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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Concerto of Side Stories──『花弁たちの協奏曲』
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氷点下273.15度の情火 7話

 暗く薄暗いシティホールの大劇場。


 ついに始まった『公正教』の講演会。


 俺を囲むようにし座っている『公正教』の信者達と壇上に立つ教祖。


 相変わらず教祖の方はフード被っており、どうやら自分の正体をバレないようにしていた。


 おそらく、奴の正体自体にコンプレックスでもあるのだろうか? 又は姿に能力が反映しているタイプの特異能力者エゴイストか?


 それにしても違和感は感じる。先日相対した時より雰囲気が濃い。どちらかと言うと感情生命体に近いというか……


 そんな事を考えつつ粛然たる雰囲気の中、ただ純粋に彼らの言っている事が退屈で大きな声で欠伸をしてしまったのが癇に障ったのだろうか。


 一気にこの場にいた全員が此方を振り向き怒りを表したような表情で俺の事を見てきた。


「……諸君! 見たかこの男の今の態度! この世界をより良くする為に僕が時間をかけて話をしているというのに、つまらなそうに欠伸をした! 皆はこの男どう思う⁉︎」

「「「殺せ! 殺せ! 正義を執行しろ!」」」


 周りの人々は大きな声をそろわせ俺を非難する口ぶりだった。あまりにもやっつけが酷すぎる為呆れた声で煽り返す。


「あのな……こっちは欠伸してまで眠気覚ましてお前の話を聴いてやってんだよ。お前、つまんねえ話しかしない学校の教師かよ」

「……は?」


 俺の返しで明らかに頭にきている事が声のトーンで分かった。どうやら、見た目の身長と聞こえてくる通り子供らしく、傲慢さが少しばかり抑えられていないようだった。


 もう少し煽って様子を見るか……


「『背伸びしてつまんねえ子守唄歌ってんじゃねーよクソ餓鬼』って言ったんだ。聞こえなかったか?」

「少し黙って貰おうか軍人風情が……!」


 持っていたタバコを口に咥えライターで火をつける。息を吸うとタバコに火がつき煙と独特の匂いを出し始めた。そんな風にしながら俺は信者達を跳ね除け、壇上へ上がり教祖の目の前まで行く。


「聴こえてないと思ってここまで来てやったけど、聴こえてるか? 頭だけじゃなくてついに耳までイカれちまったか? 良い精神科と耳鼻科紹介してやろうか?」

「いい加減にしろよ貴様……」

「念のためもう一回言ってやる。お前のやってる事は他人を許せない器の狭い餓鬼がやってる事と同じだよ!」


 口に含んだ煙を教祖の顔面へ当たるように吹きかける。ついに事切れたのか教祖は俺の胸ぐらを掴みにかかった。


「……良い度胸じゃないか。言っておくけど僕は喫煙者が大嫌いだ。喘息持ちだからな! 死ねば良い! 社会の害虫だ。人の気持ちを考えないクソ虫は死ね!」


 こうして教祖は完全に頭に血が昇った状態となった。


 こうならない方法ならいくらでもあったというのに彼は俺の返答をしてしまった事で自分の感情に拍車をかけてしまったのであった。


 つまるところ教祖の怒りの原因は俺の特異能力エゴによるものだ。


 俺の特異能力エゴ──『絶対零度アブソリュートゼロ』第一の能力は周りの熱運動遅くしその代わりにエネルギーを自分の感情として発散する事で温度を操る能力。


 いわば使用中は周囲の熱を感情として自身に取り込む為、頭に血が昇ってる状態でしか能力は発動出来ない。この弱点をカバーする為に作られた特異兵仗アイデンがこのライターだ。


 先日、すももが俺のライターで火をつけようとした事があった。彼女はそれを付けれる事はできなかったが俺はライターをつける事ができた。その真相はライターがそもそも俺の特異能力エゴに反応するように作られているものだったから。


 そして、この特異兵仗アイデンの能力は特異能力エゴの副作用や消費体力を減らすだけではない。


 吸収した熱は感情となり周りに伝播する。相手から冷静さを奪う為に。この作用により教祖や周りの信者たちから冷静さを奪ったのである。


 ちなみに特異兵仗アイデンのルールとして特異能力エゴを使用する上でのルーティンを守らなければいけないというものがある。


 俺の場合は熱の出力先を絶やさないこと。その対策としてライターを付けたり、煙草を吸ったり相手を煽ったりする。


 今回の場合は最初から俺に怒りを向けさせる為にあえてずっとライターを使い相手の怒りを誘っていた。


 そして、上手くこの場の全員が乗ってくれた為状況は整った。


「……どうした⁉︎ 何か言ったらどうだ!」


 俺は手で銃の形を作り教祖の頭を打つような動作をする。


「BANG」

「……?」


 同時に教祖の頭から軽くプチと紐が切れたような音がした。


 そして俺の胸ぐらを掴んでいた右手は外れぶらんとし、教祖自身の身体は右足からバランスを崩すと地面に倒れた。


 フードが外れると予想通り15歳も行かないくらいの少年の顔があった。やや女っぽい顔をして所謂美形という奴だが、彼に起きてしまった病状により顔や両目は左向きに向いたまま自分では直せずにいた為、その顔が台無しとなっていた。


「おま……?しゃべ……ない⁉︎……何……した……⁉︎」


 呂律の回らない口に頭を左手で抱えて痛がっている様子が見えた。典型的な言語障害だ。


「あーあー。やっちまったな。まさかここまで順調に事が運ぶとは思わなかったが、流石に脳に障害が起きればもう特異能力エゴは使えねえだろ」


 助長された怒りは頭に血を昇らせ、遂に脳内の血管を破裂されるまでに至ったのである。


 つまるところ脳卒中だ。


 元々、『正義』やら『公正』やらを理想に掲げそれを他人に強要するような特異能力エゴの持ち主。短気であると予想はしていた。そうなれば脳卒中のリスクは高くなる。


 ある意味やり易い相手ではあった為先ずはこの賭けを試させて貰った。


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