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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Concerto of Side Stories──『花弁たちの協奏曲』
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アマランサストリコロール 7話

「……!」

「……っえ⁉︎」


 紅葉もみじはホッとしたような安心感と驚きを声に乗せたが、それ以上に瑠璃るりは動揺した。


「……何を言ってるんだよ!」

「嘘はついてないよ。それにあの子のことも勿論だけど瑠璃……キミ自身のことを誤解しないで欲しい。さくらは人類を守る為に命をかけて大樹を作ったんだ。キミもバケモノ何かじゃない。私にとっては唯の人だよ。だから……」


 私はなるべく瑠璃に本意を伝えたくて、言えないこと、言い難いことをスレスレで話す。


「だから! それが現に今、人間達を永久に苦しめる原因になってるんだって……! そのせいでどれだけの人達が苦しんで、どれだけ紫苑しおん姉さんから僕のせいだと……題兄さんが死んだのは全く関係ないのに僕のせいだと言われたんだよ!」


 彼の落ち着いたような、人形のような雰囲気から絶対出ないような取り乱し方だ。彼にとってそれがどんな意味を持つことなのかは分からないが、過去に何かあったのだろう。


 私の腕に掴まっている紅葉もみじも表情には消して出せなかったようだが、彼のその様子に怯えているようだった。


「瑠璃くん……」

「……紅葉⁉︎」

「少し……落ち着いて」


 瑠璃は壁をドンと叩き、下唇を噛んだ後一言、頭を冷やしてくると私達に言い残してこの病室を後にした。


「……ごめんね。萵苣ちさちゃん。私も瑠璃くんのことについては詳しいことは知らないの。だからあんなに感情的になった瑠璃くんは初めて……」

「私は大丈夫だよ。それよりも、紅葉……キミの方が心配だよ。あの子に言わなきゃいけない事あるんでしょ?」


 紅葉は少し黙ってつらそうにする。


「……本当になんでも分かるんだね」

「そりゃ、分かるよ。一時はあの子とも愛し合った中だから……でも、辛いよね。自分が瑠璃の大切な人の仇であるなんて……言えないよね……」


 私は目から涙を流して紅葉に続けて言う。


「紅葉が私と自死欲タナトスの子孫なんでしょ?」

「……うん」


 彼女は表情を表に出せないまま、ただコクリと頷いた。


「さっきは瑠璃の手前、ああいう風に誤魔化して言ったけど、君達の言う自死欲タナトスの発生源となった人間の正体は桜とは別にもう一人居る。それはキミではないし、ましてや生まれ変わりなんてものでもない。もう分かってるかもしれないけど、その正体君に教えようか?」

「……うん、お願い」


 私はなるべく紅葉の目をみて話す。これを話す事で彼女の運命と瑠璃の運命も変わるかどうか判らない。でも、きっと、私はコレを伝える為に再びここに生を受けた。


 ──だから、コレは私の贖罪だ。


自死欲タナトスの正体、それは私の第二夫人の色絵しきえかえでだよ」

「色絵……? ってことは瑠璃くんのご先祖様?」

「確証は無いけど違うと思う。この辺はややこしい話になるけど……とりあえず、今の漆我家は元々が色絵で、逆に今の色絵家が昔は漆我家だったことを踏まえておいてほしい。だから、楓は紅葉の先祖に当たることになるよ」


 これはかなり厄介な話だが、楓と紅葉それに桜と瑠璃の瓜二つな様を見ると間違っている推測にはならない。


 紅葉もしばらく黙り込んで何かを思い出すように考えている。そして、何かを察したのか紅葉は溜息を吐いた後、表情はそのままで渇いた笑い声をだす。


「……あはは。あーあ、なんて救われない話。アイツも元は人間ってことか……一番大切なこと見落としてた。でも、そういうことか。そりゃ祖父ししょうも秘密にするよね……だから十年前、私はアイツに乗っ取られたんだ」


 何かを怨むようなものでも、悲しげに言うような様子でもなかった。只、表情も相まってか、何か生きるための目標を失ったような感じがした。


 だが、紅葉はそれとは裏腹に私に感謝する。


「まだ、どうすればいいのかはっきりさせられない……でも、ありがとう。立ち止まっていた物が少しだけ進めたきがする」


 後悔と罪悪感。


 やはり紅葉にはその重く繋がった枷のような感情に縛られている気がする。コレが少しでも解消できたのならいいのだけど……。


「役に立てたなら良かったよ。私にも協力できることがあったら言ってね」

「うん。でもさ、萵苣ちゃん、キミにとってはアイツも大事な人なんでしょ?」

「……そうだね。できればちゃんと話し合って楓の暴走を止めたい」

「そうするには相手の目的とかを知る必要があると思うの。何か心当たりはあるの?」


 楓の目的か……。心当たりならある。楓が自死欲タナトスと化した原因がそれに直結する。


「人類を死からの救済することだと思うよ。コレは確実性のあることだと思う。でも、不死なんて碌なもんじゃない。それを体験した私は、危うく世界を壊しかけた。それにさっき瑠璃が怒ってた理由もヒトの不死化が原因なんだから」

「なるほど、確かにそれが一番アイツの行動原理を見てみても理に叶ってるよね。さて……なら、どうやって止める?」


 そう、楓を話し合いをする為に止めるとなるとそれ相応の力が必要になる。私が全盛期の力が有れば簡単に止めることはできただろう。だが、今の私は特異能力エゴすらまともに扱えないただ肉体再生のする人間。それに、楓が私の存在に気付いたら何をされるか分からない。準備期間が必要だ。


「物理的に止めるしかないね……だけどそれには私の特異能力エゴを最大限発揮させられないと難しいと思う。だから、それまで私の存在は楓に隠さないといけない」

「……分かった。キミのコレからの扱いについてはすぐに機関預かりにするやっぱり一番良いと思う。あそこなら関係者以外立ち入り禁止だし、特異能力者エゴイストがいても何も問題はない。全力で走ればここから1分圏内だし、信用できる瞬間移動持ちの特異能力者エゴイストもいるから脱出も可能だよ。あと、キミの病気もほぼ完治させたから、今すぐにでも問題ないかな?」

「うん。大丈夫だよ」

「でも、この護衛軍の内部にも敵のスパイがいる。だから、誰しも味方であるわけじゃないこと、気に止めといてね」

「……うん。分かった」


 こうして、私は保護対象者として秘密裏に機関に入学する事となった。


 だが、この選択が後に紅葉の運命を大きく変えた事はまだ私たちには知る由もなかった。

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