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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Concerto of Side Stories──『花弁たちの協奏曲』
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氷点下273.15度の情火 4話

 車を運転し海沿いを走る。日本海が見える午後3時。コーヒーブレイクには丁度良い時間帯であった。平日な為人は少ないにしろ、ある程度の交通量のあるメインストリートでは買い物をしている一般人がいた。


「私達カップルでデートしてるみたいですねー」

「黙れ口を縫うぞ、すもも


 相変わらず減らず口な李に対し冷たい態度をとり、無視しながら運転を続ける。


 数分運転を続けるとすぐに目的地であるシティホールに着く。車を駐車し、先ずは建物の周りを見渡す。海沿いに建設された建物の為、近くにビーチがあり季節も夏が終わったばかりな為まだ海開きがされていた。水着に着替えるための建物もすぐ近くに用意されており、やはり平日にしては比較的に人が多いように見えた。


「流石、感情生命体エスター出現率最低の地域ですね、本土だとこうはいきませんよ。ちょっと前に蒲公英病が流行ってた時もこっちだけ緊急事態宣言なかったですし」

「だが、『公正教』が活性化してきている。それが凶なのか吉なのか……」

「ここ数ヶ月、犯罪件数が激減した。確かに『公正教』の事を潰そうとするのはこれのせいで些かやりずらいですからね」


 次にシティホールである二階建ての建物に視線を移す。大ホールと小ホール共に1階から二階にかけて吹き抜けとなっておりそれぞれ横並びに並んでいる。直接の移動は不可能で大ホールから小ホールに行くのには、各ホールの間にある廊下や入り口にあるロビーを経由する必要がある。2階も同様に廊下を経由する必要がありそうだった。


 それを直接確認し、自身の特異能力エゴの射程範囲を調整する為に事前にここにきたのだ。


 建物内に入り許可を得て、まずは小ホールの入り口それぞれを回る。どうやら舞台側の方角以外の全ての方角に大きな入り口が一つづつ付けられており、代わりに舞台側には外に繋がるための非常口が備え付けられていた。大ホールも同じような構造で、建物にある唯一のエントランスから見ると正面に小ホール、右手に二周りくらい大きな大ホールがあった。


「……ふむ、なるほど。これだと有事の際には小ホール内からでなければ人を守れないな。これは貴重な情報だ。なにせ二階からも人が流れ込んで来たら、内側からで無ければ人を止める事はできない。それに一度はこの建物全体を射程範囲にしなければいけない訳か」

「確かにそうですね。でも二階に座ってる人の避難はどうしますか?」

「二階には廊下の舞台側に一階に降りるための非常口がある。だが、一度廊下に出るのは危険だな」

「どうしますか? 何か解決案は……」

「問題無い。避難の指示すら必要ない」


 ただ一言、李に言葉を返すとその理由を理解したのか、頷いた。


「へぇ、随分と自分の特異能力エゴに自信が有るみたいだね。浅葱あさぎ氷華ひょうか旅団長」

「……」

「誰!」


 大ホール側に続く廊下側の扉の前に寄りかかるようにし、子供くらいの身長の人がフードを被り腕を組んで立っていた。恐らく、声色からして成人前の少年。最小だと小学生くらいの可能性もある。ソイツから漂うERG(エルグ)は一般人とは比べ物にならないもので、確実に特異能力者エゴイストのものであった。


 恐らく、俺と同じようにここの下見をしに来た『公正教』の教祖。コイツがその正体なのだろう。


「誰かに見られているという感覚は数秒前からあったが……」

「旅団長、下がって!」

「『動くな』!」


 声が空気の振動となり、周囲に響き渡る。異様な音圧。あの音聴いたら不味いな。


 耳に入る音の解釈だけを行い声は鼓膜前で遮断する。瞬間、李は強制的に体がその場で動かせなくなっていた様子だった。


「この場の正義は『動くな』だ。決して『死ね』じゃない。ましてや『逃げるな』じゃない」

「……」


 成る程。声を媒介とした強制支配能力。完璧に初見殺しだな。


「……ッ!」


 どうやら声も口に出せないらしい。あの状態であの特異能力エゴを喰らえば不可避だ。監視されているとは思ったがまさか教祖本人が釣れるとは。


「今日この場で決着を着けるのはつまらない。そう思うだろう? 浅葱氷華……避けたんだろ? 僕の能力」

「……ふん、バレてるか」


 筋肉が硬直しているふりをやめると戦闘態勢に入る。


「熱くなるのは一瞬だ。すぐ終われせてやる……」

「何故僕の能力を避けれたのか知らないけど、僕の声は聞こえてるんだろう?」

「……『絶対零度アブソリュートゼロ』」


 瞬間、空気が凍りヤツを氷柱で拘束する。同時に俺の身体は物凄い熱に包まれ、思考にすら熱を帯び始め血が沸騰する。


「熱ッ血ッッッッ!」

「……人格が変わったな! 面白い、浅葱氷華。当然のように僕の音にアタリをつけて危険な物だけをカットした。そういう技術、筒美流奥義にあるからね。だけど、今日はこれでお仕舞いだ。周囲の温度を急激に下げる……それが貴方の能力だ。互いの手の内が分かったから次会う時が楽しみだ」


 完全に拘束はしたが相手はそれでも余裕がある様子。何か打開策があるのか?


「『溶かせ』」

「……なるほど!」


 瞬間氷は溶け、即座に奴は退却する。そして、奴がこの小ホールから出た事によって俺の射程範囲外に出た為追跡も不可能だ。


「奴の身体能力は護衛軍の軍人の平均以上に高いな!それに能力が人だけでなく物質にまで影響を及ぼしていたがあれは……」


 相手の射程範囲から外れたのか李の拘束が解ける。同時に特異能力エゴの副作用が瞬時に無くなった。


「……ふん、少々厄介な能力だ」

「ごめんなさい……私何もできなかった」

「いや、いい。俺も奴を逃してしまった。とにかく今の攻防は相手も全力じゃなかった。それだけは覚えとけ」


 そう、俺はある程度正しい段階を踏まなければ能力の発動が難しくなる為全力は出していない。同じように奴にも余裕があるように見えた。


 厄介なのはコレをどう当日捌くかだが……やはり仲間は危険に晒せんな。


 こうして、俺は『公正教』の教祖と会った事によってこの決断したのだった。


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