第一幕 18話 約束
衿華ちゃんと黄依ちゃん達の模擬戦を見てから数十分経った。泉沢さんの攻撃を受けて、意識を失った彼女達は『機関』の保健室の布団で寝ながら、私、紅葉と話していた。
「惜しかったねぇ……二人とも」
「惜しくともなんとも無いわよ、先生に手加減までされて」
「ふわぁああ〜すっごい疲れちゃったよ……」
でも、実際に惜しかったと思う。泉沢さんが二人の特異能力を知っていたからこそ出来た動きが幾らかあるし、その状態で二回も動きを止めたのは誇りに思って良いんじゃないかなぁ……
ここは二人を労う意味も込めて、按摩してあげようかな。
「二人とも、按摩してあげよっか?」
「ヒェッ! やっやめろー!」
「今やられたら、衿華死んじゃう!」
以前、二人の調整をした時少し本気でやったから、もう私の手捌きにメロメロになってると思ったけど。
「ほむぅ……二人共無理して筒美流使ったんだし、身体中痛いでしょ? 私に甘えても良いんだよ?」
「絶対やらないで!アレ無しで生きられなくなる身体にされるから!」
そんな麻薬みたいな言い方しなくても……でも、実際今のうちにしとかないと本当に身体壊しちゃうし、無理矢理にでもやるか。
「待ちなさいよ! ねぇ! 待ってって!頼むからぁ!」
「大丈夫、今日は指圧按摩だけだから」
黄依ちゃんの右足を片手で持ち上げて、足裏の所に指を当てるが子供のように駄々を捏ねだす。
「やだやだやだ!」
仕方ない、無理矢理いくか。
「えい!」
「ギャアァア!!!」
「ひぃっ!」
断末魔のような声が響いた後、黄依ちゃんは右足をピクピクさせ衿華ちゃんに助けを呼んでいる。
「助けてぇ……私に『痛覚支配』して……」
「だめだよー。そんなことしたら、衿華ちゃんがもっと大変な事になっちゃうからねー。はーい、左足もいこうねー」
「ぴぎゃぁあぁあ!」
黄依ちゃんの全身がガクガクしている。やっぱり、無理してるじゃん。普通、ツボを押しただけでこんな風にはならないよ。
「紅葉ちゃん……悪魔だ……」
「今何か言った? 次は衿華ちゃんの番だからね 」
「ひぃ! 待って! 今は本当にダメなんだって! 助けて黄依ちゃん」
衿華ちゃんは黄依ちゃんに助けを求めるが、全てを終えて悟りの境地至った黄依ちゃんは全身をガクガクさせながら、死んだ目をしてフッと笑う。
「衿華……諦めなさい」
「いやぁああ!」
衿華ちゃんは『花間』を使っていたし、より足に負担がかかってるかな。なら、ちょっと強めに。
右足を両手で抱えて、足の裏の中心に両手の親指を重ねる。
「いくよー」
「やだぁー!」
ぎゅうっと親指を押し込む。
「うぅぅ! んっ! あっ! あんっ!」
うん、良い声だ。衿華ちゃんの声を聴いていると何かいけないことをしている気分になるよね。按摩してるだけだけどさ。
こんな所、翠ちゃん達に見られたら絶対誤解される。
「ねーさん達、何してるの? もしかして、三人ってそういう関係?」
って言われるよね。ははっ。違わないけどさ。
ん……?
「すすすすすっ翠ちゃん!?」
「外まで声聞こえてたよ」
「いや、これは違くてその……」
「なんでビビってるの、からかっただけだよ。それか本当に私に何か隠してやましい事でもしてたの?」
「んっ……途中でやめないで……紅葉ちゃん……」
翠ちゃんいるのに色っぽい声出すのヤメロぉ! 衿華ちゃん! まじで誤解されるから!
「なななな何言ってるの衿華ちゃん、只按摩してるだけだから」
「早くしてよぉ〜焦らしは得意じゃないからぁ……」
何故ここで焦らしという言葉選びをするぅ!?
「私を気にせず続ければぁ〜紅葉ねーさん? 私も年頃なんでこういうのに興味あるですよ。私の事は空気だと思って下さい」
「そうだよ紅葉、衿華が可哀想じゃん早くやってあげなよ」
めっちゃニマニマしながら誤解してる風な事を言うなし! クッソ〜黄依ちゃんと翠ちゃん、結託して私に羞恥プレイさせてるのか?
二人が顔を見合わせてゲスな顔をする。
なんだその顔! ドSか? 翠ちゃんドSか!?
右足を離し、今度は左足を持って両手で抱える。
「いっいくよー!」
衿華ちゃんも頼むから、喘いでるみたいな声は出さないで……何か虚しい気持ちになるからさ
両手の親指で足の裏のツボを押す。
「あんっ! だめっ! そこはっ! あっ!」
おいぃ……えっちしてる時と同じ声出すなよぉ……
「ふーん、えっちじゃん」
「違うわい!」
「紅葉は未成年の前でも変態っと、メモメモ」
「ヤメロォ! メモして何する気だよ!」
「足の痛いの治ったよ!」
「よかったね!?」
久方ぶりにツッコミに回った気がする。ところで何しに翠ちゃんはここに来たんだ?
「あっそうだ、いつにする? 瑠璃くんに会うの。もう瑠璃くんには話付けたし今からでも会わせられるけど」
「あー! その話しに来たの。じゃあ、そうだね……」
なるべく、人との約束は早めに済ませた方がいいだろう。
「紅葉ちゃん、翠ちゃんの弟くんと会うの? 衿華も見てみたいなー」
「衿華ねーさんも来ます?」
「うん、行くー」
「なら私も」
「いいよー黄依ねーさん。あっでも、会うならここか、人目の少ないところでね」
機関での仕事は午後まであるし、人と会うなら一回護衛軍本部に帰ってお風呂入りたいし。
「今日の夜でいい?」
「りょーかい。それならどこで会う? 一応、家は護衛軍本部に近いしそっちまで行っていいけど」
「本部前のだだっ広い公園とかどうかなぁ? あそこ、夜は人が少ないし、お花綺麗だし、お洒落な建築物あるし」
「つるま公園だっけ? いいんじゃない?」
「はーい、そこに8時集合で」
今日の夜、そこに集まる事にした。
そして、今夜の出会いは私にとっても、黄依ちゃんにとっても、衿華ちゃんにとっても、翠ちゃんにとっても、彼にとっても、この先の運命を変えてしまう出来事だった。