氷点下273.15度の情火 3話
「このままじゃ半島に住んでる人全員が洗脳されるのも時間の問題です。これ以上様子見も怖いですよね。だけどこれは十中八九……」
「罠だな」
俺は李の吐いた煙を煙たがりながら答える。
「ようやく掴んだ『公正教』への手がかり。奴らは俺が特異能力者である事を知って講演会に招待したんだろうな。さて、どうしたものだろうか」
「まさか行く気ですか?」
慌てて引き止めるように彼女は言う。
「策もないし、状況も分からん。相手が特異能力者の影響である事は間違い無いのだが、元となる洗脳方法が別なものな気がする。だから教祖が感情生命体で『衝動を放っている可能性もある。それに、相手が俺の特異能力の効果を知っているかどうかそれも問題だ」
「……よかった、流石に行きませんよね。そういえば旅団長の能力って周囲を冷やしたりする……」
「お前だけには詳しくは言えんが教えとくか。それは能力の一部だ。本質はもっと別の所にある。『冷やしてる』というよりかは熱をそもそも発生させないようにしているというのが近いな。あとは自分で考えな。万が一の時は俺の動きを予想して動いてくれ」
特異能力の本質が明確になる事は弱点になり得る。喩えそれがどんな最強と言わんばかりの能力でも、対策・対応は立てる事はできる。それで俺の親友、最強の特異能力者──止水題は死んでしまったのだろう。
「なるほど、『冷やす事』が能力ではなく『何かを変化させた』事が原因で周囲の物体を冷やす事ができるんですね。分かりました」
「さてと、分かっている事を整理しようか。『公正教』の教祖は年齢不明、性別不明で正体不明の人間。信者は奴の話を聞いた人間全てがなると考えると、洗脳の正体はその教祖の存在が齎す何かであると言う事がわかる。例えば、短期間でこれだけの信者を増やしたとなると教祖と目があっただけで洗脳されるだとか、教祖の声を聴くことが洗脳のトリガーであるとか、教祖が書いた文字を見る事で洗脳をするとか、教祖の出したERGを吸い込む事で『信仰心』という感情を強制的に発現させているのか……」
それに近頃では感情生命体ながら人型形態を持ち、理性と特異能力を持つ『特異感情生命体』なるものもいる。可能性だけを考えるとかなり多くの選択肢が見える。
「『衝動』だった場合は教祖の元から離れた時点で物理的にその効果は薄くなります。それに教祖の書いた文字が洗脳のトリガーなら私ももう既に洗脳されていますからその可能性は無いですね」
「前者についてはごもっともだが、後者については逃れられる点もない事は無いから招待状は俺に見せるなよ」
「それについては問題無く。既にシュレッターにかけて燃やしました」
「過激だな……」
えへんと胸を張る李に軽く頭を抱えた。
「でも、なんか流石に露骨すぎますよね。これだけあからさまに貴方を嵌める気マンマンですよなんて言われたら逆に攻め込みたくなるような気も……」
「ふむ……とりあえずやれる事だけやっておくか。シティホールの構造や周りの地形を直接確認しに行くぞ」
俺はふぅっと息を吐いた後、伸びをして出発の準備を始める。
「……え? めんどくさ」
「先にコイツを海に投げ捨てて氷漬けにするか」
「待ってくださいよ! そんなご褒……やっヤクザみたいなことやめてくださいよ! 断固拒否です! 嬉しすぎ……こっ怖すぎておしっこちびっちゃいそうです!」
「……人ならせめて人らしい会話してくれ。マゾヒストはもうこの組織間に合ってるんだ」
また、俺は溜息を吐きながらやれやれと首を振りながら護衛軍の支部の中へ入った。
今から向かうシティホールはここから数キロ離れた海沿いにある市が保有するよくあるものである。周りには電車の駅やバス停、車の通りもよく駐車場もかなりの大容量で備えられている。その中にある大ホールのキャパシティはおおよそ3,000人で舞台があり、休日の日などにそこで芸能人や舞台俳優、オーケストラ等を呼んで芸や劇を鑑賞したりしている様子はある。
また他にも小ホールがありキャパシティは1,000人でそこでは小さめのピアノのコンテストなど賑わっている様子があった。
どうやら当日は大ホールの方で『公正教』の講演会があり、小ホールの方では地域の園児達の学芸会が予定されている。その中で一番問題なのはその子供達が俺達の戦いに巻き込まれる事だ。そうなると、アウェイで防衛戦を強いられる事になる。
そして、戦いにおいて地形把握は重要だ。こと、今回防衛戦になるのであれば、何処から敵が来るか分かっていれば俺なら一人で数千規模の人間は殺す事はせずに捌くことは出来る。だから、一般人には手出しは一切させない。
そうなると問題はやはり教祖の特異能力か。




