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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Concerto of Side Stories──『花弁たちの協奏曲』
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アマランサストリコロール 1話

「決して萎れることのない花──『アマランサス』の名を……女王の名を冠するのはこれで私……」


 私が生まれて初めて知覚できた声はそのあまりにも醜い、女ぶった『男の声』だった。周りを見渡すと私がしょっぱくて苦い液体に漬けられ、人が入るくらいの円柱の水槽に入れられていた事、此処が何処かの廃工場である事、私はまだ人の形ですらない肉塊の一つなんだと理解できた。


 たった今産まれたばかりの私にとって何でこんな事が分かるんだ、という疑問の前に『人間』とはこういう形ではないと理解できたことに対して先に疑問がきた。多分これは私が『人間』という生物に対してなんらかの『感情』を抱いている証拠なのかもしれないが、どうでもいいだろう。だが、またこんな自身の肉体が人の形とは呼べないような肉塊の状態にも不思議と慣れている、そんな感覚がして少しばかり驚いた。


「おはよう、私の細胞から分離したクローンの中でも最悪な欠陥品ちゃん。まぁ悪性腫瘍を一纏めにして作ったクローンだから……本当に酷い出来だわ」


 再び気色の悪い男の声が聴こえると、何故かこの状況が自分にとってデジャブである感じる程に私の中の感情は失望と絶望を繰り返していた。それと同時に私を含めた肉塊が徐々に人間の形へと変化していく。


「今まで通り欠陥品は女になるようね。私、美味しくないから女は嫌いなのよ。まぁ、アナタを食べたら私死んじゃうし、運ばれない死体の処理にはもう慣れたから」


 ようやく、先程から喋っている男の姿が見えた。半裸で筋肉質だがそれに反して顔には厚化粧。明らかなつけまつげに口紅をあしらったそのご尊顔は見た人を震えがらせる事位簡単だろう。何せ似合わなすぎる。別に女装というものに対しての文句などはないが、出来が酷すぎる。まるでこの世にいるそういう人達を馬鹿にしたかのような格好であった。


 だが、彼の口走る事を信じるなら、私はこの気色の悪い男から産まれたのだろう。


『非常に残念だ。親の顔がこんな酷いものであるとは』


 そして、自分の身体にも目をやると急に身体の芯からとてつもない痛みが走った。人の形に近づいていくたびにその痛みが走り、人の形へ変化しようとも内臓がひっくりかえってしまいそうな感覚に襲われると共に、本当にボコボコとお腹の内側からあらゆる臓器が皮膚を突き破って出ようとしてきた。


「ゴバッ……」


 口から泡と共に血を吐き出す。すると、私の入れられている液体がどんどんと赤く染まっていった。


「うふふ……どうせ持っても3日の命。『死喰い樹(タナトス)の寵愛』を受けられなかったアナタ達は死んだら二度と目を開けることはない。なら、人体実験に使う位が丁度いいのかもしれないわね。そうだと思わない? オッドアイの白いモルモットちゃん?」


 彼の言う通り私は身体は今にも死にそうな細々とした手足に恐ろしい程の白い肌を持ち、そして目に見えたあらゆる体毛も白色で、長く生えた髪の毛も全てが白色であった。目はオッドアイであると言われた為、片方は完全に色抜けした結果血管が浮き出たことにより赤く見える瞳と淡色系の色なのだろう。


 先天的に悪性腫瘍に犯された内臓で構成されている為、皮膚に転移しないようメラニンを体の中から無くし、白皮症にならざる負えなかったアルビノ、この異常とも言える私の体の色はそんなところが原因だろうか。


 体格は含めれば10代の少女並みである事が分かった。


 性別は……普通男のクローンなら男の筈だが、この男の言う通りなら私は女に近いと捉えるのが正解なのだろう。股間を見ても違和感ない。


『身体のあちこちに異常があるのが原因で私の細胞をクローニングした時に性染色体が機能しなかったのだろうか? 胸も平たい……どうせなら、もう少しでかい方が嬉しかったのだが……』


 だが、先程から『私』という一人称が心の中で反復しているから、女に近い状態であるが正解なのだろうか? そもそも、人間は生まれてくる時最初は女性に近く作られているという説はある。それが影響したのかもしれない。


『しかし、何故産まれたばかりの筈である私がこんな知識を?』


 ようやく、ここで私はある程度の常識を持っていることに気付いた。そして、身体に痛みが走っているのにも関わらずここまで冷静に脳味噌を回転させる事自体にも驚いているが、一体私は何なのだろうか。


「めんどくさいけど、あなたが通常の個体の様に知識の有無と記憶の受け継ぎ、そしてそれを共有できるかどうかから確かめさせて貰うわよ。だって、殺す時に余計な反抗されるのも嫌なのよ」


『そうか、私は結果的に殺される……これがさっき私が感じた絶望の正体。私はあらかじめ殺される事を分かっていた。これも私が生まれつき持っている知識の一つなの?』


 すると、彼はポケットからトランプを取り出し、シャッフルした後、多くの枚数のカードの中から表を見ずに私へと見せた。柄はスペードのクイーン。


「……これがなんなのか分からないみたいね。まぁいいわ、じゃあ自分の名前わかる?」


『──自分の名前? でも、水の中に入っていて何もアクションを起こせない。せめて首を振るくらい?』


 そう言われて真っ先に思い浮かんだのは子供くらいの高さの血のように赤く染まった草。だが、その植物の名前は分からない。


「……?」


 首を振る動作を見せるも、彼は呆れてため息をついた。

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