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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act four <第四幕> Dandelion──花言葉は別離
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蒲公英病編 43話 幕間 万年青・続1

 私は『自殺志願者の楽園(ユートピア)』関所の管理人の女──万年青おもと。苗字は訳あって今は名乗って居ないし、まず自身の名乗る事すら許されない立場の人間であった。


 私は『彼女』を黙って樹海の奥まで見送る。この想いはきっと親心にも似た感情なのだろうが、私はあの子の親ではない。あの子の親にはなれない。


 きっとこれ以上私はあの子に近づいちゃダメ、そういう運命があの子を支配しているからだ。


 ベランダで黄昏ながら煙草を吸い、私は私自身の過去を振り返る。


 私には世間で必要とされている才能なんて持たずこの世に生まれ落ち、およそ『逸脱』だとか『天賦』だとかいう物に関わらず、気づいたら見た目は大人と変わらない歳くらいにはなっていた。


 そして、私が『そういうもの』に触れ始めたキッカケは筒美つつみ封藤ふうとうという男の存在であった。


 彼と初めて会ったのは今から大体50年以上も前だった。お互いまだ子供で、私はやっぱり非力であったから感情生命体エスターに襲われて、親をそれで亡くして、頼ることのできた人間は私を助けてくれた彼位だった。


 それから少し、彼に協力して私達はこの護衛軍という組織を作り上げたのだった。


「ふぅ……」


 煙草の煙を口に含み少しだけ味わった後、その煙を口から吐く。


 そうしているうちに、後ろに彼が来た。白髪で少し髪の毛の薄くなった彼の姿は最早私にとっては唯の老人であった。それでも、筒美流奥義最高冠位である白色の袴を来た老人なんて、私の知る限りではこの世にたった一人しかいない。


「よぉ」

「アナタから話しかけにくるなんて珍しいわね」


 私は彼──筒美封藤に対してすこし嫌みたらしく返事を返した。すると彼は困った顔をして私から煙草を奪う。


「何すんのよ」

「少し前、紅葉もみじから煙草の臭いがした。お前の影響か?」

「……違うわよ。しかも、さっきもうやめたって言ってたわよ。まぁでも、あの子が影響を受けるとしたら、切手きって君辺りじゃないかしら」


 彼は少し考えた後、口を開く。


「切手……青磁せいじの事か。そうか……なるほどな」

「何がなるほどなよ。私の煙草返しなさいよ」


 彼は私に言われると私から取り上げた葉巻を渋々返す。


「あのな、そんなん吸うほどストレスが溜まってるなら無理にこんな仕事しなくても良いんだぞ? それに臭いは俺らにとって致命傷に繋がり兼ねない時がある。それも踏まえて言っているんだ」


 また彼は的外れな事を言い、私に溜息を吐かせた。


「なんでそんなに機嫌が悪いんだ?」

「さぁね、そう言ってる内は人の心なんて分かんないわよ」

「……すまん」


 何故か彼から謝る言葉が出てくる。こういう部分では本当に不器用な人だと思った。


「紅葉にお前の事話していない事、話せない事まだ根に持っているのか?」


 ようやく、彼が私の怒りについて正解を出してくる。だから、私はコクリと頷きとある例え話をする。


「封藤さんは聖書とかの話は読んだことあるかしら?」

宛名あてながよく読んでた本だな。内容はよく知らないが」

「……樹発生以前に恐らく世界で一番信徒数が多かった宗教の教本の事よ」


 いつものように彼は私の話を軽く左から右へ流すように聞いている。


「その本の中に救世主サマっていうのがいてね、その子は一般の出なのに産まれてくる前から国の王様になるって予言されていたのよ」

「……」

「それを聴いたその時の王様は何をしたと思う?」

「自分の立場を追われる事を恐れてその救世主とやらを殺そうとしたのか?」


 流石、元この世界のトップを暗殺しただけの事が有る『この世界』の救世主サマだ。身に覚えのある事への察しはとても良い。


「正解、だけど満点の解答じゃない。現実はもっと残酷よ」

「……じゃあ、万が一の事がないようにするために救世主と同じ歳に生まれた子を全員殺した?」

「大当たり、もしかして私と出会う前似たような事経験したの?」

「……さあな」


 彼は言葉をはぐらかしそっぽを向く。


「さてと、ここからが本題なんだけどね、そんな救世主サマを身籠った母親はどんな感情を抱いたと思う?」

「……」

「他人から見ればその子は救世主サマだから、守らなくちゃって見えていたと思うよ。でもね、本当はそれを免罪符に『自分の子供』として、どんな犠牲を払ってもその子を守りたかっただけなんだと思う。相当ごちゃごちゃした感情だったと思うわよ」


 ようやく彼は私の話に理解が追いついてきたのか、顔を深刻そうにする。


「……もうやめにしないか?」

「嫌よ。さっきも言ったじゃない、現実はもっと残酷よ。私達の場合は救世主サマだと思っていたその子が本当は『死神の使い』だった。それが例え仕組まれた運命だとしても、その子に罪が無かったとしても、その子はヒトにとって敵なのだから周りはあの子を殺そうとする。それでも親というものはどんな犠牲を払ってもその子を守る為に命をかけたのよ」


 そう、それにもうあの子には親と呼べる存在は居ない。


 父親はあの子の特異能力エゴによる完全消滅。これが意味する事は贄による復活が不可能であるという事。


 母親は『自死欲タナトス衝動パトス』による廃人化。脳に予想以上のダメージを負ってしまった事で最早奇跡でも起きない限り再起不能であった。


 そして、あの子の親代わりとなった葉書はがきちゃん。彼女もあの子を守る為に死んでしまった。


「……」

「私がアナタに言いたい事は一つ。どうしてあの時、私と紅葉ちゃんを遠ざけてしまったの?」

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