蒲公英病編 22話 不治の病の処方箋2
青磁先生は両手を挙げ、こっちが悪かったと全力で謝られる。
「これを機に少しは身体鍛えるとか考えたら?」
「そーそー。いくら研究が忙しくても、自分で自分の命くらい守れた方が良いと思うよ? そうすればこうやって馬鹿にされずに済むし」
翠ちゃんは転移で銃を何処かにやると、溜息をつきやれやれと言った。
「おいおい、無茶言ってんじゃねえよ。そもそも、俺様の特異能力は他力本願に加えておんぶに抱っこするレベルじゃないと意味すら無いし、常用すればかなりのリスクがある可能性があるんだぜ? それをいつでも使えるようにして効果を高めたのがDRAGって訳だ。他人を感情生命体にしかねん能力なんて首が飛ぶのが怖くて使えんよ」
カラカラと笑う彼は何処か後悔しているように言い放つ。
「こんな話、どうでもいいんだ。とりあえず今は『蒲公英病病』の治療に専念しなきゃならねぇ」
話を切り替えると、彼は私を指で刺し情報を言う。
「お前のカルテと『痛覚支配』、それに瑠璃のお陰で比較的安全な治療方法はおおかた確立できた」
「ほむ」
私はそれに頷くと共に胸に手を置き、私に戦う力を託して死んでしまった葉書お姉ちゃんと衿華ちゃんに感謝する。
「おおかたってことは、まだ細部で問題がある点があるのかなー?」
「治療の再現性やら認可されるかどうかとかそっちの問題が多いな」
再現性についてはおそらく治療薬を量産する為の手段や量産方法に安定性がないという事なのだろう。つまり、私や瑠璃くんが直接、治療薬を製造するのに関わらなければ『蒲公英病』を治療する事は難しいということになる。
そうなれば、治療薬の普及をする事が困難になる為、現在全人類5000万の0.03%──つまりは約1万5000人以上の(潜伏期間や行方不明者も含む)の『蒲公英病患者』全員を救う事は不可能に近いのである。
更に治療薬の認可は通常、開発の開始から10年以上かかるという事が当たり前である。流石に感染状況が状況なため護衛軍の上層組織である国家政府は認可を下ろすであろうが、役所仕事の人間が専門外である治療薬の認可を出す為には結局医療機関による試験と審査が必要となる為、再び護衛軍に試験実施を依頼するという二度手間になってしまう。
そして、原則として開発者である青磁先生以外の人間による審査や試験という事になる為、特異能力者や感情生命体について理解の無い人間がそれをする可能性がある。それでも多少、青磁先生がこの病院内で信頼や人望の厚い人間ならなんとかできる問題でもあるのだろうけど……
「……青磁先生、他の研究員とは仲は良いの?」
「ははっ、毎日脅迫文と嫉妬とイジメの嵐だったからきっと今頃俺様に夢中でメロメロだぜ」
という訳である。
人から嫌われるのは分かってはいた事だがそれでも絶望的に人望がなさすぎる。手でハートを作ってる場合では無いと突っ込んでやりたいがそれを抑える。
そして、青磁先生が逆に他の研究員から嫌われているとなると薬の認可も降りずらい可能性が高くなってくる。
「マジでなんとかしてよ? 分かってはいると思うけど『蒲公英』を倒したところで症状は無くなるわけでは無いんだから」
「余裕ー余裕ーお爺様のコネをチョチョッと借りたらあいつら全員首飛んだから」
彼はゲラゲラと笑い飛ばし、座っていた椅子を回して、手を猿のように叩きながらくるくると回る。椅子を蹴飛ばしたくなったが、マジでしようと思った。
「解決済みの話かよ! ほんと最低だな!」
「……うん……家族だから庇うけど、夜道に気をつけてねー」
するととんでもないことを言いそうな勢いの大声で比較的まともな答えが帰ってきた。
「あいつらには俺様を襲う覚悟もねーよ、バーカ! ちゃんとそれぞれの能力に見合った再就職先提供してやったわ! そのせいでこっちは寝不足なんだよ!」
意外と手厚い、ハローワーク青磁。
「えぇ……絶対してないと思ってた」
「先生の事だからゲラゲラ笑い飛ばして、『一家総出で首でも吊ってんだろ。まぁでも15000人に比べたらやっすい命だよなぁ⁉︎』って言うと思った。てか、さっきの台詞そうやって脳内変換されてた」
「……お前ら、俺様に対する印象マジで酷くない?」
『いや、ごめん。見直したわ』と心の声は聞こえたが口から出ることなく翠ちゃんと一緒に叫んだ。
「「普段の行いのせいだろ!」」
「あの……お前ら心の声と実際の声逆になってないか?」
「あっごめん、じゃあいつか先生を殴るね」
「一回死喰いの樹に吊るした方がいいんじゃない?」
「素直な意見貰えて俺様とてもカナシイ……」
彼の半音上がった声は私たちを少し苛つかせた。
「んで、本題に戻るが」
「唐突だね」
「黙ってろ。いい加減仕事させてくれ」
いや、それは自分のせいだろとツッコミたくなるがここは抑える。
「で、あらかたの問題は片付けたが、やっぱり厄介なのは再現性をどのように克服するか、そしてどのように『蒲公英病』に発症しているか見分けるかだな」




