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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act four <第四幕> Dandelion──花言葉は別離
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蒲公英病編 10話 発生源追跡任務10

 これから私達が接触するであろう感情生命体エスター、『蒲公英ダンデライオン』がどのような能力を持っていて、どのような生態を持つのかおおよそ判明した。これは大きな情報だ。


「それで知りたい事はわかったのかしら?」

「はい、貴重な情報ありがとうございます」


 この事を後続で来る殲滅隊の本隊と護衛軍本部へ連絡する。


「整理できる情報は大体揃いましたわね。やり残したことも特にもうございませんし、私達はそろそろ樹海の方へ入らさせていただきますわね」

「ええ、気をつけるのよ」


 管理人さんは私達を心配するように声をかけたあと、樹海へと続く扉へ私たちを案内する。準備運動をし、私は筒美流奥義の一つである対人術破ノ項『花香かこう』、薔薇ばらは急ノ項『花触はなぶれ』を発動させる。


 そして私達は『自殺志願者の楽園(ユートピア)』へと突入する。


 人の顔の模様に見える樹木が日の光を遮るかのように当たり一面は暗いが、これは樹海の中心部にある『死喰い(タナトス)の樹』の影響によるところが多く、実際には光が遮られている訳では無く、その影響により視界が歪んでいるためである。よって至近距離以外では視界は頼りにならず、大きく索敵するにはまずは音を聴くことが大事になってくる。


 しかし、封藤ふうとう氏曰く樹海の中には音すらも歪ませる空間があるとの事で、聴覚すら完全に頼りにして良い訳では無いらしい。だから、私は視覚、聴覚、嗅覚を強化する『花香』を、薔薇は『花香』に加えて触覚を強化する『花触』を発動させたのだ。加えて薔薇は前方方向にのみに絞り『花触』を発動させる事でより、索敵範囲を広げ封藤氏や紅葉もみじ程とはいかないがかなり広範囲で索敵を可能とさせている。逆に私は後方にのみ警戒を走らせる。


 風で木々の葉っぱが揺れる音、足が土に触れる音、私と薔薇の息遣い。自然の匂い、腐葉土の匂い、微かだが人の死臭もする。


 そして、天を貫く『死喰い(タナトス)の樹』に近づけば近づくほど、『自殺』という言葉が頭を徐々に犯していくようになる。私達、特異能力者エゴイストや『筒美流奥義』を習得した人間にとってはほぼ効果の無いものではあるが、それでもその『衝動パトス』が感じられるという事はそれだけで強力なものというこも確かだ。一般人が踏み込んだだけで希死念慮に囚われてしまうというのも頷く事ができる。


「先方3キロメートル異常有りませんわ」

「後方にも私達を追ってくる気配は無い。このまましらみ潰しに探すわよ」


 私達は一定の距離を保ち互いに前後を警戒しながら周辺を索敵し、『速度累加アクセラレーション』による加速で音速で動き続ける。この特異能力エゴがエネルギー効率が良かったのが幸いし、あと20分なら探索する事ができる。それに、喉から出る音の伝わる速度を加速させる事で、自分たちにだけに聞こえるように情報を共有する事ができる。これなら相手にも感づかれず、おおよその位置を索敵する事ができる。


 だが、ここで問題となってくるのが私たちの現在位置についてである。『死喰い(タナトス)の樹』による影響なのか、この樹海自体の性質なのか分からないが、方位磁石や通信機器、その他一切の電子機器による通信が不可能なのだ。その為、逆に『死喰い(タナトス)の樹』と現在の時刻、そして太陽の位置を目印にする事で方角を確証させる他無いのである。だが、空間を歪める樹木で覆われたこの場所では太陽の位置を正確に判断する事は出来ない。


「一度、上から現在位置を確認しますわよ」

「了解」


 薔薇は木の枝が曲がるほど強く踏み込むと上へ向かって大きく飛ぶ。40〜50メートルある木々を軽く飛び越え木の生えていない上空へ行ったのだ。


「……異常有りませんわ。進行方向の右斜め後ろ側に『死喰い(タナトス)の樹』及び旧富士山、左斜め後ろ側に太陽が見えましたわ。現在時刻は午後2時なのでおそらく、旧青木ヶ原樹海周辺と思われますわ。ただ、これ以上上昇すると『死喰い樹(タナトス)の腕』と接触する可能性が有りますのでもう現在位置は確認できませんわ」


 薔薇は即座に端末で地図を開きながら再び木の枝に着地し、走りながら現在位置を照合する。この場所での迅速な判断と仕事、あれだけの啖呵を切っただけの事はある。


 そんな事をふと思った瞬間だった。私達はほぼ同時に同じ方向を向く。私はなんとなく気配を感じたから行った行動だったが薔薇は何かを確信した様子でそちらを見た。


「『婢僕サーバント』ッ……!」

「何ッ⁉︎」


 目視出来るほど大きさ、左斜め前方10メートル先に突如として複数の小さな赤黒い蒲公英が乱れ咲く。そして、その花一つ一つが私たちの動きを追うように見ていたのだった。

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