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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Concerto of Side Stories──『花弁たちの協奏曲』
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氷点下273.15度の情火 20話

「……たく、何様のつもりなんだよ。筒美つつみ紅葉もみじ色絵しきえ瑠璃るりも。こっちは人生の一大イベントだっていうのに」

「まぁまぁ……二人とも私達の為を思っての行動なんだから……それに最後のは絶対余計よ。女の子を泣かせるダメよ?」


 さっきほどの場面を思い出すと、筒美紅葉はいつも通り表情を変えている様子はなかった。それも気味が悪くなる位に冷たく酷い顔をしていた。見る人が見ればアレを美人と形容するのであろうが俺にはどうにも何かを隠す為のポーカーフェイスにしか見えなかった。


「……泣くどころか会ってから今まで一切表情変えてなかったが?」

「昔の紅葉ちゃんなら絶対泣いてる。あの子ある任務の事故の後遺症で思った感情を一切表情に出せない障がいを負ってしまったのよ。元々結構感情が顔に出やすいタイプだったから、本心から悩んでることを直球に言われて相当傷ついたと思うわよ?」

「……そうか。そうなのか。なるほど、封藤ふうとう先生のように一定の表情を出さないように訓練しているだけだと思っていたが……それは悪い事をしてしまったな」


 頬をぷくりと服話ませたてるに申し訳なさそうに俺は言った。


「それに貴方が紅葉ちゃんに言ったこと、一番本人が自覚していることだと思うよ。あの子も敵と向き合う為だけに私達の想像の絶する苦悩や痛みを払ってここにいるんだから。それこそ、私達が言うのが野暮ってもんよ」


 そんな風に宥めながら言う輝も疲れや先程まで感じていた痛みを顔の表情から隠せずにいた。こんな事なら、輝が推薦した筒美紅葉なんかではなくもっと別の人間に頼むべきだったと後悔はしている。


「……とりあえずお疲れ様。ありがとな。頑張ってくれて。輝と情花じょうかが無事で本当によかったよ。文目あやめさんも本当にありがとうございました」

「いやいや〜わしはなんもしとらんよ〜」


 文目さんはて部屋を出る前に此方に手を振りながら言う。


「てるてるさんはようけ休みんさいね〜わしも疲れましたわ〜」


 俺たちはそれに手を振りかえすと、すぐに文目さんは去っていった。


 ☆


 情花が無事生まれてから2日たった頃だった。俺は護衛軍本部の屋上ですももが煙草を吸っているのに付き合っていた。結局、彼女は俺の娘の顔を見る為にここまでついてきたのではあるが、取った休日の殆どを彼女の筒美流の師匠である色絵しきえ紫苑しおんへの挨拶に会う為に使っていたようだった。


「ついに一児のパパですか。浅葱あさぎ旅団長」

「あぁ……。輝が頑張ってくれたお陰でな。……そっちこそ、紫苑の様子どうだった?」


 すると李は表情を暗く沈んだように変化させ悲しげに言っう。


「あんな紫苑さん、初めて見ましたよ。最愛の夫が亡くなっただけであんなになるもんなんですかね?」

「……そうか。まぁ確かに何かしらの感情生命体エスターの影響を受けている可能性はあるかもしれないが、どちらにせよまともな精神状況では無さそうだな」


 俺はハァと溜息をついた後続けて呟いた。


「十中八九、自分の特異能力エゴで良からぬものを見たんだろ。その紫苑が感じている杞憂に関して、俺たちに今できることは無い」

「……そうですか」


 うまく活用すれば他人の未来が分かる能力。もし、彼女が俺や輝だけでなく、他の人達の『死線』が見えてしまったのなら……なんにせよ、今では無いのは確かだ。


「……今は考えても無駄だ。それにあいつの事だ、しばらくしたらけろっとして護衛軍に帰ってくるかもしれない」

「そうだといいですよね」


 何とも言えないような難しい表情となり李は煙草を吸いながら言う。そしてしばらく無言の時間が続いた後、彼女が話の話題を変えた。


「そんなことより、旅団長。子供を置いて支部に帰るってほんとですか?」

「いや……あくまでも公正教関連の事後処理の為だ。長居する気は無いさ。それが終わったら、今度は各地を転々としながら全国に散らばってる准尉クラスの軍人じゃ対処できない感情生命体エスターを討伐していく本来の旅団長の仕事にようやく取り掛かれる。まぁ、あまり子供の顔を見ることはできんが、俺の代わりを務めれる奴なんてそういないだろ」


 元々は封藤先生の撃ち漏らした感情生命体エスターを全国を回って討伐するというだいのやっていた仕事だ。子育ての傍らにできるようなものではない。おそらくまた、輝には顔を出せない日々が続くだろう。


「お前にももう会うことは無くなるだろうな、李」

「そうですか。残念ですね。本当に。でも仕方ないですよね」

「意外だな、駄々を捏ねて俺を引き止めると思った」


 すると、李はニヤリと笑った。


「駄々を捏ねてほしかったんですか?」

「馬鹿を言え、俺はお前のこと心配した。それだけの事だ。支部の事頼んだぞ」

「はいはい。任されましたよ。浅葱旅団長」


 俺は空に浮かぶ樹の枝をぼうっと見つめながら、少し笑って返した。


 これからの任務は今の情勢も相まってより過酷なものになっていくだろう。そして、俺にも護るべきものが増えた。


 その為に、今回問いかけられた選択より過酷な選択肢をきっといつか選ばなければいけない時が来るのだろう。もしくは選択肢を与える側の人間になるのかもしれない。


 だが、俺が出来ることといえばこの情熱を持って今を懸命に生きること。だから俺はこの情火を喩えどんなに冷たい現実に晒されたとしても、絶やさないように進んで行くだけだ。


「……あぁ、期待してる。ありがとな」


 そして、季節は秋へと移り変わっていく。

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