蒲公英病編 34話 会見5
「これらは『超能力』なんてモノというよりかは、全て我々の考案した技術である事、これまで観測されてきものが我々の人類の力という事を納得していただろうか」
封藤兄貴はあり得ない程の威圧感を放ち、空気を震わせ場に緊張を走らせる。もはやそれは感情生命体の『衝動』に類ずるモノであった。
強制的にでも従わせる気なのだろう。この態度が満点なら俺の態度の方がまだよっぽど可愛く見えてくる。
「納得していただけましたよね? 夕刊新聞社の新人……箱柳勇気さん?」
封藤兄貴は彼の名乗ってすらいない新聞社や名前を言い当て、何か書いてあるであろう一枚の紙をペラペラとさせる。おそらく、ここに来る前に一瞬で彼の個人情報のある会社から取ってきた履歴書か何かだろう。
彼は勿論絶句し、言葉を出すかわりに恐怖表情に出していた。所属している会社はなんとなく分かるにしろ、何処にも個人情報が分かるような外見、特徴はなくむしろ皆マスクをしている為それがより分かりにくい筈であった。つまり、兄貴は誰かの意思が介在した時点でそれが誰か特定できるほど感覚器官が優れているのだ。
これで会場はもはや黙らされ、納得せざる負えない状況。ましてやここで発言しようモノなら、あらゆる手を使ってでも自分の存在が消されてしまうのではないかと、先程の『実演』で直接見せられている。
この生放送を見ている視聴者に対してだってそうだ。現在の撮影機器は ERGを利用したものが多い。この『衝動』も見た全員に伝わっているため現場の空気感も視聴者は理解出来ているだろう。もし兄貴をネット等で匿名で叩いたようなモノなら、どれだけ少ない痕跡からでも自分を探し出されるかもしれないという恐ろしさもある。
もはや兄貴は誰にも発言すらさせないらしい。それ行くなべて解決できるだろう、そう思った瞬間だった。
「オイゴラァぁ! 何、俺様の薬に不信感植え付けとんじゃいクソジジイッ!」
ドアを蹴破ると共に聴こえてきた若い男の罵声。瞬間、彼は封藤兄貴に拘束された。入ってきた男は蒲公英病の特効薬を作った色絵青磁だった。
会場は騒然とするが、兄貴はまるで来ることが分かっていたかのように淡々としゃべる。
「……誰の差金だ?」
「黙れクソジジイ。俺様の独断だ。てめぇは俺の研究無駄にする気かよ。てめぇのやり方じゃ無理だから家保のジジイに頼んだんだよ。意図汲み取れや、この健忘症ッ!」
「……嘘だな。お前をここに連れてきた奴がいる……能力的に翠……いや後二人いるな。一人は紅葉……もう一人は……なるほど……」
瞬間、不意を突くように筒美紅葉と色絵翠が現れる。まず、紅葉が兄貴の身体を手で触り何かしら影響を与えようとした。動けなくなった兄貴は今度は翠に触られ、何処かへ転移させられた。
「これで祖父はしばらくは動けない筈だよ」
「たっく、こんな無茶二度とさせないでよ! 青磁兄さん」
「サンキュー。助かったよ、二人とも」
色絵青磁は立ち上がるとカメラに向かった。それを止めるべく俺は席を立ち上がり、彼を止めにかかる。まさか、あの兄貴がこの二人に足止めされるなんて思いもしなかった。兄貴が事前に危惧していたことはこれかッ!
「オイ、お前らッ! 何やってんだッ!」
「ストップ、校長先生」
だが、瞬時に銃を構えた翠に拘束され、動きを止められる。
「貴方じゃ私達に指一本すら触れられない事くらい分かってるでしょ?」
「クソッ!」
コイツらの目的はなんだ……? まさか……
「全国の皆さん……どうも、この度蒲公英病の特効薬を作成した色絵青磁です。少々見苦しいところを見せてしまいましたが、皆さんに言わなければいけない事があり、『超能力者』を二人使いこの場を制圧致しました」
現場は騒然とする。それはそうだ。何故なら先程までに頑なに否定した『超能力』の存在をそのまま見せたのだから。
「やはり存在していたのか……! 『超能力』はッ!」
「えぇ、我々はこれを特異能力と呼んでいます」
「何やってんだァァァッ!」
そんな事してしまったらもう取り返しが付かない。どうする……特異能力を使ってまでこの事実を隠蔽するか⁉︎
「……まずい。『痛覚支配』」
「ッッッ!」
此方の発動の予備動作に気が付いたのか筒美紅葉が例の能力で遠距離から俺の痛覚を活性化させ行動を縛る。直接手で触らなくても拘束してくるという事は霧咲黄依の『僻遠斬撃』も併用しているのか。
だけど封藤兄貴には直で使っていた。未だに封藤兄貴が来ない事からも直で食らうともっと強烈なものが来るのか。
「……ナイスアシスト。紅葉。そういやコイツが何しでかすか分かんないって、アイツの忠告忘れてたわ」
「大丈夫、保険のために裏で泉沢さんも協力してくれてる。あの状態の祖父なら泉沢さんでも止められるし、手も空いてる筈。きっと私がミスしててもあの人が止めてくれてたから」
「何ッ⁉︎」
まさか、泉沢までもコイツらの企てに参加してるのか……やけに兄貴の復帰が遅い理由もそれか……。
「とりあえず皆さんに説明して青磁先生。出番までは大将のこと監視してるから」
一体何がどうなってやがる……?




