第一幕 15話 観戦室2
観戦室で私、色絵翠は『機関』副校長の泉沢拓翔先生対元機関生である黄依ねーさんと衿華ねーさんの模擬戦を見ている。
隣には現護衛軍大将兼『機関』校長の成願家保先生と前護衛軍大将の孫娘の筒美紅葉さんがいる。
「ねぇ、翠ちゃん。この戦いどーなると思う?」
「先生強すぎて草生えてる。あんなんどーやって勝てばいいの?」
「日常会話のノリ軽すぎでしょ翠ちゃん。草って感じ」
「あっごめんなさい紅葉さん。気を抜くとこんな喋り方になっちゃうんです」
「素で良いよー。私も敬語じゃ無い方が取っ付き易いし」
「ありがとうー紅葉さん」
紅葉さんはやけにニマニマとした作り笑顔で手を握りぶんぶんと振ってくる。
「ところで大将はこの戦いどうなると思います?」
「泉沢ってあんなに強いの……?」
校長は軽く怯えながら言っている。阿保かこの人は。
「知らないんすか。だって先生、護衛軍最強格の一人ですし。校長もそうじゃないんですか?」
「いや、俺は封藤兄貴の推薦でなっただけだから……」
割と初めて知った新事実だった。道理で泉沢先生が校長先生に対して舐め腐った口の利き方をしていた訳か。私が言えた口では無いけど。
「コネじゃん」
「コネだね」
「こいつら、俺に対する当たりが酷すぎだろうが……別にコネって悪い手段じゃねぇだろが……」
校長は顔をうつ向けてぶつくさ呟きながら凹んでいる。
「ところで紅葉さん」
「なーに?」
「紅葉さんじゃあ余所余所しいから紅葉ねーさんでいいかな?」
「ねーさん呼び……」
「ダメ?」
すると、紅葉ねーさんは手を握ってきて目を輝かせてこちらを見てくる。
「超嬉しい! てっきりさっきの模擬戦で嫌われるかと思った」
「ふーんまぁ嫌ってわいないよ、なんだかんだ勝負はうやむやにして貰ったし、私にとっては瑠璃くんと一緒に居られればそれで構わないから」
私がそういうと紅葉ねーさんが思い出したように話し出す。
「そうそう、瑠璃くんの話だけど何か私に手伝える事ある?」
「手伝えること?」
「監禁されてるとかどうとか言ってたじゃん。一応私も護衛軍だし、犯罪に近いなら取り締まりする権限はあるよ? 私はそれなりの地位だし融通も多少は聞かせてられるし」
そうか、瑠璃くんが監禁されているのって、紅葉ねーさんから見れば犯罪に近いのか。言うべきじゃなかったかな……
紅葉ねーさんってさっきの死喰い樹の腕の事も踏まえて本当に瑠璃くんに雰囲気が似ているからつい話してしまった……
「おい、お前の弟って確か……」
校長が口を挟んで来るが静止させ此方から話す。
「色々事情が複雑なんだよね。今度瑠璃くんの口から直接聞いた方が良いよ。それにねーさんの事、瑠璃くんの為にも聞いた方が良い気がするんだよ」
「なるほどねー。みんな色々抱えて生きてるんだね」
紅葉ねーさんは割とどうでも良さそうにうんうんと意味深げに頷いる。
さて話題を元に戻すか。紅葉ねーさんはこの模擬戦どう見るか……
「それでこの模擬戦、どこまで黄依ねーさんと衿華ねーさんが戦えるんだろうね。紅葉ねーさんはどう思ってるの?」
「圧倒的に泉沢さん有利だけど、まだ二人の動き方次第では勝敗を分けるよ」
へぇ……まだ勝敗の話をするんだ……先生が本気を出せばあと1分も掛からず行動不能に出来ると思うけど。
「黄依ねーさんと衿華ねーそんに何か勝機とかあるの?」
「さぁ? 黄依ちゃん達次第じゃない? 実際泉沢さんは二人の事試してるようだし」
「試す? 何を」
「相手の弱点を見極める力」
先生の弱点……正直、そんなものないと思うけど、紅葉ねーさんならどう戦うのだろうか。
「先生の弱点思いつくの?」
「第一に特異能力の発生から規模拡大までの遅さ。物理的な波形上の物に干渉できるなら、私なら電磁波に干渉して放射線とかの人体に影響が出る物を相手に当てるか直接脳波をいじって相手を行動不能にするかな。今回は模擬戦だからそれをしないのかもしれないけどね。でも、そうしなくてももう一つ、まず最初に光へ干渉する以上に強い動きが出来る事があるんだよ」
頭に色々思い浮かべるが何も思い浮かばない。どこまで考えているんだ……紅葉ねーさんは?
「えっとそれは……?」
「重力波を捻じ曲げる事。力場を曲げて黄依ちゃん達をキツイ重力で押しつぶせば、それでもう行動不能でしょ?それをしないって事は多分ある程度の段階を踏まえないとそういうことが出来ないんだろうね。それに第一楽章とか言ってたし」
「なるほどね。速攻的ではないっていうことね。でもそれだけじゃ、この圧倒的不利で勝つ要素にはならないと思うけど」
速攻的ではないという事は、最初のうちは決め手に欠けるという事だろう。確かにそれは隙ではあるが、それでも五感のうち脳が処理に9割ほど費やしている視覚を奪われている。だから圧倒的に不利な筈だ。
「そうだね、だから二つ目、泉沢さんの特異能力では五感もとい第六感合わせて全ての感覚器官に関する情報に干渉できないんだよ。嗅覚、味覚、触覚それに第六感……」
なるほど……確かに筒美流の技の中には五感の感度を強化する物がある。それを先生を超える洗練度で繰り出せれば確かに有利に立ち回る事が出来るだろう。でもそれを二人ができるかなんて五分五分。それに先生はそういう能力なんだからその対策を怠る訳ない。
「まぁ、考え過ぎかもしれないけどね」
「いや、参考になったよ。紅葉ねーさん!」
「ははっどういたしまして」
「最後に一ついいかな?」
「うん」
「紅葉ねーさんが先生と戦ったらどうなる?」
紅葉ねーさんは一瞬目をパチクリさせたが、口を歪めながら笑って答える。
「勝つ努力はしたいね」
「またまた謙遜しちゃってー」
「無理無理、あんなのに勝てないって」
笑い合ってから私達は視線を模擬戦室の方に視線をやった。