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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Concerto of Side Stories──『花弁たちの協奏曲』
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氷点下273.15度の情火 19話

 もし、瑠璃るりの話が本当だとすると、俺達は今この瞬間娘に対してこれからの人生に取り返しの付かない判決を下すことになる。


「瑠璃くん、もう少し分かるように説明してくれる? 今の説明だとまだよくわからない部分があるからさ」


 俺が決断するために、瑠璃に質問しようとした瞬間、筒美つつみ紅葉もみじが彼に対して疑問を投げかけた。


 質問を投げかけた彼女のその表情は今までと同じ通りに一見無表情に見えた。しかし、さっきまで赤く濁った瞳の中には突如として、希望を感じさせるような光がさしこんでいた。


 まるで、自分が死ぬ事に希望を見出している……まさにそんな様子だった。


「やっぱり、瑠璃くんは本当の意味で人を死なす事ができるんだ……!」

「紅葉……! そういうのはさ……言い方ってものがあるじゃん……」

「……あっごめんね。そういうつもりで言った訳じゃないの!」


 紅葉の反応に流石に言葉を詰まらせた瑠璃はしばらく唇を噛んだ後、諦めて話を戻す。


 この二人の間柄は一見仲良くも見えるが、別の所で確執のような大きな溝があるのだろう。


「いや、もういいよ。話を戻そう。僕にできるのは産まれたばかりで『死喰い(タナトス)の樹』にマーキングされていない新生児をこれからマーキングをされないようにする事。つまり、僕が赤ちゃんより『生存欲リビドー』を放出すれば『死喰い樹(タナトス)の腕』は僕自身に引き寄せられる。そうする事今寵愛を受けずに済むから、将来物理的な死を迎えた時『死喰い(タナトス)の樹』に干渉されずにこの世から永遠にいなくなる事ができる」

「なるほど……そんな事ができるのね」


 瑠璃は善意でこの提案をしているのだろう。だがもし全員でなく俺達を試すようなものなら……しかしこれは……


「だから、もう寵愛を受けてしまった紅葉にはできないし、てるてるさん達はこの決断は今すぐに決めないと意味が無くなっちゃう。僕の特異能力エゴが干渉できる最大限がここまでだからこうなっちゃうんだけど……これで言ってる事は理解できたかな?」

「……」


 そう、これは天国と地獄の選択肢を選ぶような物ではない。どの地獄に落ちるのかを選ぶ権利。つまり、俺や輝からすればこれは脅しなのだ。


 樹に縛りつけられ苦しめられその果てに得る永遠の生き地獄か突如として全てを失わされ全てから解放される永遠の死か……


 本来なら選ぶ筈のない究極で極端な二択。そんな選択を娘本人にではなく、俺たち両親で決めなくてはならない。俺たちは表情を悩むように歪ませているが、文目あやめさんは興味の無さそうに、或いはどうでもいい事だと静観していた。


「私は……」


 そんな中、出産も間もないのに一番初めにてるが口を開こうとした。だが、俺はそれを止めた。


「俺が決める。……お前にはすまないがそんな事する必要はない」


 輝の意見は分からなかったのだが、顔を明るくさせた様子を見る限りでは同じ意見であった。


「……必要ない。そっか、うん。分かった。僕、余計な事しちゃったね」


 俺達の決断に瑠璃は少し嬉しそうに反応した。だが、それに反して、紅葉は依然無表情だった。だが、あからさまに俺達の決めた判断がおかしいものであるという声色であるのは確かだった。


「いいんですか? 死後永遠の苦しみを感じ続けるのは貴方の娘さんなんですよ? 人の家庭の事情に首突っ込むのも野暮かもしれないですけど、護衛軍としてあの樹に組みするという事は賢明な判断だとは言えませんよ?」


 勿論彼女のいう事がごもっともだ。間違っているのは俺たちの方なのかもしれない。だが……


「……別にあんなクソ大樹に組した訳じゃねぇよ。つうか、お前……『護衛軍』の存在意義知らねえのかよ。『死喰い(タナトス)の樹』をこの世から消すっていう存在意義をよ。だから、娘が──情花じょうか達が暮らす未来ではあの樹はなくなってるんだよ」

「……ッ⁉︎」

「俺たちの代で俺たちがあの樹を消滅させるんだ。だから瑠璃の力なんて借りねえよ」


 改めて娘が産まれて来てくれて、強固になった目的意識。俺たちがこの世界を元通りにする。俺が護衛軍に入ると決めた時、誓った誓い。


「筒美紅葉、お前はよ……何が目的でここに居るんだ? 金か? たまたま力があったからか? それとも復讐か? ……まぁそんな事どうでもいいが、この組織の目的は見失うなよ」

「……私は……私の……目的は……」


 筒美紅葉はそれ以降口を開く事が出来ずにいた。しばらくすると、瑠璃に肩を優しく触れられ何か慰めるような事を言われた後、彼と共にこの部屋を後にした。


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