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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act four <第四幕> Dandelion──花言葉は別離
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蒲公英病編 40話 攻略2

 青磁せいじ先生のその台詞に私はため息を吐きながら言葉を返す。


「簡単に言っちゃってくれてるけど、それ私の負担多くない? おおよそ同格以上の『婢僕サーバント』を相手取りながら瑠璃るりくんのバックアップはキツいって。それにあの二人……しゅう君とはんちゃんの実力青磁先生も見たこと有るから分かるでしょ?」

「しゃーなくねーか? 瑠璃を出す以上、瑠璃の正体を感情生命体エスターだと理解している人で構成された少数生命でないと色々不便なのは瑠璃のほうだからな」

「ごめん……紅葉……僕、筒美つつみ流は破ノ項までしか使えないから足引っ張っちゃうよね……」


 瑠璃くんは瞳をウルウルとさせながら私の方を見る。別に破ノ項が使えるなら、戦力としては申し分ないしそんな卑下する事はないと思う。


「気にしないで、瑠璃くんが悪い訳じゃないから」


 私は彼の頭を撫でながら、青磁先生に向かってため息を吐く。その意図が分かったのか青磁先生は仕返しで私が少し気にしていた事を言う。


「ところで、あの紅葉はあの二人と戦えるのか?」


 あの二人とは勿論、朱くんと判ちゃん。質問の意図は戦力差があるか否かというものではなく、私の元家族を殺す気で相手に出来るかという感情的な部分に関する質問だった。


「……できれば戦いたくなんてないのだけど、そうも言ってられないよ。もう、テレビの前で全国民に蒲公英ダンデライオンを討伐するって言っちゃったしね。覚悟は決まってる。ただ……」

「?」

「……どんな形でも生きているなんて思ってなかったから、直接顔を見たら一瞬でも手を緩めてしまいそうでちょっと怖い。もし、黄依きいちゃんたちがこのことを知らせてくれなかったら、祖父ししょうでも隙ができてしまったかもしれない」


 そう、意外と思うかもしれないけれど祖父ししょうは身内の命に対する関わり方について、一見すると割り切りはつけているようにも見える。しかしそれに反比例するかのように心の中ではかなりの自己嫌悪や悔しさ、悲しさ、無力感を満たしている人間なのだ。


 だから戦闘において彼に弱点というものが存在しているなら、その『感受性の豊かさ』という所になる。しかしながら、筒美流奥義は感情という物質をエネルギーとして扱う技術。もし祖父ししょうの手を止めるだけの隙が出来たとしても、その隙自体が祖父ししょうを強くする可能性は大いにある。


 だとしても今回の相手は触れるだけで確定的に死が訪れる『衝動パトス』を持つ感情生命体エスター。喩えどれだけ隙があったとしても強かったとしても油断をすれば、たった一手で詰みになる戦いなのだ。


「まぁ、その保険の為の瑠璃と翠だからな。翠、お前も大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。やっぱり私は人間関係とかにグチグチ関わるより、戦わせてもらった方が性に合ってるよ。発信機も私が持つのが一番いいよね?」

「ああ、やり方は紅葉達と相談して決めろ」


 そうすると、青磁先生は翠ちゃんに発信機である針を渡した。


「さてと、基本的には俺様が出来ることといえばこれくらいだ。後は護衛軍側がお前らを派遣する日にちを決めてやり合うだけだ。さっきの放送のせいで多少ゴタゴタするかもしれないが、その辺は泉沢いずみさわとかいうポニテ野郎やあのクソガキエースがなんとかするだろ」

「そうだね、護衛軍的にも内部でゴタゴタするより世間体的にも先に蒲公英ダンデライオンの討伐を優先したいはずだから……」

「このタイミングで『特異能力者エゴイスト』の存在を公表したのは別の意味でも正解だったかもしれないね」


 瑠璃くんがそういうと『なるほどな』と青磁先生も頷いた。


「とりあえず、紅葉も翠ちゃんも今日は疲れたでしょ? 寮に戻ってゆっくりしよ?」

「うん、そうだね」

「今日は僕が腕によりをかけてご飯を作るから」


 彼はそういうと、私と翠ちゃんの手を握り引っ張っていく。


「青磁兄さんも、無理はしないでね」

「わーってるよ」

「バイバイ」

「あぁ、じゃあな」


 部屋を出る前に瑠璃くんは青磁先生に挨拶をした。少し青磁先生も嬉しそうに返事をした。


 そして、瑠璃くんに連れられるまま私たちは寮へと戻っていく。


「そういえば、瑠璃くんって料理作ったことあるっけ?」


 翠ちゃんがふと言うと私は思わず声を出してしまう。


「……っえ?」

「ないよ」

「え?」

「大丈夫だって、ほら僕普段料理よりもっと難しい合成とか事やってるから」

「……」


 瑠璃くんは顔をニコニコさせながら言う。


「料理ってアレでしょ? 空気からパン作るやつ!」

「……ハーバー・ボッシュ法⁉︎」


 我ながら何故こんな素早くこんなツッコミができたのか分からないが、嫌な予感に身が震える。


「これはメシマズな予感」

「大丈夫だってほら、『物質操作サブスタンスコントロール』」


 まるで、絵本に出てくるような魔法のノリで瑠璃くんは空気からパンを精製した。正確にいうとERG(エルグ)を糖質に変化させる為にエネルギーを物質として補完し、出来た糖類を有機合成によってパンそのものに復元したのだろう。


 しかし、出来たパンは何故かよく分からない『衝動パトス』のようなものを放っており、パン特有のふわふわな感触そうな見た目では無く、ねちょねちょジャリジャリな見た目のものとなっている。というかもはやそれはパンではなく名状しがたいパンの様なものな気がする。


「……やばい」

「それはもう、見た目からして絶対に不味い!」

「もうっ! そんな事言わずに翠ちゃん食べてよッ!」


 瑠璃くんはそういうと、翠ちゃんの口にその名状しがたいパンの様なものを突っ込んだ。


「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

「あれ、思ってたのと違う」


 翠ちゃんは暫く咀嚼した後、悶える様な声を上げて白目になった後、口からビームみたいなものを上に向かって吐いてから、失神した。というか、どっちかというと嬉しそうな声だった感じがするのが一番怖いところで、このパターンは美味しすぎてぶっ倒れたパターンなんだろうなと思った。


 ……いや、頑張れば人って祖父ししょうみたいにビーム出せるけど、パン食べてビーム出すのは、そういうグルメ漫画とかだけだから……


「……」

「……今日の晩御飯私が作るね」

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