蒲公英病編 46話 ダンデライオン2
「居たね」
「本体は……まだ見つからない、多分たまたま引っかかった奴らだね」
「私も目視したよ。数は3で間違い無いよね? ……多分黄依ねーさんの報告にあったヒト型の使い捨て婢僕」
索敵の感じだと戦闘能力は大したことのない婢僕。感染した一般人が体を病で崩壊させたあと、『蒲公英』に自動的に吸収された素体なのだろう。
「倒すと多分察知されるよ」
「大丈夫、さっきの作戦通りやれば情報は取られないし、逆に釣りができる」
「なら……私と翠ちゃんで潰すよ」
「了解」
翠ちゃんは鼻唄を歌いながら、手元に狙撃銃を転移させる。腰を下ろして、膝立ちの姿勢になるとコッキングをしスコープを覗く。
「んー……木が邪魔で射線が通ってないなぁ。流石に障害物がいっぱいだね」
再び立ち上がると、彼女は上を指差す。その意味が理解できたから私は翠ちゃんを抱き抱え空に飛ぶ。
「瑠璃くん、弾持ってるよね?」
「もちろんだよ。いってらっしゃい」
私が空へ飛び、空中のERGを固めて足場を作る。
「準備オッケー。ねーさんも短機関銃持っとく?」
「使えない訳じゃ無いけど、私の場合は素手のが強いから」
「おっけー」
およそ1キロを超えた距離に婢僕が私たちから少しずつ近づくように歩いて行ってる。
「この距離なら何も考えずに当てれるねー。でも逃げられちゃうといけないから、一体撃った後、次の動きに早く移るために雑に撃っちゃおっか」
「……え?」
すると翠ちゃんはスコープから目を外したあと、立ち上がり片手で短機関銃を持ちながら、身体の側面に合うように銃を構える。そして片目だけ開いたあと、目標より少しだけ上に照準を合わせる。
「曲芸じゃん。当てられるの?」
「よゆーよゆー。1キロ圏内なら目が良ければ腰撃ちでも問題ないよ。逆に問題なのは着弾まで時間かかるから、それに気付かれて避けられる事だよね。加速お願いできる? 重力加速度も同じ倍率でで上げといて欲しいかも」
持っている銃の種類の数と言い一体何処で射撃の練習なんてしてるのか分からないけど、彼女の言葉は朝飯前でしょと言ってしまいそうなくらいには軽かった。
「んじゃ撃つよー。直ぐ転移するから身体どっか触っといて」
私は彼女の肩に触れて『速度累加』を発動させる。
そして、引き金に手をかけた瞬間、一瞬だけ鼓膜を守る為に対人術である『花心』による音量の調整を行う。
無事に加速された銃弾は婢僕の頭に当たり、ふらりと体が倒れそうになる所まで見えた。
瞬間、景色は入れ替わり私達は二体の人型婢僕がいる地上に戻る。先程撃った婢僕は元々私達が居た空中から落下しているのが見えた。
そして、今私達の目の前にいる婢僕は未だ、状況を理解できておらず、私たちの姿すら認識出来ていない。
『なるほど、幾ら婢僕と言っても元は唯の一般人。ちょっと強いだけの案山子ならここまで対策取る必要はなかったかな? それとも、また別に力を割いている? どっちにしろ、怖いから早く殺すべきだけど……』
人型と言っても、もはやゾンビとも形容できるような身体の崩れ度合い。身体のサイズ的に大人なんだろうけど、男か女か分からないくらいに肉体が崩壊していた。これなら幾ら私でも躊躇う事はしないし早く『蒲公英』の支配から解放した方が良いという思いの方が先行する。
『──筒美流奥義『花紋』』
地面を踏み込み足に力をためた後、一瞬で婢僕の頭を粉砕する。首から下は10メートル程吹っ飛んだ後動かなくなったが、頭は散り散りになって消滅してしまった。
同時に翠ちゃんもいつの間にか両手に短機関銃を持ち、もう動かなくなった婢僕に風穴を開けていた。
「移動するよー」
「おっけー」
一息吐く間も無く私は翠ちゃんの手を取り遠くにいる瑠璃くんごと別の場所に飛ぶ。
また景色の入れ替わった場所で、瑠璃くんと落ち合った。
「おかえりー。落ちてきた奴は僕が完全に処分しておいたよ。多分、本体と感覚共有してると思う」
「ありゃ、じゃあ感知ちゃったかも」
「いやそこは大丈夫だよ。僕達以外がここに入ったら、僕達の索敵を出来ない様に違和感を覚えない程度でごちゃごちゃにしてるから」
なるほど、婢僕の反応が悪かったのはその二つが理由か。でもまさか瑠璃くんが泉沢さんみたいな事もできるなんて。お陰で当初の予定通り事が運べそうだけど。
「さて、これで多分お相手さん達はさっきいた所に強めの婢僕をすぐに派遣するはずだよ。一応さっきの場所に僕の髪の毛を置いてきたから、ちょっとちっちゃいけど索敵もできる。戦力は分散させた方が良いよね?」
「そうだね、もし朱くんか判ちゃんのどちらか釣れるだけでも大分楽になるからね。それに翠ちゃんの能力も瑠璃くんの能力も相手にはバレていない。大分有利に事を運べそうだね」




