第一幕 12話 筒美紅葉と色絵翠2
死角からの弾を防ぎ、隙を突いて攻戦術『花紋』で攻撃を仕掛けたが、転移され避けられてしまう。
「たっく……当たらないか」
「躊躇い過ぎじゃないですか?」
翠ちゃんの姿が見えない。そして周りに何か小さい物を転移された気配がする……だけど確認すると隙を突かれる? だけどこれは何……?
「ただの銃じゃあ攻撃が通らない事が分かりました。なら、今度は集中砲火です」
瞬間、私の周り360度に五つの設置型の重機関銃が置かれる。恐らく、普通の銃に筒美流で強化した時と同じくらいの火力は出るか。
「おいおいおい……まさか自動操縦なんて事無いよね……」
うわぁ……本当に勝手に動き出した。流石にこの数は捌ききれないぞ。逃げ道は上か……? もたもたしていると毎秒100発以上×5の射撃で蜂の巣にされる。ここは逃げの一手しか無いッ!
「それは悪手ですよ」
足を踏み込んだ後嫌な予感が過ったが、既に身体が浮いた直後だった。私の予想ではおおよそ50〜100発位が転移の限界でそれくらいなら空中でも捌き切れるだろうと予想を立てていたが現実は違う。
「全弾転移させたッ!? 」
500発以上の弾丸が周りを囲い、私に向け飛んでくる。
これは不味いッ! 体勢を立て直さないと……
この時、私には二つの選択肢が与えられる。
一つ目は、完全に銃弾を防御する選択。だけど、これの問題点はまだ周囲のERGが身体全体に厚く密着してないため、防御術は急ノ項『鉄樹開花』までしか出せない。それは銃弾は防げるけど全身に防御壁を薄く伸ばしているから、直接叩かれたらその部分の防御壁が崩れて私に攻撃が通り相手の得点になってしまうし、かなりの損傷を喰らうだろう。
二つ目は、早く動く為に防御壁を解き、対人術破ノ項『徒花』で銃弾を察知しながら避けつつ、隙を見つけて翠ちゃんに反撃をする。この選択肢の問題点はどうしても数十発の避けられず全体に大きな損傷を負い、更に相手の得点が大量に入って負けが濃厚になる事だ。が、反撃が成功した時大きな見返りがくる。
でも、駄目だッ! 反撃できるとしたら完全に防御仕切った後でもいい、なら一つ目の方法しか無い!
筒美流奥義防御術急ノ項『鉄樹開花』ッッ!!
数百の弾が私を襲うがそれは弾かれる、そして予想通り私の死角から向かってくる弾と入れ替わりで翠ちゃんが転移してくる。が、予想より早く翠ちゃんが速く動き、構える間も無く蹴り落とされ、床に頭を強打する。
「グぅッ……」
今のは破ノ項『落花』。翠ちゃん、破ノ項まで使えるの……
でも、立たなきゃやられる!
「ハァ……ハァ……」
今の攻撃で防御壁が崩れて、もう一度作り直さないといけない……フラフラする……軽い脳震盪か……立つのが辛くなってきたな……
勝つにはまず、あの重機関銃をどうにかしないと。
ーーなら、もうお姉ちゃんの出番だねーー
「アハァ……」
「どうやら戦闘続行できるみたいですね。ですが、もうふらふらじゃないですか。トドメです。もう一度集中砲火を開始します」
動き出す機関銃。通常ならもう防御も回避も間に合わない。
ーーでもね、今は貴女の中にお姉ちゃんがいるーー
「そうだね」
私の身体が熱くなり、それが周囲にも伝播する。
「熱……? 嫌な予感がします。 早く片をつけましょうか」
そう熱。お姉ちゃんがくれる熱。だぁいすきなお姉ちゃんがくれる熱。この熱が在れば時間なんか要らない。すぐに最終段階まで持って行ける。
「一発撃ち込んだ時点で転移させるので少し痛いですが我慢して下さい。紅葉さん相手だとこちらが手加減できるほど余裕が無いんです」
そして、数百もの弾幕が私を襲う。が、私の身体は微動だにせずそこに留まる。つまりは……
「転移させれない……まさか防ぎましたね!?」
そして、重機関銃を最速で壊す。
「防御壁を纏った状態で私の転移より速く……そして、取り繕っていた物が剥がれたみたいに」
身体が麻薬に付け込まれたみたいに全身から脳汁が出る感覚がする。
「アハハハハッ!!!! お姉ちゃんだ!!!! この感覚!!! あぁ……嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!!! 」
「やっぱり、それが紅葉さん本来の表情……そして、正体。隠しておいて正解ですよそれ……完全に壊れてますから」
「ひどぉいなぁ!!! そんな事言う子にはお仕置きかなぁ!!!」
また銃を出されるが、今度は引き鉄を引く前に距離を詰め翠ちゃんに攻撃する。
「ガハッ!!!」
「あぁ! ごめんね! 痛かったよね! でも、お姉ちゃんと私の関係に対して壊れてるなんて言ってすこぉし私を怒らせたからだよ? ねぇねぇねぇねぇ、私出来ればこんな事したくないから早く諦めて欲しいんだけど。アイツが邪魔しに来るからさ」
「アイツ……?」
すると建物の天井から赤黒い腕が数十本すり抜けて私を捕まえるように襲ってくる。
「あっあれは、『死喰い樹の腕』ッ!? 誰も死んで無いのに」
「あーあ、来ちゃった。ごめんね、流石に巻き込みたく無いから勝負はお預けで」
『死喰い樹の腕』が私を囲む。
「仕方ない、またね。お姉ちゃん」
さっきまで私を包んでいた熱を解くと同時に腕達が行き場を失い返って行く。
「一体何をしたんですか……」
「乙女の秘密には突っ込んじゃいけないんだぞっ!」
場を和ませるように言うと、翠ちゃんが顔を顰める。
「紅葉さん、貴女は本当に非特異能力者なんですか?」
翠ちゃんが言葉を言い終えたと同時に、黄依ちゃん達が部屋入ってくる。
「あんたら、大丈夫? 紅葉はまた無茶をして。でも良くあそこから立て直したわね」
「『死喰い樹の腕』が来た時はびっくりしたよぉ! まぁ何事も無く終わって良かったけど」
「前大将の連絡通りでしたね。彼女が大きな力を使う時何故か『死喰い樹の腕』が引き寄せられるって」
「封藤兄貴もとんでもねぇ奴よこしやがったなぁ! ワハハ」
意外と驚かれていない、というか祖父が私の事、泉沢さん達に伝えていたのか。
「いやぁ、翠ちゃん強かったからさ、流石に全力出すしか無かったの。ヒヤヒヤさせてごめんね。あと結局決着つけられなかったから」
「まぁ、二人とも怪我が無いならそれで良いのよ。ていうか、明らかに最後手加減したでしょ?」
「いや、しーらない」
「あっ逃げんなこら!」
部屋から出ようとすると翠ちゃんに呼び止められる。
「待って下さい!さっきの質問にまだ答えて貰って無いです!」
「うーん、そうだねー。なんて説明したらいいのか分からないから、私のはお姉ちゃんがくれた非特異能力者の力って事にしといて」
「そんな適当な……」
翠ちゃんが納得いかなそうな顔をする。
「分かったよ。交換条件。翠ちゃんの弟くん、瑠璃くんだっけ? その子に会わせてよ。その時話してあげるから」
「でも、それは……」
近くに行き他の人に聴こえないように (泉沢さんには無理かな) 小さい声で伝える。
「本当は護衛軍に入ると寮生活で瑠璃くんに会えなくなるから、入りたく無かったんでしょ? 分かるよ、姉弟で離れ離れになるとすっごい辛いもんね。だから、手加減したの。ねっお願い」
「えっ、なんで分かったんですか」
「舐めないでよ、私女の子の事なら大体分かるから」
振り返り、再びドアの方に歩く。
「じゃっまたねー」
私は訓練室を後にした。