蒲公英病編 8話 発生源追跡任務8
明らかに人間の力とは思えないほどの握力で腕が拘束される。
「ッ⁉︎」
「捕まえたぁ〜!」
「キミの人生これでおしまい〜!」
「早くラリって僕達の仲間になろうよ笑笑」
私の腕に注射針が迫りくる。あれを打ち込まれたら、いくら私達『特異能力者』でも不味い事は分かる。だが、コイツらが人でない訳ではない確証が得られない以上殺す事は出来ない。
なら───『速度累加』────ッ!
「『水素爆発』」
瞬間、薔薇は躊躇う事もせず、彼女の腕を掴んでいる男と私に針を刺そうとした男を私達が巻き込まれない程度に木っ端微塵に爆発させた。
「なっ……! あんた、なんで殺したッ⁉︎」
「霧咲さんッ! 早くその『婢僕』から離れて下さいまし!」
「クソッ! 『特異能力者』かッ!」
すると私を拘束していた男は凄まじいほどの熱量を発すると細胞をボコボコとさせ身体を大きくさせる。肥大化した細胞は今にも破裂し一体へ散布されそうであった。
「こうなれば諸共、『衝動』で感染させてやるッ!」
「ッ⁉︎ ……そういう事。なら加減は要らないわね」
肘で男の身体を少し押す。そして『速度累加』による加速で男は空中へ吹き飛ばされる。
「『雷轟電撃』──雷槍ッ!」
薔薇は両手からバチバチと電撃状の巨大な矢を作りそれを男めがけて投擲する。矢が空気中を進むたび加速し、水蒸気や酸素、水素を分解、吸収しより巨大な矢へと変わっていく。
そして、矢が男に刺さり飲み込まれた瞬間、内部から木っ端微塵となり、破裂する前に全てを焼き尽くした。
「ふぅ……良かったですわ……あの方達を無視していれば危うく、東海地方にまで『蒲公英病』が広がるところでしたわ……」
薔薇は一息つく。
「ちゃんと連携してくれて良かったですわ。ありがとうございまし、霧咲さん」
彼女は此方に笑いかける。だが、反対に私は最後まで彼らの正体に気付く事はできなかった。薔薇の迅速な判断が無ければ不味かったのは私の方だろう。
「アンタ……いつからあいつらが『蒲公英』の『婢僕』だって気付いてた?」
その質問を彼女に対してぶつけると、少し困った顔をした後何かを誤魔化すように笑って答えた。
「……注射器を出した辺りですわよ」
違う、薔薇は最初から気付いてた。これ以上『蒲公英病』の感染が広がらないようにあいつらの正体をまず見極めようとしたんだ。だからあえて引き伸ばすように彼らに対して長く話していたし、私に状況を説明しようとしていた。そして、世間知らずなふりをして自分語りまでしていた。
その時、私は薔薇に対して何を思っていた? 恥ずかしいだとか、世間知らずだとか、馬鹿だとか……
馬鹿なのはこっちじゃないか。挙げ句の果てには気まで遣われて……
本当、コイツと一緒に居ると自分の馬鹿さ加減に嫌になる。
「……助かったわ」
「……えっ?」
「だから! 助かったって言ったの! 二度も同じ事言わせないで!」
「えっ……あっ……はい!」
何故か嬉しそうに頷く薔薇。
『私だって、あの時のことアンタに悪いって思ってるのに、そんな表情されたら……まるでこっちが完全に悪者みたいで……辛いじゃない』
今まで彼女に対して言いたくても言えなかった言葉。自身の矜持が邪魔をして言えなかった言葉が喉まで出ようとしたが、そのまま心の奥へと帰っていってしまった。
そのまま気まずくなり、無言で立ち上がり関所の方へ向かう。彼女はそのまま、嬉しそうに後からついて来る。
やっぱりこの女の事理解する事が未だできないが、ほんの少しだけあの時の彼女に対する対応、謝るべきじゃないかと考えはじめた。
数分歩くと関所が見えた。流石に病が流行っているご時世、贄に関する事で報道人達が群がっているという事はなかったが、それでも数人はいた。すぐ確認だけをして樹海の中に入るのでもいいが、先程遭遇した『婢僕』の事もあるし、少し事情聴取をする必要があると感じた私はここの管理者と少し話をする事にした。
出てきたのは50代位の女性であった。ここの管理人を務めているくらいだからそれ相応くらいに雰囲気があり、女性に対して失礼だがこれで煙草など吸っていたら山賊のボスと言われても過言ではないかのような人だった。
「それで、アンタ達が『蒲公英病』の調査の件で本部から派遣された軍人かしら?」
お菓子とお茶を囲み、私たちは机に座らされる。
「はい、本部から来ました一尉官の霧咲です」
「同じく、二尉官の水仙ですわ」
「へぇ……こんな若い子達が尉官なんてねぇ……わざわざ遠路遥々ご苦労様」
煎餅をバリバリと食べお茶を啜りながら彼女は私たちに問う。
「もしかして、アンタら紅葉ちゃんのお友達?」




