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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act four <第四幕> Dandelion──花言葉は別離
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蒲公英病編 9話 発生源追跡任務9

 薔薇ばらはその質問に少し反応し、此方の様子を伺う。私は少し頭の中で言葉を作った後、なるべく事実を含ませながら嘘を言うことにした。


 理由は勿論、秘密保持と安全の為だ。唯の人間だった紅葉が特異能力者エゴイストになったなんて知れたら、自分だって特異能力者エゴイストになりたいという人間も出てきてしまう。それに乗じて、さまざまな科学者が非人道的な実験を裏で行うようになる。あれは紅葉であったから起こり得た奇跡で、他の人間がやろうものなら即座に感情生命体エスターになるだろう。


紅葉もみじ……? 元大将の孫娘の筒美つつみ紅葉のことでしょうか?」

「えぇ……その様子だと、顔くらいしか見た事無いって感じよね」

「……そうですね。私達みたいな特殊なケースは一般の軍人とはあまり関わらないですし……」


 私がそういうと薔薇はそれに合わせたように指を鳴らしほんの少しだけ稲妻を走らせ、ごく小規模の爆発を起こす。


「管理人さんは護衛軍本部の幹部に在籍する超能力者についてご存知ですか? 私達はその特殊能力を持った軍人なのです。だから、一般の軍人達とは別の扱い方をされ、関わる事が少ないのです」

「わっ! びっくりしたぁ……まさか本当にあったとはねぇ……これが噂に聞く超能力って奴なんだねぇ……」


 彼女は目を輝かせながら私たちの方を向く。たとえ普段から『筒美流奥義』に触れていたとしても、こういう目の対象になるのは分かっていたが、致し方ない。紅葉の為だ。


 だが地方勤務となるとやはり、特異能力エゴについて詳しくは知らされていない人も多いのだろう。特異能力エゴについては通常時秘密裏の存在であるが、明確に護衛軍の規則で決まっているという訳ではない為、任務の遂行に必要であるのなら弁えた上である程度の情報開示が許されている。


「それで、その筒美紅葉の事なのですが、彼女が何かしたのですか?」

「あっいや、違うのよ。最近たまたま会ってね、前に会った時とは様子も全然違っていたから、心配になっただけよ。知らないなら良いわ」


 ──あの『恐怖スキャーリィ』の一件以来紅葉は感情を表に出す手段を失くしてしまった。それは一般の人間が見てもおかしいと思ってしまう程の変化に見えるし、それが何かしら人智を超えた力によって引き起こされたのではないかと思ったのだろう。


「そうですか、ちなみにどんな感じに変わったのかお教え頂いてもよろしいですか? 感情生命体エスター化の傾向があるのであれば私から本部の方へ伝えますが」


 勿論、これは事情を踏まえた上で本来の立場の人間なら言いそうな台詞だ。護衛軍内では様子のおかしい人間がいれば感情生命体エスターになりつつある可能性もあるのではないかと疑う場合も多い。別に紅葉が感情生命体エスターになりそうにない事位分かってはいるが、彼女の為に嘘をついた以上、筋を通さなければというものである。


「えっ? あぁ……いやそんな大事おおごとじゃなくてね。まぁ、大事おおごとだけど……あの子ね、表情が出せなくなっていたの」

「……ほう」

「へぇ……」


 私達はさも、今聴いたばかりの話のようなフリをして彼女の話を聴き続けた。


「長話になっちゃってごめんなさいね」

「いえ、万が一も有りますし問題ありません」


 特に新しい情報など無く、紅葉は実家に向かって行ったという事を聞いた。


「それで、『蒲公英病』の調査でここに来たのよね」

「はい、そうですわ」

「先程、原因となる感情生命体エスターの『婢僕サーバント』に襲われました。知性をある程度残しており、人間に擬態もできるみたいです。それについて何か知っている事はありますか?」


 それを聞くと彼女は驚き、少し考える。そのあと口を開き、思い当たる節を述べた。


「いいえ、無いわよ。……だけど、ここ二週間前まで丁度『蒲公英病』が流行る前の事なのだけど、普段より感触的に多くの人が沙羅しゃら様に会いたいとこの関所に訪れていたわ。一般人だけでは無く、メディアまでもね。勿論、関所は紅葉ちゃん以外には通していないわ。でも、そのあとここに訪れていた人が数人、行方が分からないって問い合わせがここに来たの。私達は、無理矢理関所を通さずに樹海へ入ってしまったんじゃないかなって結論を付けたのだけど……」

「なるほど……」

「それだと、『蒲公英ダンデライオン』か『自死欲タナトス』の『衝動パトス』に心を操られ、『婢僕サーバント』にされた可能性は高いですわね」


 だから、先程の『婢僕サーバント』が『特異能力者エゴイスト』と発言した件について、何故それが出来たか可能性が絞れてくる。


 一つは操られた一般人が『特異能力者エゴイスト』という言葉をたまたま知っていた。それ故にその身体が生体反応的に私達の起こした現象を見て、言葉に発したという可能性。だがしかしこれは……


「管理人さん、『特異能力者エゴイスト』の意味知っていますか?」

「うーん、あんまり無くなった言葉について詳しく無いのよね。……『自分勝手な人』って意味だったかしら?」

「ええ、そうですわね」

「それがどうかしたの?」

「いえ、ただ調べたい事があって……」


 ……やはり、護衛軍に勤めている人間でも、この単語について知らない。であるならば、メディア……ましてや一般人が『特異能力者エゴイスト』の本来の意味を知っている可能性なんてほぼないだろう。


 これを確かめるためにあえて彼女に特異能力エゴを見せた。


 そして、先程『婢僕サーバント』が『特異能力者エゴイスト』と発言した理由がほぼ確定する。


 元々、『蒲公英ダンデライオン』本体が筒美封筒(ふうとう)氏という強者から逃れる為の並外れた生存本能を持ち合わせているのは分かっていた。


 しかし、この確認のお陰で『蒲公英ダンデライオン』がかなりの知性と言語能力、そして特異能力者エゴイストという存在についての知識を持った感情生命体エスターである可能性が出てきた。加えて、その知識を『婢僕サーバント』と共有、またその逆も行える可能性すらある。


 つまり、『蒲公英ダンデライオン』には私達の接近と能力が既に知られている可能性が有る。


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