蒲公英病編 6話 発生源追跡任務6
「アンタ、正気なの?」
今まで、私と喧嘩してきた事を引け目に感じ、なるべく関わらないようにしてきた薔薇が、事実上私にしか出来ない任務についてくると言った。彼女の性格を考えると意外には思わなかったが、今までとは全く異なる行動をしたため、ついに頭がイカれたのかと思いつい言葉がでてしまった。
それに反応してか、薔薇は表情を曇らせるが私を無視し封藤氏に返答を求めた。すると彼はこちらを見て私に質問する。
「……霧咲さん、君なら『衝動』の発生源を追跡できるのか?」
「ええ、恐らくその発信機さえ頂ければ一人でも」
プライドを持たずこんな女と拙い連携をするよりかは、一人でやった方がいいと自分に言い聞かせ、あえてそれを口に出した。
するとまた、薔薇の眉毛がピクっと動いた。封藤氏は眉を顰めて周りの様子を見た後、しばらく黙り込み私の返答に応えた。
「……護衛軍の任務に私情を持ち込むのは良くないが、正直俺が言えた事じゃない。お前らの事情首を突っ込む気は無いが分かるやつ判断してくれないか?」
至って真剣そうに彼は言うが、その困っている様子を見て天照大将補と成願家保は思わず吹き出していた。
「あの鬼の筒美も女の子の対立にはそうなっちゃうんだ」
「相変わらずこう言う話題に弱えな、兄貴は」
「笑い事じゃ無いだろ……」
封藤氏は声を吃らせる。本当にこう言う人間関係的な話題は苦手なようだった。そういえば紅葉も一時期、彼の放った一言のせいで彼と仲が険悪だったとかなんとか。
だが流石に私も大勢の人の命がかかっている任務に私情を持ち込む気は無かったし、薔薇への皮肉で言ったつもりであったのだが、上司に迷惑をかけてまでプライドを持つことはしない。
「……大丈夫です。任務なら折り合いは付けますよ」
自分が迷惑をかけているのだから、封藤氏が悪いわけでない。だから自分があえて嫌われるような事を言う。
これは私が薔薇と普通に話せば良いだけの話。
「……そう、なら良いけど」
天照大将補は溜息を吐きながら言う。薔薇は少しだけ顔を明るくさせるが、相変わらずアイツが何を考えているか理解できない。だが、確かに一人で『自殺志願者の楽園』に行くのは命がいくつあっても拒みたい事だ。現在、いくら封藤氏によって感情生命体の温床になっていないからといって、視界や聴覚がまともに機能しないという事は一度も行ったことの無い私でも危険性くらいわかる。
そういうことも踏まえて薔薇は表情を明るくさせたのだろう。あいつも流石に私の事を嫌っている様子ではあるし。
「ならば、霧咲黄依さん、水仙薔薇さん、準備が出来次第直ぐにでも出発してもらってもいいか?」
「ええ、もちろんですわ」
「了解です」
薔薇は頼って貰えて嬉しそうに、ドヤ顔気味に封藤氏に応えた。何処からそんな自身が湧いてくるのだろうか。今から相手するのは、封藤氏ですら追えない感情生命体なのに。
「……意気込むのは良いが、張り切りすぎるなよ? 最悪失敗しても問題ない、自分の命が危ないと判断したら直ぐにでも離脱してくれよ?」
成願大将はそんな薔薇を見て笑いながら答えた。
「ええ、心得ていますわ。その時は離脱の手伝い霧咲さんによろしく頼みましたわよ?」
薔薇は私に笑いかけて聴いてくる。
「っ……えぇ……まぁ……」
あれ……? コイツ、こんな顔も出来るんだ。
そんな顔をされる事があまりに不慣れでこの場に不相応だった為、返答に詰まってしまった。
「じゃあこれで会議は終わりだ。発信機が『蒲公英』に刺さり次第、俺が奴を即座に倒しに行く。頼んだぞ、二人とも」
「……はい」
「承知致しましたわ!」
薔薇への違和感が拭えないまま上の空になってしまった私は封藤氏の話に空返事で答えてしまった。
「霧咲さん、正門でお待ちしていますわね」
「えっ……えぇ……」
なんだ……この違和感は。まるで、薔薇が私に笑いかけたみたいな。いや、そんな事、私たちの関係性である訳がない。
何か、企んでいるのか……?
そのまま嬉しそうに部屋を出て行く彼女。これから死ぬかもしれない任務に出るのに、何であんな顔ができるんだ。
私は薔薇の様子について疑心暗鬼になりながら会議室を出た。
朝柊など私に関しての仕事を任せている人物に任務へ行く事を伝え、今でも病院に収容されている母親の顔を覗いた後、彼女と待ち合わせをした正門へ向かった。
そして、何も会話がないまま『自殺志願者の楽園』まで向かった。




