蒲公英病編 42話 万年青
あの会見から2日後、私達──筒美紅葉、色絵瑠璃、色絵翠は『蒲公英』が根城にしている『自殺志願者の楽園』に入る為に関所まで来ていた。
「紅葉ちゃん! テレビ見たわよ!」
「……あっハイ、ありがとうございます」
管理人さんに会って開口一番に言われたのはその言葉であった。私はその事について素っ気なく恥ずかしそうな声色で返すと、あまり聞かれたくない事なのかなと彼女は察してくれたみたいで、これ以上何も聞かなかった。
「んで、三人はこの『自殺志願者の楽園』にいる『蒲公英』を倒しに来たのね」
「はい、一応護衛軍の内部の人なので教えておきますが、祖父も後から来ます」
「……師匠? あぁ、封藤さんのことね」
管理人さんはうーんと唸った後、私達に聞く。
「大丈夫なの? あの人? 貴女達がだいぶ強引に秘密情報公開しちゃったから世間ではだいぶ嫌われ者になっちゃったみたいだけど」
「まぁ、元々祖父の立てた計画ですからね。それに、祖父お偉いさん方には事前に全て伝えてたみたいだし、全部の責任は祖父と今の大将で取るって言ってました」
「相変わらずなんでもお構いなしに罪を背負う人というか、なんというか……」
やれやれとため息を吐く彼女に、祖父のことをこういう目で見てくれている人が私や青磁先生以外にもいるという事に少しだけ安心できた。
そして、本題へと話を移す。
「私たちは『蒲公英病』の現状を打破する為にここに来ました。その為、現在私達がここで任務していること、外の報道陣の人達に秘密にしておいてくれませんか?」
そう、私たちはここまで来るのに報道陣に悟られないように、戦闘に巻き込まれないようにする為に、翠ちゃんの特異能力によってここへ来ていた。
「ふむふむ。これから闘いにいくんだからね、邪魔が入らないようにしないとね。なるべく関所だけじゃなくて、普段は見ないような抜け道とかも監視しておくよ」
「ご協力ありがとうございます」
私がお辞儀をすると、管理人さんはまぁまぁと身振りをする。
「私と紅葉ちゃんの関係じゃない。それくらいなんとかするよ」
管理人さんは私と話し終わると、翠ちゃんや瑠璃くんの方を見て彼女達に話かける
「このメイド服の子はテレビでみたから分かるけど、もう一人のお人形さんみたいな子も特異能力者なのかい?」
「はい、そーですよ」
「僕達は双子の兄弟なんだよ」
翠ちゃんと瑠璃くんは両手で手を繋ぎ合い、管理人さんの方を見つめる。
「……こりゃ、女の私でも目の保養になるわね。特異能力者は美少女にしかなれない決まりとかあるのかね? 前来た、霧咲さんや水仙さんもえらい別嬪さんだったし」
「……さぁ? 男の人も結構カッコイイ人も多いし、そういう血でも流れてるんじゃないですかね?」
原初の特異能力者である『雁来紅』も絶世の美少女であったという言い伝えもある位だった。
「そーいえば、例の会見で紅葉ちゃんに結構な反響があったみたいよ。クールビューティーな謎の美少女って」
「私、世間でそんな風に言われてるんですか」
私は半目になりながら、やや嫌そうな声を出す。
「だってさ、紅葉ちゃんがテレビに打った瞬間ぱぁぁって不思議な感覚に包まれたんだよ。それですっかりテレビに見入っちゃってさ」
「……なるほど」
おそらく、『痛覚支配』による効果だろう。カメラ越しでも能力が発動できた事に関して確認できたのは良かった。
「ありゃなんていうのかね、封藤さんの近寄り難いオーラみたいなものとは違う、また別の場を支配するみたいな」
「原理は感情生命体の『衝動』と一緒ですよ。私はそれを祖父のように意図的に出せるので……」
「そうそう、封藤さんのはそういえばそんな名前だったわね」
全くの嘘ではあるが、正直に話したところであまり良いこともない。
というか、この管理人さん結構、祖父の事について知っているんだなということを初めて知って割と驚いている。年齢も彼に結構近いし、こんな重要な場所の関所を任されているくらいだから、護衛軍の初期メンバーの可能性はある。
「そういえばなんですけど、祖父の事ってどれくらい知ってるんですか?」
「ぜーんぜん。わたしゃあの人の事なんてまっーたく知らないよ。歳が近いからたまーに会って私から一方的に世間話でもするくらいかね。封藤さん、自分等の話は全くしないし、人の話全く聴かずにつまらなそうに聴くからねぇ」
彼女はハハッと冗談らしく笑う。どうやら私が思っていた事とは違う風であった。
「わかる事と言ったらほんと無愛想な男だよ。全く嫁さんがかわいそうだ」
「お婆ちゃんですか……それもそうですね。私には一回も会わせてくれないし、ほんと酷い父親代わりですよ」
そんな世間話をしていると、瑠璃くんと翠ちゃんが私の服の袖を掴みながら、『そろそろ行こう』という。
「うん分かった。じゃあ行きますね」
「はいはい。気をつけるんだよ。無理だったら、封藤さんに任せなさい」
「はい、またお話ししましょうね」
そうして私達は部屋から出て行った。




