蒲公英病編 33話 会見4
「一方、我々も『超能力者』の存在について調査をしているが未だ有力な情報は出ず、贄や一部の感情生命体が行う現象を『超能力』とするのであれば、必然的に『筒美流奥義』も超能力に近いしいものとなるでしょう。ですが『筒美流』は皆さまの想像している様な魔法ものでもなくただの人間の身体機能であるという事、加えて我々は皆さまがおっしゃる人智を超える様な『超能力』の存在は確認をしておりません」
ある程度の人知の超えた力を認めた上で、それでも我々はその力に関して無知であること、存在を否定する事を言う。
もし特異能力が観測されたとしても一般人には起こっていることや既知の技術との差異が理解できるとは思えない為、此方が知らぬ存ぜぬで通せば全て丸く収まる話であるのだ。
問題はそれがすんなりと民衆に受け入れられるかが問題になってくる。やはり周りの記者の反応は微妙そうであった。
「その発言を証明する事は?」
先程の若い記者は真っ直ぐと見据えた視線で此方を睨みつけた。
『たく、まるで自分が悪者みたいな気分になるじゃないか……結局、人に頼ることになるな』
胸ポケットにしまってあったハンカチに手を当てながら言葉を放つ。
「それは不可の……」
「──その言葉を言う必要は無い。俺が証明する」
瞬間、というには早すぎる刹那。まるで元々そこにいたかの様な立ち振る舞い。別に彼を裏で待機させて訳では無いがもしこうなった時の為、予めサインが出たら瞬時に来る様に中継を見てもらっていたのであった。
一瞬遅れた後、記者たちは後ろを振り向き窓から中に入ってきた男の正体に気付く。
「筒美……封藤……?」
「お久しぶりでございます。国民の皆様」
深くお辞儀をし、席の間をスルスルと抜け彼は私の席の隣にだった。
「中継を拝見していれば現大将は未だ仕事に慣れていない様子……態度も言葉も全て及第点以下。まぁ彼も苦労しているからあまり責めないでやってもらいたいが、次の作戦の件については私も関わらせてもらう為、少々でしゃばらせてもらった」
そう、彼を呼ぶ事になった際には全て彼に花を持たせる事にしてある。
「瞬間移動……⁉︎ やはりあなたは『超能力』を……」
「いいや、これは全て『筒美流』だ。今のはただ『花間』によって間を詰めただけだ」
若者の記者は封藤兄貴の起こした現象について納得のいかない様子や態度がよく見られるが、ある程度歳のとった記者達は彼が生物的にもはやレベルの違う存在である事を知っていた為かやはりあまり驚いた様子は見せなかった。
「しかし……もし、ここまで飛んできたというので有ればあなたは確実に音速を超える様な速度でここに来ている。その抵抗でソニックブームが起きる筈、何故その音が私達に届いていないのですか⁉︎」
急にその記者はSFモノの小説にケチをつける様な物言いをする。勿論、封藤兄貴は『コレ俺が答える事なのか?』と嫌そうな顔をするが仕方なく答える。
「……あれは物体が音速に動く事により空気が振動し衝撃波となる現象だ。俺も攻撃手段の一つとして取り入れてはいるが、残念ながら君は『筒美流』の理解が浅い様だ。納得してもらう為には基礎の基礎から説明させてもらおう」
「……は?」
本当にめんどくさそうに兄貴は喋り出す。
「筒美流の奥義を使う為に必要となるエネルギー、『 ERG』は通常の物体とはかなり異なった性質を持っている。同温・同気圧でも気体・液体・固体の状態と性質を持つ『 ERG』は他の元素とは違う『いくつかの方法』で状態変化をさせる事が可能だ。例えば『 ERG』自体を構成している電子の軌道運動やスピンを加速させると温度が上がり、物質自体は軽くなる傾向にある。逆に減速させると温度が下がり、物質自体が重くなる。基本的には『筒美流』はこれを理解した上で『 ERG』をエネルギー源として、さらに武器として使うのが『筒美流』の本質となってくる」
何故そうなるかまでは解明されてはいなく、正直重箱の角を突く様な内容を兄貴は筒美流の基本原理として語っていく。彼にとっては確かに基本事項なのかもしれないが、大半の修得者は原理云々の前に実践や感覚で覚えていくので知らない人は知らないだろう。
「先の加速は自身の身体を予め元に戻る様にプログラムを組んだ上で『 ERG体』へと置換し、音速・光速を出しても周りに衝撃波が出ないように自分の身体の形状を変化し、そうしてから加速する事で『 ERG』の性質である軽量化を行った。その為、知らない人間から見れば瞬間移動にしか見えないだろう」
彼の発言には一切の嘘は混ざっていない。ちなみにコレは色絵翠の特異能力『物質転移』の元となった技術で、翠の場合コレを支配域を持つ他者や物質に対して行う事ができるから特異能力となるのだ。
正直、こんな事やってる時点で相当なバケモノではあるのだが、それはもう今更なツッコミである。




