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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Concerto of Side Stories──『花弁たちの協奏曲』
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アマランサストリコロール 6話

 二人は私の事を不思議そうに、でも決して嘘は言っていないだろうという目で見つめてくる。


紅葉もみじ瑠璃るりに対して敵意は無いよ。少し話を整理したいんだ」


 私は両手を挙げて、極力、特異能力エゴや『力動』の力を出さないように気配を消すのに努める。だがその行為自体が最早、その手の技術を取得している証明で、相手を安心させるためではなく、相手に警戒される様なものだった。


「まさか、ERGエルグの代謝のコントロールまでできるなんて……筒美流の専門家から見てこれはどうなの?」


 ERGエルグか、でも"筒美流"……おそらく『力動』の事だと思うけど、そういえば筒美って紅葉の苗字だけど、何か関係ありそうだが。


「間違いなく筒美流奥義……まぁ祖父ししょうが作った技じゃないから、黎明期……まだ『精神力動』っていう武術が筒美流一本じゃなかった頃の技だね。名前は『抑圧』。これは他の物とコントロールが違う分難しいから"赤白帯"クラスじゃないと発動すらできない技。私も出来ない事は無いけど、気配を消す代わりにエネルギー代謝まで完全に消すからエネルギー供給ができなくて他の技に繋げることが出来ないし、結局は目視は出来ちゃうから実戦ではほとんど使えないし、多分技として使いこなせるのは祖父ししょうを含めて5,6人くらいだと思う」


 やっぱり、『力動』の事で間違っていなかったか。


『なるほど、以前より大気中に"感情"とERG(エルグ)が充満しているんだ。それらが人体に表す影響はその分だけ強くなる、それが流派として成長するのは当然と言えば当然。だけど、コレほどまでに空気が濃い理由はなんだ?』


 私がそんな事を考えている間にも紅葉は喋り続ける。


「まぁ、長くなっちゃったから話の本筋に戻すためにここで締めるけど、こんな事できる時点で只者では無いし、萵苣ちさちゃんが『雁来紅がんらいこう』に近い存在だっていう事は分かったよ」

「問題は今『それ』を僕達に話した理由の方だよね。敵意は勿論感じない。それどころか好意すら感じる」


 紅葉と瑠璃の行動は今すぐに私をどうこうしようという物では無くなったが、より警戒度を高めた物となった。


「キミの目的はやっぱり、特異能力者エゴイスト以外の人間をこの世から消す事……?」


 目的……か。


 思い出せるのは、私の記憶の中で巡り合ってきた少女達を守りたいという願いだけだった。


「多分……それは目的の為の手段だったんだと思う。昔のことは本当にそれだけしか知らない。私は自分の願いを叶える為に酷い事多くの人にしてきたんだろうね」

「してきたんだろうねって……! キミが起こしたことは大量虐殺だよ! それ自体到底許されることじゃない! なのに、それ以上にそれがきっかけで……!」


 瑠璃はこれまで見せてこなかったような顔で私に迫った。


 そして、その顔で少しだけ思い出す。彼女に似たような恨みや憎しみ、怒りに満ちた怒りの多くの顔。海を超えた先の知らない土地で色々な人の血に濡れたこの手を。海外で見つけた特異能力の才能があった金髪の少女には親を殺したこと最後まで怨まれていた。


 それに"彼女"も最後あった時、その顔をしていた。


『そういえばみんなどうなったのかな……?』


 瑠璃はカーテンを勢いよく開けた。


「……アレは」


 そこに見えたのは空を覆うほどの大きな大樹であった。そして、その大樹の枝の一つ一つには夥しいほどの元人間の化け物がいるという事が理解できた。


 そして、大樹はあの時死んでしまったさくらが作ったものだと理解し、空気中にコレほどまでに感情が漂っているのもアレが原因だと分かった。


「世界はアレに喰われて、人からは死という機能が無くなったよ」


 瑠璃はやり場のなかった怒りの矛先をようやく私に向けられたという感じだった。


「そして今、あの樹を作った本人が人類を滅ぼそうとしている」

「……!」


 瑠璃の話している事と、私が今見て気付いた状況に違和感を感じたが、今はそれを言及する場面ではない。事は慎重に運ばなければいけない。だが、これは私が始めた話という事だ。


「名前は漆我しつがくれない。僕の家族をバラバラにしたこの世で僕が最も殺したい人間だよ」

「……なるほど」


 殺意。


 それは瑠璃から最も離れた位置に存在する感情であった。


「そして、ここからが本題。キミが大樹の発生に関わったのなら知っている筈……樹を作り、漆我紅として現世にまた産まれてきたあの人間の正体は何?」


『漆我……漆我って事は桜の子孫……? だけど、桜の子孫って言うのなら……むしろ、いや問題は其方じゃない。樹を作った人間と漆我紅は別人だ』


 私は紅葉の方を見る。すると彼女は表情を変えずただビクッと身体を震わせた。


『紅葉は何か知っているのか……? 否、確実に当の本人だ。だけど、分からない。……過去に何があったのだろう。他人である私がこれを瑠璃に伝えればよくない事が確実に起きる。それに、樹を作った桜が再びこの世に現れることに理由があるとすれば……』


 私は人差し指を目の前の彼女に指した。


「瑠璃、君があの樹を作った少女……漆我桜の生まれ変わりだよ」


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