感情生命体(エスター)を激しく憎むようになり、瑠璃くんを地下牢に監禁するようになった。


 私が紅葉ねーさんを瑠璃くんに会わせたい理由。それは勿論瑠璃くんを紅葉ねーさんの祖父の権力で監禁から救う事もそうだけど、彼女が『死喰い樹(タナトス)の腕』を引き寄せた事、つまりは紅葉ねーさんは感情生命体(エスター)に関係する何かを知っているのではないかと思ったからだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ