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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Concerto of Side Stories──『花弁たちの協奏曲』
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氷点下273.15度の情火 6話

「……珍しいですね。あなたがここまで熱くなるなんて」 


 熱気が篭る訓練室の中で俺たちの戦いを見ていた軍曹は遂に声をかけた。


 結局、あれから納得のいかなかったすももは俺の条件を受け入れ俺に挑んだ。結果はこの通り、一度も触れられず俺に気絶させられた。


「別に熱くなっていたわけじゃない。物事にはこういう決着の付け方も必要だからな」

「……李のやつ、きっと目覚めたら納得出来なくて怒りますよ?」

「だろうな」


 別に俺は特異能力エゴを使った訳ではない。単純に李の実力がまだ届いていなかったそれだけの話だ。


「俺は防御術が得意だからな。アレを破れなければ俺に触れられる道理もない」

「大人げないですね。初めて見ましたよ……鎧型の防御術なんて。本部にはアレができる人沢山いるんですか?」

「流石に5人も居ねえよ。最近だと知ってるだけでも元大将と死んだ同級生、その嫁さん、後輩にあと一人。あとは……まぁ今年入ってきた奴らに何人かいるんかもしれんが……そんなもんか」


 溜息を吐きながら訓練室の扉を開ける。


「これが生まれ持った才能の差ってやつですか……世界って恐ろしい程に残酷ですね。それに旅団長は才能だけじゃなく、特異能力エゴにも恵まれている」

「……そうだな。師にも恵まれた。だから俺達がこの世界を守らなきゃいけないんだよ」


 廊下に出ようとして一つだけ軍曹に言葉を話した。


「李のやつ、治療室の方へ運んどいてくれ。よろしく頼むぞ。俺は明日の講演会に向けて集中しておく。部屋には絶対に来るなと伝えておけ」

「分かりましたよ。無理矢理行こうとしたら止めますから」

「助かる」


 そんな会話をした後、廊下を歩いて行き俺は支部にある自室に入った。


 電気をつけると机の上には嫁さんとのツーショット写真が置かれているのが見えた。二人とも今より少し幼く8,9年前の写真だ。まだ、護衛軍にはいって1年目くらいの頃だろうか。まだ此方での出向が決まっておらず、嫁さんとの仲は良かったけどまだ結婚してない頃の写真だ。結局、結婚しても子宝には中々恵まれずつい最近、ようやく彼女のお腹の中に子供が来てくれた。


 此方の支部に来てから4,5年以上は経ったが本当に嫁さんには苦労と寂しい思いをさせていると思う。


「電話……するか」


 明日、俺が任務に失敗したら子供の顔も嫁さんの顔も二度と聞けなくなってしまう。そんな焦燥感に駆られた俺はついに携帯に手を取ってしまった。


 おそらく、今彼女は妊娠中だから病室に居るはずなので、先にメールを送る。しばらくするとそのメールに返信が届き電話をしようとの事だった。


 そして5分後あちらから電話がかかって来た。テレビ通話だった。携帯を操作して、カメラに自分の顔を写るようにしてから電話に出た。


 彼女はどうやら今外にいるらしい。側には最近テレビでよく見る元大将の孫、筒美つつみ紅葉もみじの姿があった。いつも通りの無表情でなるべく此方には関わらないように距離を取っているように見えた。


 輝の護衛だろうか。既に輝は臨月であるからお腹の子供の為にも戦闘は控えなければいけないのは確かだ。それに特異能力者エゴイストは希少だ。俺達の子供は両親が特異能力者エゴイスト確実と言って良いほど子供にも特異能力エゴは発現する。守らなければ二人も特異能力者エゴイストを失くす事になる。


 そう思うと理にかなっているものであった。


「こんにちは、氷華ひょうかくん。貴方から連絡したいなんて珍しいわね」

「……てる。ありがとな、俺に付き合ってくれて」


 少し嬉しそうに彼女は表情を緩めた。俺も多分表情が緩んでるのだろう。カメラ越しでも久し振りに動いている彼女を見た気がする。


「どうしたの? もしかしてコッチに帰れる目処でもついた?」

「あぁ……今やってる任務が終わり次第、お前の出産を見届けにいくよ」


 すると本当に嬉しそうに彼女は顔を明るくさせた。


「……! 良かった。私ってまだちゃんと愛されてるんだね」

「……当たり前だぞ。はぁ……言わなきゃだめかコレ? お前のこと世界で一番愛してるし、誰よりも愛してる」


 すると顔を紅くさせてアタフタする様子の彼女が見れた。


「もうっ! 恥ずかしいこと言わないでよ! 何かやましい事でも隠してるの?」

「あぁ……そうだな。今の俺の状況を正直に伝えたい。それを伝える為に電話した」


 彼女は何かを察したのか顔を少し不安そうにさせた。


「今やってる任務の事については少し前に話したよな」

「うん……そっちで流行ってる宗教の活動をどうにかしなきゃってやつでしょ?」


 彼女も本部では大将補佐の地位に付いている程強力な特異能力者エゴイストだ。こういう関連の宗教団体の厄介さは身に染みて分かっている。


「あぁ。その教祖がな特異能力者エゴイストだって分かった。だから、俺が止めないといけない」

「そっか……出産予定日には間に合いそうなの?」

「明日、決着をつける事が出来れば」


 その台詞を実現させる為に、俺は強く言葉を放つ。


「……死なないでね」

「ははっ、死んだら沙羅様に頼んで子供と輝の顔だけ見にくるよ」

「……もう! 本当……馬鹿な冗談言わないでよ……」


 俺が冗談めかしく言うと彼女は口を膨らませて怒った。


「すまん、すまん。だけど……大丈夫だから。だいの二の舞になることは絶対に避けるさ」

「気を付けてね。勿論、私の為にもだけどこの子の為に……」


 彼女はお腹を優しく撫でるようにさすった。


「あぁ……すぐ片付けて帰ってくるさ」

「うん」

「じゃあ、切るぞ」

「バイバイ」

「あぁ、じゃあな」


 電子音と共に通話が終わる。


 久しぶりに顔を見れて良かったなと思うとともに、電話して心配させてしまったことを少し後悔してしまった。


「勝たなきゃな。明日……」

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