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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Concerto of Side Stories──『花弁たちの協奏曲』
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アマランサストリコロール 3話

 目が覚めて初めに気になったのはベットの柔らかさだった。記憶が曖昧で私が今何処にいるかすらわからなかった。だが、自重によって押し込まれるマットレスの心地良い具合の反発力が疲れて重くなった私の瞼を二度寝へと誘おうとした。


 ふに


 実際にそういう音がなった訳ではないが、私の腕、それも両腕に当たった温かく柔らかい感触に触れた時の擬音を表すとすればそれが正確だろう。


「ねぇ瑠璃るりくん、今この子目開けなかった?」

「うん。でも、治療で体力使ってるだろうから寝かせてあげよ? 紅葉もみじ


 妖精が囁くように聞きごごちのいい二人の少女の声。聞くだけで安心できるそんな声だった。


「起こしちゃってごめんね。大丈夫、大丈夫、安心して。寝てる間に私達が全部終わらせるから今はゆっくり休んで」


 耳元で囁かれる甘い紅葉と呼ばれた少女の声。何故だか分からないけど、その声に性的興奮を覚えてしまいそうになる自分を理性で押さえつけた。


「紅葉、この子興奮して完全に起きちゃってるよ」

「……!」

「ほんと……また黄依きいに怒られるよ? 『天然ジゴレット』って。僕的には別にいいけど……」


 もう片方の瑠璃と呼ばれた声の子は呆れたような声で紅葉に注意したが、続いて私にだけ聴こえるように耳元の触れるか触れないかくらいのところですごく小さな声で言う。


「駄目だよ、キミには手は出させない」

「……!」

「あっ! ずるい! 今何か言ったでしょ!」


 瑠璃の言葉尻だけを捉えれば、また別の意味にも聴こえるだろう。だが、あの台詞を舌舐めずりをしながら言われたらおそらく私に対しての言葉なのだろう。


 何故だか、この二人から好意を持たれている。


 だからこそ、私は様子を見るために我慢し寝ているフリをし続ける。


「あれ……? 寝ちゃった? あ、ふふっ寝てるフリしてる。可愛いなぁ……」

「ちょっとからかいすぎじゃない、紅葉?」

「ねぇねぇ、良いこと思いついた。ちょっと耳打ちするから瑠璃くんも協力してよ。起きてくれたなら色々聴きたいことあるし……」


『バレてる⁉︎ どれだけ感覚が鋭いのよ!』


 だが同時に彼女達には悪意は感じられない。どちらかというと遊び道具にされている感覚に近いから、凄く恥ずかしい気持ちになる。ここはとりあえず、早く起きて彼女達の事を詳しく聞いてみるか……?


「ふぅー」

「ふー」

「ひゃあぁぁ!」


 突如両耳に襲った生暖かい風に驚き私は情けない声を上げながら飛び起きてしまった。


「あら、元気で良かった」

「うんそうだね」

「なななな何?」


 私は両耳を手で塞ぎながら二人の方を初めて交互に見た。


 一人は赤色がかって見える瞳を持つ無表情で儚げな印象を持つ紅葉と呼ばれる少女。その明るそうな声とは裏腹に冷たく光の差し込まない瞳は見る者全てを飲み込んでしまいそうな程引き込まれそうになった。


 もう一方の青色がかって見える瞳を持つ笑顔の、瑠璃と呼ばれた少女は座敷童子や日本人形を思い出させるような雰囲気を持ち、紅葉とはまた別の人を虜にするような印象を持っていた。


 初めて会う筈なのに、昔会ったことがあるようなそんな感覚に胸が満たされる。


 二人はすぐさまこちらに寄り、私の左右の手をそれぞれ耳から外し手を握った。


「ごめんね、キミが可愛かったからつい悪戯したくなっちゃった。私の名前は筒美つつみ紅葉。紅葉って呼んでね?」

「僕は色絵しきえ瑠璃。まぁ、戸籍的には男なんだけど、生物学的には女の子だから、キミの好きな風に読んでくれて構わないよ。あと、良ければキミのお名前教えてほしいな」


 二人は私の目を見つめる。そこでようやく、今私が気を失う前まで何をしていたのか思い出した。


『あの廃工場で私は産まれて、それで苦しくて、あの鎌柄鶏かまつかげいという男に殺されそうになって、また別の仮面の男に助けられた……? それで今ここは何処?』


 それと同時に自分に名前が無いことを思い出す。


「名前……?」


 彼女達に繰り返すように私は自然と声を出してしまった。改めて聞いてみると自分の声は意外と高く彼女達と同じくらいの歳の少女に似た声質であった。


「ごめん……分からない。私の名前って何……?」

「なるほど、ありがとう。逆行性健忘ってやつかもだね。ちゃんと言葉も理解してるしある程度の知識なら分かるみたい。その代わりに自分に関する思い出とかそういうエピソード記憶ってやつが欠けているんだと思う。キミ、意識不明の状態で護衛軍の敷地内に倒れてたたんだよ?」

「護衛軍……? 何かの……軍?」


 また、聞いた事のない瑠璃の言葉が私の耳を掠めた。だが、軍という言葉に鮮明な嫌なイメージがあった。


「あれ? 護衛軍は知らないんだ」

「……うん。初めて聴いた言葉」

「ありゃ? 普通に知識とか消えてないならそんな筈はないと思うんだけどなぁ。まぁいっか。今はそんなことよりキミの体のことについて教えないとね」


 瑠璃はそういうと私の身体に指をさしたのだった。


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