蒲公英病編 36話 会見7
そして時間は現在に戻る。
祖父を追放し終えた私達は、成願大将の拘束も終わらせ、ここへ集まった報道陣、およびこの生中継を見ている一般人への説明を始めた。
「失礼致しました。我々が何故このタイミングでこのようなクーデターを起こしたのか、まず説明をしなければいけません。現在、私達護衛軍は大きく分けて二つの派閥があります。この『特異能力者』の存在を世間に公開する事で裏で彼等の犠牲があったという事実を伝えようとした派閥。もう一方は『特異能力者』の存在が危険かつ倫理的にも問題がある為、世間に公開をやめておこうとした秘匿派です」
青磁先生は席に座るとマイクを持ち一つ一つテレビカメラに目線を合わせて行って、真剣に話す。
「秘匿派の行動理念は『特異能力者』達の存在を秘匿する事で世間から差別されないように、恐怖の対象とならないようにする為です。なので、成願大将はあれだけ必死に我々の存在を秘匿していました。さらに護衛軍のほとんどは私も含め秘匿派でしたが、今回の蒲公英病の影響を受け特効薬を流通させる段階で、どうしても市民の皆様に『特異能力』たる存在をお教えしなければいけなくなった訳なのです」
すると、箱柳くん、もとい記者席に座っていた華奢で病弱そうな若い記者は手を挙げて質問する。
「どうして、蒲公英病の特効薬を流通させる為に、その『特異能力』という力を我々に公開したのですか?」
「それはこの薬が私の『特異能力』によって作られているからです。先程、貴方が質問した『焔』での一件、あれもそこにいる彼女の『特異能力』によって治されたものです。詳しい話は彼女の口から語られるのが一番でしょう」
彼はそういうと私をカメラの前へ呼び、私を中央へと座らせた。果たして、私の顔を全国に写すことによって、樹教がどんな風に行動を起こすかそれも気になるが、まずは目の前で苦しんでいる人々を救い出さなければいけない。
「護衛軍三佐──筒美紅葉です」
やはりざわつく記者達。一番は祖父と同じ筒美の氏を名乗ったから。だが、私が彼等の前に立ってから一度も表情を動かしていないようにしか見えないという事も少なからず理由の一つになるだろう。
「先程追放した、元大将筒美封藤は私の祖父です。そして、私には過去に一度蒲公英病を患った経験があります。先程話が出た『少女A』その正体が私です」
「まさか、元大将の孫娘が『少女A』……⁉︎」
記者席から聞こえてきた驚嘆の声に私は眉一つ動かさず頷く。
「はい。私には生まれながら『特異能力者』の兆候がありました。祖父はそれを無くすわけにはいかなかったので是が非でも臓器移植を強行し、蒲公英病を治療しました。しかし、『自死欲』の衝動に侵され続けた私の身体にはこのような副作用が残りました」
顔を指し、私が表情を出せない事を示す。
嘘と真実、本来の理由とは違う事、ありとあらゆる情報を混ぜながら話す。実際に元々『特異能力者』であった事は本当、しかし、それを無くさない為ではなく、再び『死喰いの樹』の贄として、『自死欲感情生命体』を完全に封印するための人柱を死なせないために私は手術を受けた。そして、『自死欲』の衝動に侵され続けると表情が出せなくなるということも贄に見られる兆候で本当の事なのだが、私が表情を失ったのはまた違う原因である事は自明である。
「……ですが、『特異能力』を覚醒させた今なら他者の蒲公英病も進行を止める事ができます。しかし、完治させる事となると難しくなっていきます」
そういうと青磁先生は事前に打ち合わした通り、この特効薬に関する全ての情報を言う。
「そう、それは私の『特異能力』で作った特効薬も同じで、この特効薬は彼女──紅葉の特異能力をモデルとした現象を再現し、より強力にしたものです。その為、私たちが発表する特効薬はどこまで行っても病の進行を大幅に遅らせるだけなのです」
彼は自分だけでは、今のままでは全ての命を守れないと小さく呟いたのだった。しかし、彼は続けてこうも言う。
「ですがこの病気は感情生命体由来の病原を元になっている為、特効薬に加えて感情生命体に対抗する感情を患者が想う事ができれば絶対に治せます」
私はそれに続き、切実な声を出し、なるべく必死さが伝わるようにこの場に居た記者一人一人と目を合わせながら喋った。
「今、この危機的状況を救えるのは他人を想う感情、他人に寄り添うという感情なのです。ですから、どうか、この放送を見ている皆様一人一人のお力を貸していただけませんか?」




