蒲公英病編 7話 発生源追跡任務7
電車に揺られて数時間、微妙に離れた席に座りながら私は薔薇と共に『自殺志願者の楽園』へと来た。目的である終点の駅に着くと私たちは着かず離れずといった距離で関所へと向かって行く。
すると、チンピラらしき3人組にナンパをされかけたが無視すると、すぐ諦めて後ろにいた薔薇の方へと寄っていった。だが、薔薇の対応の仕方があまりにも酷く、そのまま何処かに連れて行かれそうになっていた為、仕方なくそこへ割って入った。
「水仙薔薇……さっさと行くわよ」
「まっ待って下さいまし、霧咲さん! この方達どうやら、え……」
「いいから、行くわよ」
ここは幼稚園児でも知っているような立ち入り禁止区域の近く。ここに用事があって来るような人間が居るとすれば、私達のような護衛軍か、本当に自殺に来た人間。もしくは自殺をするような人間に声を掛け詐欺紛いの事をする性根の腐った奴らしか居ない。私達護衛軍の人間ならまだしも、彼等はそれらしき制服も着ていない。なら後者の二つであることは間違い無いだろう。そして、そいつらの道案内をする事は自殺を助長させるか、騙されに行くかこの二択である。
「ねーねーさっき無視してくれたおねーさん、この子は道案内してくれるって言うから別にいいじゃん」
大学生くらいのその男は顔を二チャリとさせながらこっちに話しかける。それに続くように残り二人の男達も私を囲むように話しかける。
「それとも〜おねーさん、実は寂しがりやだったりするのかなぁ〜」
「おねーさんモデルさんみたいにスタイルいいよね笑笑」
一応、私達は護衛軍の制服着てる。なんで気付かれないんだろと思いつつ、対応もめんどくさいし、薔薇なんて助けるんじゃ無かったと後悔する。
私の口から溜息が溢れる。すると、薔薇がまたもや余計な事を口にする。
「貴方様方が道に迷っている事と霧咲さんの体型って何か関係性がありますの?」
「あ"?」
あまりの状況理解能力の無さに思わず怒りのあまり口から濁った声が出てしまった。そして、薔薇はチンピラ達に笑われる。
「あはは〜キミ面白いね〜もしかして自分たちがナンパされていることに気が付いて無い?」
「顔や言葉遣いはいい割に頭の中身はポンコツなんだね〜」
「ちょっとお前言い過ぎ〜笑笑」
この場にいる全員殴り倒したくなるが、今から任務だし気を遣ってる体力はない。面倒だ。本当に面倒だ。頼むからこれ以上余計な事は言わないでくれ。
「ナンパってどういう意味ですの?」
やっぱりこうなると思った。本当、話の通じ合わない馬鹿とは喋りたくない。
頭を抱えながら私は溜息を吐く。
「……マジかよ。どんだけ世間知らずなんだよこの子」
「あのね〜ナンパっていうのはね〜こうやって初対面の異性を口説く事を言うんだけど〜」
「これだけ世間知らずだと逆にビックリするよね笑笑」
すると薔薇はしばらく俯いて考え込み私の方を見た後、口を開いた。
「ご好意は嬉しいですが、お断りしますわ」
「……えっ?」
「……はっ?」
「どゆこと? 俺たちなんか振られちゃったんだけど笑笑」
「……私には心に決めた人がいますの。ですから貴方達の気持ち受け取る事はできませんわ」
本当に恋する乙女のように、目を輝かせながらこちらの方向を見る彼女に羞恥心を覚えた私は頭が痛くなってきた。恐らく、コイツも私と同様に白夜くんの事が好きなのだろう。
だが、チンピラ達は露骨に怒りが顔に出し始め、ついに薔薇を連れて行こうと手を掴んだ。私の腕を掴もうした奴の手はちゃんと払った。
「そういうのどうでもいいから、さっさとついてこいって言ってんだよ、このアマ」
「なんつうかさ、しらけちゃったよね〜」
「女二人で男三人に勝てると思ってるの? 笑笑」
それでもまだ表情を崩さない薔薇は彼らがまだ道に迷っている青年達だと思い会話し続ける。
「そういえば、道に迷っていたんでしたわよね。何処へ行きたいんですの? 私でよければご案内しますわよ?」
三人組は袖に忍び込ませていた注射器を手に取る。恐らく、鎮静剤もしくはモルヒネ等の麻薬類だろうか。『蒲公英病』の痛み止めとしてオピオイド系の薬が処方されているから、そこから精製したのだろう。とにかく、あれが違法薬物であるなら私達でも捕まえられる。こんなあからさまに護衛軍である私たちに手を出そうとしたのが運のつきだったという訳だ。
そんな事を考えていた瞬間、彼らの雰囲気が変わる。
「マジうぜえ、さっさとクスリ打って犯して感染させようぜ」
「ヤレば移っちゃうからさぁ! キミたちもこの病気になっちゃおうよ〜」
「あーあー僕達を怒らせちゃったのが運のつきだったね。でもこれすっごく気持ちいいから命まで飛んじゃうよ笑笑」
彼らは人間ではあり得ない速度で私の腕を掴む。油断した私は思わぬ速さに腕を拘束された。
「何ッ⁉︎」
コイツらまさか、人間じゃない……?




