蒲公英病編 26話 不治の病の処方箋6
蒲公英病の正体……それが人間同士の関係性、つまり『自分が死んでも助けたいと言うほどの絆』を確かめる為のものであるとするのであれば、感染者にはかけがえの無い存在、又はそれ程までに頼りきっても良い存在が必要となる。
「感染者の家族か……いや、そこまでは必要ないだろう。『焔』の件で完治出来ているので有れば、『痛覚支配』と同じ効果の有る薬に信頼性を持たせ手厚い治療をしてやれば良い」
そこで再び、翠ちゃんが祖父と成願大将を連れて瞬間移動しに戻ってきた。
「ただいま〜」
「ふむ」
「うわっと」
翠ちゃんと祖父はふわっと着地し、大将だけはずっこけてソファに突っ込んだ。
「おお、派手な着地。おかえり、翠ちゃん」
「……丁度いいタイミングでジジイ達が来たな。一人は少々頼りねぇが、これでもこの組織のトップなんだ。力を貸して貰うぜ」
すると大将は立ち上がり、不思議そうな顔をする。
「説明しろ、青磁。このアホ弟子には一から十まで説明してようやく半人前くらいの行動しかできん」
「封藤兄貴ぃ⁉︎ それは酷くないか⁉︎」
「どうせなんで呼ばれたのか、おおよその検討も付いてないんだから黙ってろ」
「いや確かに、分かんないけど……」
すると、青磁先生はまあ良いと良い、今まで話してきた蒲公英病についての事を余計な事は言わずきっちりと筋道を立てて説明した。
「……つまり、蒲公英病の治療法とその薬はできたけど、接種する人間の感情によって効果が違うから治すための環境と薬の信頼度が欲しいから、俺のお墨付きが欲しいってこと?」
「あぁ、というか大々的にメディアで発表してほしい」
当然のように青磁先生は頷いた。
「メディアで……大々的に……うん……は?」
「具体的にいうと全体放送的なそういうの使って会見みたいな事して宣伝して欲しい」
「……へ?」
「豪運ジジイ、なんとかしてくれ」
「おい、待て待て待て待て! 今メディアに護衛軍も国も責められてるの! 北陸を軍人以外出入り禁止にしてロックダウンみたいな事したのに蒲公英病が蔓延したからめっちゃ叩かれてるの! 全体放送なんて多分そもそもさせてくれないよ!」
蒲公英病の一件で護衛軍はかなり感染者を抑えている。それこそ、今頃対策も何も取らずにいたら此方の北陸以外にも広がり、人口のおおよそ1割程……500万人以上が感染していただろう。現実ではその0.1割りも抑え込んでいるのにもかかわらずだ。
やはり護衛軍をよしとしない『焔』の上層部がメディア関係者に繋がっていることやメディアには特異能力者の情報自体を徹底的に洩らさないようにしている事から目の仇にされているのが関係あるだろう。
「家保ゥ……」
すぅぅうと息を吸い込みながら祖父は大将を睨みつけながら彼の名前を呼んだ。
「どしたの? 封藤兄貴」
「やれ」
一瞬、全員が無言になり、大将のあまりの顔芸に噴き出しそうになっていた。
「……話、聴いてた?」
「いいからやれ」
「指示雑じゃない⁉︎ たった6文字の指示とか聞いてないよ⁉︎ これパワー(物理)ハラスメントでしょ⁉︎」
「あ? てめぇ今俺の事、脳味噌に筋肉しか埋まってない馬鹿って言ったか?」
「言ってない! そんな事言ってないから! やります! やればいいんでしょ!」
彼は溜息を吐く。
だが実際、大将以外適任はいなかった。祖父は既に10年前、樹教教祖の祖父として護衛軍を表面上では追放された身だ。いくら、過去の活躍があるからと言っても、この役には適任ではない。開発者である青磁先生にしたってあの性格では無理だ。
「ここまで言うって事は冗談抜きで俺の特異能力で死人が出る可能性もある事を覚悟の上なんだよな」
そして、一番の理由は彼の持っている特異能力によるものが大きい。
暗く、大将がそういうと祖父はそのまま頷いた。
「あぁ、たかが数人。全感染者数よりマシだ」
「……ひでぇ人間だぜ。マジに死人が出ても知らねえぞ。『|欠如と幸運《lack&luck》』」
瞬間、何かしらの干渉を受けたのか空気が震える。これが歴代の特異能力者とはなんら関係性もない血縁者から出た初めての『天然モノ』の特異能力である。
その能力は特異能力に『エゴ』と名前を付けさせた、由来の能力でもある。
「発動した。これで運は俺に味方し『願い』は叶う。何が対価で『願い』が叶うか分からないがな」
『|欠如と幸運《lack&luck》』──他人の不幸を対価に自分のほんの少しの幸運を呼び込む特異能力。犠牲を生なければ発動すらしない最低最弱の能力であり、使い方さえ気をつければ『人の運命』を操る事さえ可能となる特異能力の一つだ。
「他人の不幸は蜜の味……それくらい開き直らなきゃこの特異能力は使えないぜ」




